ネイル落としのスペシャリスト、アセトンはどんな成分なの?

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ネイルは綺麗だけど、落とすのが大変!

 私達は「私」をより素敵に魅せるために日々、メイクやネイルに勤しみます。入念なスキンケアでしっとり艶やかな肌を手に入れていても、仕事や恋愛、家庭生活に自信を持っていても、メイクやネイルには私達をもう少しだけ輝かせる、自身を持たせる効果を持っています。仕事場や家族との時間ではナチュラルな色味、恋や遊びに励みたいときはビビットな色味と、シチュエーションに合わせて使い分けることも可能で、メイクやネイルをするだけでスイッチが入る、という方も多いのではないでしょうか。

 しかし、メイクやネイルを落とすのは結構大変です。メイクはクレンジングや洗顔フォームで落とすことができますが、しっかりと爪に塗られたマニキュアは摩擦で少しずつ剥がれてきても、石鹸やウェットティッシュではほとんど落ちません。落とす為には専用のリムーバー(除光液)が必要になりますが、リムーバーには他の化粧品ではないような独特の臭いやひんやりとした使用感があり、皮膚につくと皮脂が無くなったように感じられます。一体、どんな成分が使われているのでしょうか。

ネイル落としのスペシャリスト、アセトン

 リムーバーには幾つかの成分が使用されていますが、ネイルを落とす目的で特に重要なものは「アセトン」です。アセトンはリムーバーに特徴的な成分で、ネイル等の油性成分を「取り除く」役割を担っています。油性成分を取り除く成分としては他にエタノールや高級アルコール等の界面活性剤等が有名で、身体に付着した皮脂や汚れ、あるいはメイクを適度に落としますが、アセトンの効果は一般的に汚れを落とす作用が強いと言われているラウリル硫酸ナトリウムやラウリル硫酸ナトリウムをはるかに上回り、ニトロセルロースのような安定した皮膜をも取り除きます。

また、アセトンの「取り除く」効果は安定かつ汎用性が高いため、化粧品以外の分野でも用いられています。化学の実験や分析で有機成分を扱う作業を行った場合、水や中性洗剤だけでは付着した成分を落としきれないため、アセトンを使って洗浄を行います。また、あらゆる工業製品に使用されている半導体等の電子部品では油脂等の不純物がショートや誤作動の原因となるため、製造工程の中でアセトンによる洗浄が行われます。

アセトンはどうしてネイルを溶かすの?

 では、どうしてアセトンは「取り除く」性能に優れているのでしょうか。実はアセトンは「非常に油に溶けやすく、なおかつ水にも溶けやすい」といった珍しい性質を持っています。アセトンの化学式はC3H6Oで表されますが、構造内にメチル基と呼ばれる油と馴染みやすい部分を左右対称に2つ、ケトン基もしくはカルボキシル基と呼ばれる水と馴染みやすい部分を1つ持っています。油と馴染みやすい部分、水と馴染みやすい部分の両方を持った構造はエタノールや界面活性剤にも共通していますが、アセトンはそれ自体の分子量がとりわけ小さいため、大きな分子であっても溶かし込むことが可能です。

 また、ネイルの主成分はアクリル樹脂とニトロセルロースですが、これらの樹脂は水に強く、界面活性剤やアルコール等にも比較的溶けにくい特徴を持っています。(ネイルを落とす目的で使用した場合、十分に落ちなかったり、中途半端に浮いたりしてしまいます)一方、アクリル樹脂等と同じケトン基やメチル基といった共通の構造を持ったアセトンはそれらの成分を溶かしやすいため、リムーバーとして大変適しています。

アセトンと似たような成分はあるの?

 アセトン以外にリムーバーとして用いられている成分としては酢酸エチルが挙げられます。酢酸エチルはアセトンと同様に水に馴染みやすいケトン基と油と馴染みやすいメチル基等の構造を持ち、アルコールよりもアクリル樹脂を良く溶かします。また、アセトンと同様にさらさらとした液体の為、爪への塗りやすさにも優れています。

 しかし、アセトンと比較した場合、化粧品としての使い心地の面でやや劣っています。酢酸エチルはアクリル樹脂やニトロセルロースを溶かす性能でアセトンに及ばず、また、アセトンの匂いは特有の甘さがあり、他の成分と併用する形で食品香料としても用いられますが、酢酸エチルに関しては鼻をつくような臭いでとても心地よいとは言えません。爪や肌への刺激に関してもアセトンよりも弱いとは言い切れず(やや低刺激ではあるのですが、「落としにくい」ため長時間の使用が必要です)、必ずしもお勧めはできません。

 また、酢酸エチル以外では炭酸プロピレンが使用されることがあり、こちらは肌への刺激も低く酢酸エチルのような刺激臭もありませんが、ネイルを落としにくく、リムーバーとしての使い勝手に劣ります。

アセトンを使う時はどんなことに注意すればいいの?

ネイルを「取り除く」機能に優れているアセトンですが、時に刺激性の強い成分として避けられることがあります。どうしてなのでしょうか。

 アセトンは確かに「取り除く」機能に優れていますが、それは同時に「必要以上の皮脂を取り除く」ことを意味しています。石油系シャンプーの使用が頭皮のコンディション次第で悪影響を及ぼすように、アセトンを使用することで肌にとって必要な皮脂までもが取り除かれてしまい、爪や肌を外の刺激から守りづらくなってしまいます。また、アセトンには水分をも取り除いてしまう作用があるため、肌に必要な水分が失われ、肌荒れの原因となってしまいます。

 そこで、使用後はアセトンによって失われた皮脂や水分を補うことが必要です。化粧水やハンドクリームにも効果は期待できますが、爪周りのケアに特化したキューティクルオイルといった製品が存在し、使用することによって爪や爪の生え際を保護することが可能です。また、爪や肌を守ることを考えた場合、あえて毎日ネイルを落とさないことも必要です。ネイルが剥げてきてしまった、ビジネスとプライベートの切り替えが必要、といったタイミングで落とすと良いでしょう。

 皮脂や水分を失わないよう多少の注意が必要ですが、アセトンは貴方の指先を華やかに彩る上で欠かせない、とても便利な成分です。何となく避けていた方もいらっしゃるかもしれませんが、その働きについて正しく理解し、適度に利用してみてはいかがでしょうか。

 

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