トウガラシ入りの化粧品?
貴方は韓国料理、と聞いてどんなものを想像しますか。韓国料理にも様々なレパートリーがありますが、多くの方はキムチやチゲ、ビビンバ、チーズタッカルビといった「唐辛子」を使ったものを思い浮かべるのではないでしょうか。真っ赤になる程唐辛子が使われた料理に手を付けるのは勇気が要りますが、意外にも程良い辛さでどんどん箸が進み、つい食べ過ぎてしまうものです。最近では日本向けにアレンジされたものを出すお店も増えましたが、オリジナルの味もまた格別です。
この唐辛子ですが、実は化粧品成分としても知られた存在です。まるでジョークグッズのような「唐辛子入りの入浴剤」だけではなく、発汗効果を謳った一般的な入浴剤、頭皮ケアを謳ったシャンプーや育毛剤の成分を調べてみると、「トウガラシ果実エキス」「トウガラシチンキ」といったものが使われているのを目にすることがあります。また、口紅やアイシャドウなどのメイクアップ製品にもトウガラシ由来の成分を目にすることがあります。確かにトウガラシの赤は鮮やかですが、あんなにも辛いものを唇や目に塗っても大丈夫なのでしょうか。
トウガラシ、そもそもどんな成分なの?
そもそもトウガラシとはどんな成分なのでしょうか。トウガラシとは中南米原産のナス科の植物で、その果実、稀に葉を食用とすることで知られています。また、トウガラシといえば「辛さ」の代名詞ですが、その辛味は果実に含まれている「カプサイシン」と呼ばれる成分に由来します。カプサイシンの含有量はトウガラシの種類によって異なり、スコヴィル値と呼ばれる指標によって表されます。辛いもの好きな方は「ハバネロ」や「鷹の爪」のスコヴィル値、といった話を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
カプサイシンはバニリルアミンと脂肪酸がアミド結合したアルカロイドの一種で、トウガラシが哺乳類による捕食や菌類による腐敗から身を守るために生合成された成分と言われています。その特徴として強い刺激性が挙げられ、特にハバネロや鷹の爪といったスコヴィル値の高い種類のものを食べるのには注意が必要なだけではなく、調理の際にも直接触れてはいけないと言われています。
トウガラシの効果①カプサイシンによる温感、血行促進
このように「刺激の強い」成分として知られているカプサイシンですが、その刺激は肌のTRPチャネルと呼ばれる部分に働きかけることによって生まれます。肌の表皮層及び真皮層には温度を感じるためのTRPチャネルと呼ばれるセンサーが存在しますが、カプサイシンが肌に触れるとTRPチャネルの中でも43℃以上の熱刺激に反応するTRPV1と呼ばれる部位を活性化させます。そのため、肌につけるとその部分があたかも43℃以上の熱いものに触れたと錯覚し、温まったように感じられます。
また、TPRV1は43℃以上の熱さと同時に「灼けるような痛み」を感じるセンサーとしても機能します。そのため、カプサイシンによる刺激は温感と同時に痛みをもたらし、痛みによって交感神経が優位となり、その結果として肌内部の毛細血管が拡張されます。トウガラシによって血行が促進されるのはこのためで、温めるための入浴剤だけではなく、一部のシャンプーや育毛剤などにも利用されています。
トウガラシの効果②メイクアップ製品の赤色顔料
カ プサイシンによる血行促進は優れた効果ですが、化粧品よりはむしろ医薬品成分としての利用が一般的です。化粧品、特にメイクアップ製品のトウガラシはトウガラシの持つもう1つの側面、すなわちその赤みを活かすために配合されています。トウガラシの赤みはカプサンチン、通称パプリカ色素と呼ばれる成分に由来しており、天然由来の色素としては比較的鮮やかな発色が特徴です。また、水に溶けにくく、油と馴染みやすいことも特徴で、口紅やアイシャドウのような油性化粧品との相性も良好です。
ここで心配になるのがカプサイシンによる刺激ですが、口紅やアイシャドウ向けには比較的含有量の少ないトウガラシが利用されており、メントールなど他の成分と比較して特別強い刺激を感じることもないでしょう。また、化粧品の赤色顔料としては他にタール色素やコチニール色素が知られていますが、それらと比較してアレルギーなどの心配も少ない成分です。
一部の製品ではカプサイシンによる適度な刺激を「血行をより良くし、赤色をより映えさせる」目的で利用しています。リッププランパーは「唇の美容液」として血色をより良くし、ツヤ感を出すための製品ですが、一部の製品には唇の血行を促進し、「腫れる」ことによるボリュームアップを図るため、トウガラシ果実エキスが利用されています。この刺激感は好みの分かれる部分ですが、トウガラシの使い道としては興味深いものです。
刺激感が強いけど、本当に使って大丈夫?
このように、トウガラシは肌の血行を促進し、その血色をより映えさせるユニークな成分です。しかし、気になるのはその「刺激感」です。高濃度だと「素手で触れない」程刺激が強いものを本当に使っても大丈夫なのでしょうか。幸いにも、カプサイシンによる刺激感はTRPチャネルに作用することによって引き起こされるもので、肌への直接的なダメージによるものではありません。また、化粧品への配合量は制限されており、市販製品については継続的に使用しても問題ない程度とされています。ただし、肌が弱っている場合は刺激をより強く感じるため使用を控えた方が良く、刺激感がそもそも好みでない場合は無理して使うこともないでしょう。
トウガラシはその刺激の強いイメージからか、私達にとってどこか「近くて遠い」存在でした。しかし、昨今の韓国ブームなども相まって、私達にとってより身近な存在へと変わりつつあります。日常生活のスパイスとして、貴方も一度トウガラシが配合された化粧品を試してみてはいかがでしょうか。