辰砂

成分

使用の目的:赤色顔料

類似した成分:酸化鉄、甘汞

 辰砂とはかつて口紅やチークとして利用されてきた成分で、化学式HgSで表される無機水銀化合物の一種です。丹や朱などといった名前で呼ばれることもあり、常温では赤色の結晶状の物質で、水にも油にも溶けにくい性質を持っています。天然鉱物として産出し、特に中国の辰州(湖南省)の名産であったことから辰砂と呼ばれるようになりました。

 特筆すべき性質としては赤色顔料としての美しさが挙げられます。天然由来の赤色顔料としては酸化鉄や紅花色素などが知られていますが、辰砂はより鮮やかな朱色を示し、かつ色褪せにくいため、古くから塗料として、あるいは血色良く魅せるための頬紅や口紅などの顔料として広く用いられてきました。古代ではしばしば呪術的な用途でも用いられていたといいます。

 タール色素が開発される前は最も鮮やかな顔料の1つで、現代でも伝統的な建築物などに用いられ、美しい朱色を見ることができます。また、水銀化合物の中では非常に安定で、塗料や祭祀時のメイクとして使う分には毒性も問題ない程度とされていました。しかし、口紅などに用いられるようになると職業病のような形で健康被害が現れ始めたため、今日では化粧品には用いられていません。

 類似した成分としては酸化鉄が挙げられます。酸化鉄は辰砂と同様に赤色顔料として古代から用いられてきましたが、色鮮やかさでは及ばない一方、毒性やアレルギー性などがないため化粧品顔料としてより適した存在です。そのため、今日でも酸化鉄は赤色顔料として、ファンデーションなどを中心に広く用いられています。

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