化粧品の「甘い」お話 砂糖とコスメの関係

読みもの

 幸せの甘い結晶「砂糖」

貴方は普段の生活で、どんな時に幸せを感じますか。美味しいものを食べたり、大切な人と一緒に過ごしたり、好きなことを思いっきり楽しんでみたり、人によってそれぞれかもしれません。そして、幸せなひとときはしばしば「甘さ」に例えられます。特に英語では大切な人のことをsweetieと呼びかけたり、素敵な想い出をsweet memories と綴ったり(反対に辛いことはbitterで表現されます)、今の英語を作った人達は、きっと余程の甘党だったのでしょう。

「甘さ」はかつてとても入手しにくい貴重品でしたが、今日ではコンビニでも手軽に買える幸せです。そして、その幸せは「砂糖」と呼ばれる結晶によってもたらされています。砂糖はサトウキビもしくは甜菜から得られる白い結晶で、コーヒーシュガーや料理用の白糖として、誰もがその姿を見たことがあるかと思います。摂り過ぎは虫歯や肥満のリスクになりますが、ちょっと疲れた時に、ティータイムのお供に、砂糖は食品として、私達の毎日の生活にとって欠かせない存在です。

その砂糖ですが、今日では化粧品の世界でも多く用いられています。従来はグリセリンと一緒に固形石鹼の結晶を細かくし、透明にするための成分としての用途が主でしたが、近年、ナチュラルコスメの流行や環境保護への意識の高まりから、色々と注目を浴びるようになりました。

砂糖ってどんな構造をしているの?

私達の生活に深く根付いている砂糖ですが、化学的にどのような物質なのでしょうか。化粧品の世界では一般的に「スクロース」もしくは「白糖」と呼ばれており、様々な製品に利用されています。スクロースは化学的には糖類に分類され、ブドウなどに含まれる糖分グルコースと果物一般に含まれる糖分フクルトースそれぞれ1分子がグリコシド結合した構造を持っています。常温では白色の結晶で、グルコースやフルクトースの構造に由来する水と馴染みやすい部分(ヒドロキシル基)を多く持っているため、水と馴染みやすいのが特徴です。

 一方、スクロースは油分にはあまり溶けません。基本的に化粧品に使われる成分は「肌との馴染みやすさ」が重視されるため、油性成分とはよく馴染むものが多いのですが、スクロースについては構造が分子の炭素骨格が水と馴染みやすいヒドロキシル基に囲まれているため、メタノールなど一部の溶媒を除いてあまり溶かすことができません。この性質はグルコースやフルクトースにも共通していますが、生産量が多く入手しやすいため、スクロースがよく用いられています。

砂糖の効果①お肌しっとり

 水と馴染みやすいスクロースは化粧品に取り入れることによって保湿効果を発揮します。スクロースは保湿成分の中でもとりわけ吸水性に優れており、化粧品自体の水分蒸発による劣化を防ぎ、肌に塗ると肌表面の保湿力を補う働います。また、スクロース自体に優れた浸透力があるため、化粧水や美容液などに取り入れ、他の保湿成分の浸透を助ける目的でも利用することができます。

 しかし、保湿だけを目的とした場合、スクロースは必ずしも最適な成分ではありません。油に溶けにくいため、油性のクリームやファンデーションに配合するためには工夫が必要で、また、肌に馴染ませるためには他の成分の助けが必要です。また、糖類に共通する特徴として、水分を吸収すると粘度が高くなるため、高濃度ではやや使用感がべたつきます。保湿にはグリセリンやヒアルロン酸、セラミドなど、より特化した成分の方が好まれて使用されます。

砂糖の効果②スクラブ効果

 保湿成分としてはやや決め手にかけるスクロースですが、最近ではその結晶の性質を活かし、肌の古い角質や皮脂を落とすスクラブ剤としての利用が着目されています。肌のスクラブ剤としてはかつて、PETに代表されるマイクロビーズが低刺激、かつ安定した成分として好んで利用されていましたが、近年、分解されず海洋生物の体内に蓄積されることが問題となり、利用が自粛されるようになりました。マイクロビーズの代替成分としてはコーンスターチが注目されていますが、「取り除く」よりは「くっつける」用途で使う成分のため、使い勝手がやや異なります。

 結晶状のスクロースは優れたスクラブ剤として機能します。スクロースの結晶を肌の上に載せて洗顔することにより、古い角質や余分な皮脂が物理的に取り除かれます。結晶は細かく、また自然に溶けるため、肌を傷つけることなく使うことができます。また、肌の上に残ったスクロースはマイクロビーズのように全て取り除かず、そのまま化粧水やクリームでケアをすることによって、保湿成分として再利用することができます。この効果は色々な製品に取り入れられていますが、「シュガースクラブ」と呼ばれる特化した製品があるので、気になった方は試してみると良いでしょう。

ますます深まる砂糖と私達の関係

 砂糖は私達にとって欠かせない存在でありながら、化粧品の世界ではやや脇役の存在でした。しかし、現在では肌への刺激や環境負荷の少なさが評価され、従来の成分と置き換える形で利用が進められています。特にスクラブ効果に関しては、とうもろこし由来の成分であるコーンスターチと共にマイクロビーズに代わる存在として利用されています。今後、私達はますます砂糖のありがたみを感じることになるでしょう。

 ただし、砂糖の生産については課題も存在します。砂糖の原料となるサトウキビは熱帯や亜熱帯地方で主に生産されていますが、需要に見合うだけの広大な畑を作るため、熱帯雨林が破壊されています。また、サトウキビの生産は労働集約的であるため、被雇用者の生活を十分に支えられないことも問題となっています。近年では生産性の改善によって課題を解決すべく様々な取り組みが進められていますが、それだけでは不十分で、高付加価値な化粧品への利用など、「より高く買ってもらえる」工夫が必要とされています。

 ますます身近な存在となっている砂糖ですが、私達、そして私達の子供達がずっと甘くて幸せな生活を送ることができるよう、時にはその生産者について思いを馳せてみたり、食べるだけではない、化粧品のような新しい使い方を取り入れてみたりしてはいかがでしょうか。

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