「化粧品に硫酸?」どんな目的で利用されているの?本当に危険ではないの?

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化粧品に「硫酸」が使われている?

貴方は「安全な化粧品」と聞いてどんなものを思い浮かべますか。おそらく、多くの方が「天然由来」「低刺激」「弱酸性」といったキーワードを連想するのではないでしょうか。逆に、「石油系」「合成」といったキーワードは安全だと分かっていても、私達を少し不安にさせてしまいます。そして、「硫酸」についてはどうでしょうか。恐らく、中学校や高校の理科の実験のイメージから、「肌に悪いのでは?」「刺激性が強いのでは?」と想像する方も多いのではないでしょうか。

 しかし、「硫酸」が含まれた化粧品は本当に肌に悪いのでしょうか。「硫酸」の名前が付いた成分としては、硫酸バリウムやラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸アンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)など様々な種類があります。いずれも化粧品成分としてはお馴染みで、やや洗浄力が強かったり、肌につけると少し刺激感があったりする成分もあるものの、毎日のように私達が目にするものばかりです。「肌に悪い」のが本当であれば、どうしてそこまで多くの製品に利用されているのでしょうか。

似て異なる「硫酸」と「硫酸化合物」

 私達が「硫酸」と聞いて思い浮かべるのは化学物質としての硫酸(H2SO4)です。ご存知の方も多いかもしれませんが、H2SO4は水に溶かすと強酸性を示す成分で、反応性が高いため、その水溶液は金属からタンパク質まで幅広い物質を溶かします。そのため、まとまった量が肌に触れると発熱を伴った反応を引き起こし、重い火傷の原因となります。H2SO4はごく稀に微量が化粧品のpH調整剤として用いられますが、化粧品成分としてはごくマイナーな存在です。

 しかし、H2SO4が反応して硫酸化合物になると、元の反応性の高さはすっかり影を潜め、非常に安定かつ肌への毒性や刺激性も抑えられた成分が生成します。化粧品に使われる「酸」には他に炭酸(炭酸イオン)、塩酸(塩化物イオン)、脂肪酸など様々なものが存在しますが、硫酸(硫酸イオン)と対になる物質の間に働くイオン結合と呼ばれる力は他のほぼ全ての「酸」よりも強いため、分解されず高い安定性を示します。

代表的な硫酸塩「硫酸バリウム」「ミョウバン」

硫酸化合物の安定性の高さを示す代表的な成分としては硫酸バリウムが挙げられます。一般的にバリウム、もしくはそのイオンは神経伝達に欠かせないカリウムイオンの吸収を阻害し、高い毒性を示すため化粧品には用いることはできません。しかし、硫酸バリウムは安定性に優れており、水にもほとんど溶けないため、化粧品向けの体質顔料としてあらゆるメイクアップ製品に利用されています。また、レントゲンの造影剤としてもお馴染みで、口から飲んでもほとんど吸収、分解されないため安全とされています。

 また、制汗剤などに使用されているミョウバンは硫酸カリウムアルミニウムと呼ばれる成分で、こちらも加熱しなければ分解することはありません。ミョウバンは水に溶けるとやや強い酸性となるため、毛穴を引き締めて汗を抑えたり、皮膚の臭いの元となる菌を殺したりする目的で利用されています。酸性が強いため、肌の状態によっては刺激を感じることもありますが、食品添加物としてもお馴染みの成分で、基本的には安全なものです。

 シャンプーには欠かせない「ラウリル硫酸塩」「ラウレス硫酸塩」

 化粧品に使われている代表的な硫酸化合物としては他に「ラウリル硫酸塩」「ラウレス硫酸塩」と呼ばれる成分が知られています。前者は「ラウリル硫酸ナトリウム」、後者は「ラウレス硫酸ナトリウム」が代表的なもので、パーム油を出発原料とした高級アルコールもしくはそのエトキシ化物を硫酸と反応させてエステル化させ、炭酸ナトリウムで中和することによって得ることができます。これらの成分は「陰イオン界面活性剤」として知られており、肌や髪についた油汚れを高級アルコール由来の部分が吸着し、硫酸イオンの部分が水で洗い流しやすい性質を生み出すことから、シャンプーなどの洗浄成分として広く利用されています。

 これらの硫酸イオンが含まれる界面活性剤は安定で洗浄力に優れており、かつパーム油から大量に合成することが可能です。他のアミノ酸由来の界面活性剤などと比較して、時にその優れた洗浄力が故に必要な皮脂まで洗い流してしまうことがあるたため、シャンプーの成分としてはベストではないという意見もあります。しかし、基本的には安心、安全に利用できる成分であるため、特に手に取りやすい価格帯のシャンプーには必ずといっていい程硫酸化合物が利用されています。

「安定した」成分として

 化粧品に利用されている硫酸化合物には他にも様々な種類があります。増粘剤として利用されている硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウム、ムコ多糖類の一種で保湿成分として利用されているコンドロイチン硫酸ナトリウムをはじめとして、硫酸化合物はその安定性、安全性の高さや水との馴染みやすさを活かす形で化粧品に取り入れられています。先に紹介したミョウバンや界面活性剤のように、他の成分と比べて「低刺激」ではないこともありますが、「硫酸」が一般的に持っている少し怖いイメージとは異なり、安心して利用できるものです。

 化学の世界はとても不思議で、ある物質とまた別な物質が反応して組み合わさることで、予想もしなかったような性質になることがあります。もし化粧品の成分を調べていて、「硫酸」や「塩酸」のような成分を見つけて不安になったら、もう少しだけWebで調べてみてはいかがでしょうか。(生成AIも便利ですが、私達と一緒で不安症気味なので、検索して調べることをお勧めします)きっと、その不思議な世界を垣間見ることができることでしょう。

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