乾燥から私達を守ってくれる「ワセリン」、どんな成分なの?

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 冬のスキンケアの代名詞「ワセリン」

 貴方の好きな季節はいつですか。四季の中でも寒さと乾燥に悩まされる冬は最も過ごしにくい時期ですが、私達はそれを楽しむ術を心得ています。みんなで鍋を囲んでみたり、スキーやスケートに出掛けたり、澄み切った空の下にイルミネーションを灯したり、私達は冬を満喫しています。クリスマスやお正月のような特別なイベントも多いので、冬が待ち遠しい、という方も少なくないでしょう。

 しかし、冬は肌にとってはとても厳しい季節です。空気の乾燥は肌や髪から水分を奪い取ってしまうため、私達は常に乾燥肌に悩まされます。化粧水や美容液でしっかり保湿を心掛けたつもりでも、気が付くとカサカサになってしまい、寒い屋外で水仕事などしようものなら手荒れに悩まされてしまいます。

そこで、古くから使われてきた成分がワセリンです。肌に塗ると密着し、よく水をはじき、肌荒れを防ぎます。また、肌荒れに悩まされていて、化粧品が使えない時に、「ワセリンだけは使っても大丈夫」と言われることがあります。「青缶」などの通称でも知られており、ごく当たり前に使われているワセリンですが、どんな成分なのでしょうか。

「石油由来」の安心成分

 どんな成分よりも安心して使える印象のワセリンですが、実は一般的に刺激が強いと思われている「石油由来」の成分です。ワセリンは化学式C24H50~C34H70の間で表される「飽和炭化水素」に分類される成分で、常温では市販の「ワセリン」や「青缶」でお馴染みの白色のペースト状の物質です。天然で産出される石油に含まれており、石油からガソリンや灯油など揮発性の高い成分を分留し、残ったものを精製することによって得ることができます。その特徴的な化学構造から水やエタノールとは馴染みにくく、油性成分とよく馴染みます。

 ワセリン及びその仲間の「飽和炭化水素」共通の特徴として、高い化学的安定性が挙げられます。「飽和炭化水素」の代表例としては都市ガス、LPガスの成分として有名なメタンやプロパンが挙げられますが、構造内に反応性の高い「二重結合」や「ヒドロキシル基」といった部分を持たないため、常温では他の物質とほぼ反応しません。

メタンやプロパンと同様に、ワセリンはそれ自体の高い安定性に加え、化粧品向けの「白色ワセリン」と呼ばれるグレードでは刺激の原因となる石油由来の不純物を十分に取り除いているため、肌に塗っても刺激を与えることがありません。かつては稀にワセリンに含まれる不純物が原因で色素が沈着し、「日焼け」することがありましたが、今日ではその心配は不要です。

私達を守ってくれるワセリンの皮膜

 ワセリンは口紅やファンデーション等のベース成分としても使われますが、化粧品にワセリンを配合する目的としては「保湿効果」が挙げられます。化粧品の保湿成分としてはグリセリンやヒアルロン酸、セラミドなど、「肌に塗って保水力を高める」成分が有名です。一方、ワセリンに保水力はなく、逆によく水をはじきます。また、カンゾウ根エキスのような肌内部のコラーゲンやセラミドの合成を助け、間接的に保湿効果を高める作用もありません。

 しかし、ワセリンは「肌や髪に密着し、水分の蒸発を防ぐ」ことで保湿を行います。ワセリンを肌や髪に塗ると疎水性の皮膜を形成し、肌表面からの水分蒸発を妨げます。そのため、単独で、もしくはヒアルロン酸やセラミドなどと合わせて使うことによって、水分蒸発による肌へのダメージを防ぐことができます。同様の効果はスクワレンでも期待でき、スクワレンの方がより肌に馴染みますが、大量に生産可能なワセリンの方が好んで利用されます。

 ワセリンの皮膜は水分の蒸発以外からも私達の肌を守ってくれます。ワセリンの肌に密着した皮膜は空気中や水中の刺激物が直接肌に触れることを防ぎ、かつそれ自体が多くの刺激物と反応しない為、長時間効果が持続します。そのため、化粧品としてだけではなく、皮膚科で塗り薬として処方されることもあります。

使用上の注意と効果的な使い方

 低刺激で保湿効果に優れているワセリンですが、使用する上では注意点も存在します。最大の問題は「肌や髪に密着し、水分の蒸発を防ぐ」効果が他の油性成分と比較して高すぎることです。ワセリンは少量で肌をよく守ってくれますが、とてもべたつき感が強く、髪につけすぎると不自然なツヤ感が出てしまいます。また、肌につけると皮膜で汗や皮脂の出口を塞いでしまい、皮脂が多い場合と同様のトラブルの原因となります。ワセリンをスキンケアに使用した場合、40℃以上のお湯を使いながらクレンジングオイルやシャンプーで落とすようにしてください。

 また、ワセリンの保湿効果を十分に活かすためには「肌への水分補給」が不可欠です。ワセリンは皮膚のトラブルがある場合を除き、化粧水や美容液と併用することをお勧めします。化粧水や美容液を使って肌の水分量や保水力を増やし、仕上げにワセリンの皮膜で蓋をすることにより、肌にとって十分な水分を維持することができます。

 スキンケアの最大の目的は「保湿」ですが、効果的に保湿するためには肌の環境を整えたり、水分を補給したり、それを閉じ込めたりと多くの役割が必要とされています。その中でワセリンは「水分を閉じ込める」ための最も手頃で確実な成分として、多くの人に用いられてきました。新しい成分を使った化粧品には心躍らされますが、色々と試し過ぎて迷子になってしまっているようであれば、一度、手頃な化粧水とワセリンの組み合わせに戻ってみてはいかがでしょうか。

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