化粧品と石油、そのあまりにも深い関係

成分

「石油系」の「化粧品」?

 貴方は化粧品がどんな原料からできているかご存知でしょうか。化粧品の容器や箱には様々な成分が書かれていますが、それがどんな原料に由来するかまでは教えてくれません。しかし、そんな中でも「石油」が化粧品に使われていることはご存知の方が多いのではないでしょうか。美容に関する記事を読むと、「石油系界面活性剤」、「石油系シャンプー」といった言葉をよく目にします。「石油系」という言葉は1つ、あるいはごく限られた種類の成分を指すのではなく、石油から合成された成分が利用されている製品の総称として、一般的に用いられています。

 そしてこの「石油系」という言葉ですが、化粧品の世界ではネガティブな意味で使われることが多いです。シャンプーがその良い例ですが、天然の油脂やアミノ酸由来の原料を使って「丁寧に作られた」アミノ酸シャンプーに対して、「工場で大量生産された」石油系シャンプーは刺激が強く、髪や地肌にダメージを与えてしまう存在として紹介されています。しかし、ドラッグストアやデパートで買うことができる製品の大半は「石油系」の成分が使われているのも事実で、多くの人はそれを日々利用しています。どうして石油は多くの化粧品に利用されているのでしょうか。

そもそも石油とはどんな物質なの?どんな化粧品成分が含まれているの?

 そもそも石油とはどんな物質なのでしょうか。狭義の石油(原油)とは黒褐色の粘性のある液体で、植物プランクトンなどの死骸が長い時間をかけて堆積し、分解、液化されることによって生成されます。石油は水やエタノールといった単一の成分を指すのではなく、「炭化水素」と総称される様々な成分によって構成されており、構造による沸点の違いを利用した「分留」「精製」と呼ばれる工程を経ることによって分離することができます。

 「炭化水素」の中には化粧品にそのまま使われている成分も存在します。ハンドクリームなどでお馴染みのワセリンやリップスティックなどに用いられているマイクロクリスタリンワックスは石油から得られる化粧品成分の代表例で、石油の成分の中でも沸点が比較的高い、重油を精製、脱色することによって得ることができます。また、ヘアスプレーなどに利用されているLPGは石油の成分の中でも沸点の低い、プロパンやブタンなどのガスの混合物で、ヘアスプレーなどの噴射剤として広く利用されています。

化粧品成分の「原料」として

 多くの化粧品成分を含んでいる「石油」ですが、その真骨頂はより約に立つ成分を「合成」する時に発揮されます。例えば化粧水の主な成分は水やグリセリン、エタノール等ですが、グリセリンは石油に含まれるエチレンガスを水と反応させることによって、グリセリンはプロピレンガスを出発原料とし、エピクロロヒドリンを経由して合成することができます(ただし、保湿成分であるヒアルロン酸やセラミドに関しては合成が困難で、天然由来のものが用いられます)。

 また、口紅などに使用されている「タール色素」についても、かつては石炭由来の原料から合成されていましたが、現在では石油由来の原料から合成されています。例えば口紅などの色素として利用されている赤2(アマランス)は石油に含まれるナフタレンを出発原料として得ることができ、青1(ブリリアントブルーFCF)はトルエンを出発原料として得ることができます。

 化粧品成分を石油から合成することの最大のメリットは、「安定して作り続けることができる」ことです。化粧水の成分として紹介したグリセリンやエタノールは天然由来の成分で、油脂を分解したり、穀物を発酵したりして得ることもできますが、天候などの影響を受けやすく、悪条件が重なると不足することがあります。一方、石油は世界中の油田から常に湧き出ているため、それを原料として用いることによって、1年を通して安定した量を生産することができます。

あまりにも「大きな」な石油という存在

 石油から合成される成分はここで紹介したものだけではありません。その種類はあまりにも多く、界面活性剤や防腐剤、香料、日焼け止め成分など、化粧品のあらゆる分野の成分が石油を出発原料として合成されています。最近では肌や身体に優しいものを作りたい、使いたいといった目的で、天然由来や微生物の発酵によって得られた成分を取り入れることがブームになっていますが、使いやすく、手に入れやすい化粧品を作る上で、石油の存在は欠かせません。中にはパーム油のように「石油よりも便利で、持続可能性に優れた」原料に置き換わるケースもありますが、今後も石油は多くの物質の原料として使われ続けることでしょう。

 化学の研究に携わる方々はしばしば、「石油を燃やすなんて勿体ない」と言うことがあります。多くの方にとって石油といえばガソリンや灯油で、「燃やして使うもの」というイメージかもしれませんが、実際には「燃やして使うことができる程手軽に得られて」「何でも作ることができる」魔法の油なのです。今後も石油はその魔法を使って、私達をより美しくしてくれることでしょう。

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