洋服だけじゃない、シルクの使われ方
貴方はどんな素材の服が好きですか。シンプルで着心地の良い綿、軽くて風通しの良い麻、デザインや機能が豊富なポリエステルやレーヨン、普段使いのものだけで考えても、色々な選択肢があります。では、貴方をもっと輝かせたい特別な日、貴方はどんな素材の服を着ていきたいですか。おそらく、「シルク」を挙げる方が多いのではないでしょうか。少し高価でデリケートですが、滑らかで触り心地の良い生地、上品な光沢感は他の素材にはない特別感を演出してくれます。
シルクは見栄えが良いだけではなく、肌にとってもありがたい素材です。肌が弱く、化学繊維の服ではかぶれてしまう場合でも、滑らかな着心地のシルクでは心配せずに着ることができます。また、シルクは話題になることは少ないものの、実は化粧品でもお馴染みの成分です。多くのヘアケア製品、メイクアップ製品の使い心地を良くするために、あるいは髪や肌の調子を整えるために、シルクが取り入れられています。
化粧品成分「シルク」とは?
では、化粧品にはどんな形でシルクが取り入れられているのでしょうか。一般的にはあまり話題にならない話ですが、シルクの主成分であるフィブロインと呼ばれる繊維はタンパク質の一種で、同じ天然素材の綿や麻の主成分であるセルロースとは大きく構造が異なります。そして、このフィブロインは人間の肌を構成しているタンパク質、アミノ酸とほぼ同一の構造を持っているため、肌と非常に馴染みやすく、保水力にも優れています。「肌と馴染みやすい」成分としては皮脂の成分に近い脂肪酸が有名ですが、シルクは肌そのものと構成が似ているやや珍しい成分です。
しかし、シルクそのものは繊維が太く、水にも油にも溶けにくいため、化粧品原料として使うためには加工が必要です。最もポピュラーな方法は粉末状に加工し、シルクパウダーとして利用することです。細かくすることによってクリームやファンデーションに混ぜやすくなりますが、原料シルクと化学的な構造が変わらないため、原料本来の滑らかさを残しています。また、シルクのタンパク質やアミノ酸を活かすため、酸やアルカリ、酵素で加水分解し、水に溶けやすくして用いる方法も一般的です。
シルクの効果①使用感の向上(シルクパウダー)
シルクを化粧品に配合する目的の1つは化粧品の使用感を向上させることです。先にも述べましたが、シルクの肌触りは粉末の状態でも失われることがないため、メイクアップ化粧品にシルクパウダーを配合すると付け心地がとても滑らかになります。付け心地を向上させる成分としては軽い使用感のミネラルオイルやシリコーン、肌に馴染みやすいオレイン酸などもありますが、油分にはどうしても付き物の閉塞感もないため、より使いやすい製品を作ることができます。
また、シルクパウダーの副次的な効果として、肌のテカリを抑えて自然な光沢を出すことが可能です。シルクパウダーは皮脂をよく吸収するため、脂性肌に使用すると余分な皮脂を取り除き、表面のテカリを抑えます。一方、シルク自体が持つ光沢は肌をより艶やかに魅せます。肌の状態によっては余分な皮脂も取り除いてしまい、化粧崩れや乾燥の原因となるため注意が必要ですが、十分に化粧水などでケアを行うことで防ぐことができるでしょう。
シルクの効果②保湿と髪の補修(加水分解シルク)
シルクを化粧品に配合するもう1つの目的はアミノ酸による保湿や髪の毛の修復効果です。シルクの主成分であるフィブロインと呼ばれる繊維状のタンパク質は分子量がとても大きく、そのままでは化粧水や乳液などに溶かすことはできませんが、加水分解と呼ばれる方法で分子を小さく分割することにより、水に溶けやすくなります。この状態は加水分解シルクと呼ばれますが、粉末状のものと同様に保水性に優れており、また、人の髪や肌と同種類のアミノ酸で構成された低分子のタンパク質であることから、浸透性にも大変優れています。
この性質を最も活かすことができるのはヘアケア製品です。髪の毛は外側からキューティクル、コルテックス、メデュラと呼ばれる3層から構成されており、キューティクルが内部構造を刺激から守ったり、保湿したりといった働きを担っていますが、刺激が繰り返されることによってその働きが失われ、様々なトラブルの原因となります。加水分解シルクはこの状態の毛髪に浸透することによって失われた保湿作用を補い、また、皮膜を形成することによって髪の毛の機能や外観を修復します。この優れた浸透性や保湿作用は髪の毛だけではなく肌に対しても発揮されるため、スキンケア製品などにも好んで取り入れられています。
シルクでさらに美しく
「使い心地」と「保湿」といった化粧品にとって欠かせない2つのメリットを兼ね備えたシルクですが、他にも様々な効果を期待することができます。シルクのもう1つの成分であるセリシンについては、天然由来成分としては優れた紫外線吸収作用を持っており、ビタミンCと同程度の抗酸化作用も持ち合わせているため、単体としても日焼け止め等の様々な製品に取り入れられています。また、フィブロインやセリシンの加水分解物はどちらも浸透性に優れているため、肌のバリア機能の修復作用等も期待されています。
このように理想的な成分のように見えるシルクですが、課題が無いわけではありません。シルクは天然の動物由来の成分であるため、養殖することは可能ですが、植物などに比べてどうしても高価になります。また、他の成分と比べると稀ではあるものの、体質によってはアレルギー反応を起こすことがあります。
しかし、そのような課題こそあるものの、シルクは長く愛されてきた成分として、化粧品の世界でもまた、その存在感を高めようとしています。ますます増してゆくばかりのシルクの輝きに、今後も目が離せません。
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