舞台メイクの必需品「ドーラン」
貴方は「舞台」を見に行ったことはありますか。家でゆっくりくつろぎながら、映画やドラマをテレビで見る時間も幸せのひとときですが、ライブハウスや劇場でしか観ることのできない、生のパフォーマンスにはまた違った魅力があります。中にはライブ鑑賞が趣味を通り越してライフワークになっている方、自分でライブや舞台に出演したことがある、といった方もいるでしょう。普段は町の風景に溶け込んでいるようなアーティストの方でも、舞台のスポットライトに照らされた瞬間スイッチが入り、とても輝かしい表情になります。
そんな方々の表情づくりに欠かせないのが「ドーラン」です。普段のメイクは貴方をより輝かせるためのものですが、ドーランは演者をより輝かせるだけではなく、時には演じる役柄や時代背景に合わせて、新たな人格を得るためにも使われます。また、ドーランは舞台やドラマに携わっている人だけではなく、アナウンサーや国会議員など、広い意味で「人前で話す」ことを仕事としている方々にとっても欠かせない存在です。彼等の仕事には、時として俳優の方以上に「強さや優しさを見せて」「疲れを見せない」演技が求められるのです。
ドーランとはどんなメイクなの?ファンデーションとはどう違うの?
そもそも、ドーランとはどんなメイクなのでしょうか。ドーランは英語では「グリースペイント」と呼ばれますが、フランスのDorin社から発売された製品「バトン・ドーラン」が日本に輸入され、明治時代の後半から広く用いられたことにより、「ドーラン」の通称が定着しました。ドーランは通常のファンデーションのように肌を血色良く見せるために使うだけではなく、歌舞伎や京劇のように「白塗り」「赤塗り」で善悪の役割を表現したり、時には人間以外の役を演じるために、緑や青で顔を塗ったり、といった形で利用されることもあります。
また、ドーランは一般的なファンデーションと比較してテクスチャーが大きく異なります。ファンデーションは肌のカバー力と使い心地のバランスを取っているため、ミネラルオイルや脂肪酸エステルなどの油分の使用量は比較的少なめで、中には使用感を軽くする目的でオイルフリーや揮発性の高いシリコーンオイルを使った製品も存在します。一方、ドーランは使い心地よりも「肌への密着性」や「カバー力」を最優先にしているため、油分の多いワックス、スティック状の製品が一般的です。化粧下地を使わなくても肌に綺麗に塗ることができ、スティック状の製品ではそのまま直塗りすることもできます。
ドーランにはどんな成分が使われているの?どんなメリットがあるの?
では、ドーランにはどのような成分が使われているのでしょうか。ドーランは一般的なファンデーションと同様に、酸化チタンや酸化亜鉛、酸化鉄、あるいはタール色素といった色をつける為の顔料、化粧品の形を整えるための体質顔料、及びそれを肌につけて馴染ませるための油分で構成されています。しかし、油分の使用量は油性のファンデーションよりもかなり多く(ファンデーションではマイナーな存在のワックスが使われていることもあります)、また、使用されている顔料も多様で、特殊なメイクを目的とした製品では緑や青の顔料(酸化クロム、グンジョウ)が使われていることもあります。
そして、このドーランは一般的なファンデーションと比較して、「カバー力」に非常に優れています。舞台やテレビの撮影では顔や衣装の影をなくし、見映えを良くするために強い光を当てますが、通常のファンデーションでは地肌が見えてしまったり、外の気温や照明の熱でメイクが崩れてしまったりすることがあります。しかし、油分の多いドーランはより多くの顔料を肌に密着させ、汗や水分をよくはじくため、照明の光に負けない均一なメイクを長時間キープすることが可能です。また、ドーランを使ってしっかりとメイクをすることで、強い照明の光によるハレーションと呼ばれる現象を防ぐことができ、カメラ映りを良くすることができます。
ドーランは普段使いしてもいいの?使う上での注意点は?
通常のファンデーションよりもカバー力やキープ力に定評があり、一見して良いことづくめのドーランですが、普段使いには残念ながらあまり向いていません。一番の欠点はその油分の多さです。油分が多いことはキープ力を重視する上では良いのですが、肌につけた際の使用感がとても重く、状態によっては刺激を感じてしまうことがあります。また、ドーランのカバー力の高さも必ずしもメリットとはいえず、色のラインアップも少ないことから、仕上がりはファンデーションと比べるとどうしても不自然で、厚塗りの印象を与えてしまうでしょう。
ドーランは「貴方にスポットライトが当たるとき」に使うと最大の効果を発揮します。舞台や演奏の発表会、ハロウィンの仮装やコスプレのイベントといった機会では、ファンデーションの代わりにドーランを使うことで、いつもと違った貴方を魅せることができます。イベントの終了後はクレンジングやコールドクリームを使って、しっかりと油分を落とすようにしてください。特殊なものでは少し毒々しい色もありますが、使われている顔料は白や赤と同様に、肌にとって十分に安全なものなので、しっかり落とせば問題ありません。
多くの方にとって、文字通り「スポットライトを浴びる」機会は演劇をライフワークにしている方でもなければそう多くないでしょう。しかし、もしその機会が訪れた時は普段使いのファンデーションの代わりに、ドーランを使ってみてはいかがでしょうか。きっと、貴方にとって大切な人生の決定的な瞬間が、より輝いて見えることでしょう。
コメント