柔らかいグルーの成分、ラテックス
貴方は「つけまつげ」を普段使っていますか。最近では一時のブームが落ち着いて、まつげエクステやまつげ美容液など「私のまつげにプラスアルファ」のアイテムの方が流行っている印象ですが、つけまつげ専用のグルーを塗ってまつげもしくは皮膚につけるだけで、目元の印象を簡単に変えることのできるアイテムとして、根強い人気を誇っています。中にはスワロフスキーが散りばめられているようなものもあり、単にまつげの量を増やすだけではなく、目元をよりゴージャスに魅せることができます。
このつけまつげに使うグルーですが、まつエクやネイルのグルーとは性質が大きく異なります。ネイルのグルーはまるで瞬間接着剤のような性質を持っており、空気中では発熱しながらすぐに硬化して密着し、落とす為にはリムーバーが必要になりますが、つけまつげ用のグルーは直ぐには固まらず、固まってからも柔らかく、お湯などで簡単に落とすことができます。 そして、この性質の違いは使用されている成分の違いに起因し、前者はシアノアクリレート、後者は海外向けの製品を中心に、「ラテックス」と呼ばれる物質を主成分としています。一体、ラテックスとはどんな成分なのでしょうか。
「ゴムのように柔らかい」グルー
医療関係や工業関係の仕事に携わっていらっしゃる方であれば、「ラテックス」という単語は馴染み深いのではないでしょうか。ラテックスは天然ゴムの原料としても知られている成分で、狭義ではゴムの木の幹や枝を傷つけて採取した樹液のことを指します。この樹液には代表的な合成ゴムの成分であるポリイソプレンの他、様々な樹脂やタンパク質が含まれており、水と馴染みやすい性質を持っています。天然ゴムは一般的にラテックスから不要な成分を除去し、成型、乾燥させることによって得られるもののことを指し、タイヤやホースなど、様々な用途で用いられています。
そして、このラテックスの特徴として、ポリイソプレン由来の優れた伸縮性及び粘着性の高さが挙げられます。ラテックスに含まれているイソプレンの大部分は「シス型」と呼ばれるものですが、シス型の分子が重合してポリイソプレンを形成すると長い網目構造となり、容易に変形し、そして元に戻りやすい性質を持ちます。そのため、ラテックスを主成分とした接着剤はシアノアクリレートと比較すると伸縮性に優れており、肌やつけまつげなどの「柔らかい」素材を上手く貼り合わせることができます。また、粘着力に関しても速乾性には劣るものの、流動性や凝集力に優れており、また、タンパク質や樹脂の作用で様々な素材と馴染むため、幅広く適用可能です。
また、この「柔らかさ」のもたらすメリットとして、「割れにくい」ことも挙げられます。シアノアクリレート系のグルーは硬い分だけ脆く、力が加わると割れてしまうことがあるのですが、ラテックス系のグルーは割れずに変形し、接着力を保ち続けます。この性質は他の樹脂と混合して用いた時にも発揮されるため、よりグルーの速乾性を上げたい場合、あるいはグルーに柔らかさを付与したい場合はシアノアクリレートと混合して用いられることもあります。
天然由来で低刺激なのに、どうして肌に悪いと言われるの?
このように普段遣いにとても便利な性質をいくつも持っているラテックスですが、肌のかゆみや湿疹を引き起こす「悪い成分」として取り上げられることがあり、「ラテックスフリー」を謳った製品も販売されています。シアノアクリレートのように発熱やホルムアルデヒドの発生といった反応に起因する問題もなく、ごく身近に存在する天然由来の成分の筈なのですが、どうしてそのような問題を引き起こすのでしょうか。実は、ラテックスが「天然由来」であることこそが、肌に悪いと言われる原因です。
化粧品に使われている天然由来の成分の多くはアレルギーの原因になりにくい糖類や脂肪酸で、アレルギーの原因となりうるタンパク質は分子量の小さなごく一部のものを除いて用いられていないのですが、ラテックスには分子量の大きなタンパク質が多く含まれており、精製しても完全に取り除くことはできません。そのため、他の化粧品やメイク関連のアクセサリーと比較して、ラテックスを用いたグルーはアレルギー反応を引き起こすリスクが高くなります。また、化粧品ではなく雑貨扱いのグルーの場合、必ずしも使用成分を記載しなくても良いため、ラテックスアレルギーを自覚していても、「知らずに」使ってしまうリスクも存在します。一時期、海外ブランドのグルーを中心にかぶれが問題になったことがありましたが、ラテックスに起因するものであったケースが少なくありませんでした。
ラテックス系のグルー、使っても大丈夫? グルー以外の使い道は?
このように、時にアレルギーを引き起こす原因となるラテックス系のグルーですが、他の化粧品やアクセサリーと同様に、肌に異常を感じない限りでは使い続けて問題ないでしょう。シアノアクリレート系のグルーと比較すると低刺激でかつ剥がしやすく、また、他の成分を主としたグルーよりも使い勝手に優れており、肌への負担も少ない部類です。ただし、少しでもかぶれ等の異常を感じた場合は直ぐに使用を止めるようにしてください。ラテックスはつけまつげ用だけではなく、マツエク用や二重まぶたを作る用など目元周りに使うアイテムにも幅広く使われているため、それらの製品を使用する場合は気に留めておいたほうが良いでしょう。
ラテックスにはグルー以外の意外な使い道も存在します。映画や舞台などで使う「特殊メイク」にはラテックスがしばしば使われており、ベースメイクとして肌につけるとその上に傷などをリアルに再現することができます。また、化粧品そのものではなく、化粧品をつけるパフの成分としてもお馴染みです。ラテックスは今後も、私達の美しさや文化を支える大事な成分として利用され続けることでしょう。今後のラテックスの動向から目が離せません。
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