ほんのり甘い」縁の下の力持ち、「デキストリン」とはどんな成分なの?

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甘くてしっとり「糖分」「グルコース」、ほんのり甘くてトロトロ「デキストリン」

貴方は甘いものは好きですか。お菓子にジュース、果物に炭酸飲料、巷には甘いものが溢れていて、食べ過ぎ、飲み過ぎは身体に良くないと知っていても、ついつい手が伸びてしまうものです。身体や心が疲れているとき、一気に信じられない量を食べてしまった、という方もいるのではないでしょうか。この甘さの源が「糖分」です。糖分の仲間にはグルコース(ぶどう糖)やスクロース(ショ糖)、フルクトース(果糖)など様々なものがあり、一口に「糖分」といってもその甘さはそれぞれです。

この「糖分」ですが、化粧品成分としてもお馴染みの存在です。一般的な糖分には水と馴染みやすい「ヒドロキシル基」と呼ばれる構造が1分子あたり複数含まれています。そのため、水にとても溶けやすく、また、分子の大きさも小さいため、肌に浸透しやすいことが特徴です。スキンケアとはとても相性の良い成分で、化粧水など保湿を目的とした製品、あるいは製品からの水分蒸発を防ぐ目的で、糖分が用いられています。

しかし、この糖分が繋がってゆき、「多糖類」と呼ばれる状態になるとその性格が変わります。代表的な糖分であるグルコースが10個〜数十個程度繋がったものをデキストリンと呼んでいます。デキストリンは食品に使われることもありますが、砂糖と比べると10分の1程度のほんのりとした甘みで、水には溶けにくく、少量を溶かすととろみを感じます。そのため、化粧品ではスキンケアの保湿よりもむしろ化粧品に粘り気を出したり、パウダーファンデーションを飛び散らないようにしたりする目的で使われます。どうしてこのような性質の変化が起こるのでしょうか。

グルコースとデキストリン、どんな違いがあるの?

 グルコースとデキストリンの性質の違いを説明するためには、その構造について少し詳しく知る必要があります。グルコースは化学式C6H12O6で表される鎖状もしくは環状の成分で、水と馴染みやすいヒドロキシル基と呼ばれる部分を1分子あたり5個、比較的馴染みやすいカルボニル基と呼ばれる部分を1個持っています。また、グルコース同士のヒドロキシル基と炭素分子がグリコシド結合と呼ばれる形で複数結合することによって、分子量の大きな多糖類と呼ばれる成分が生成します。デキストリンはこの繰り返しが10回〜数十回続いているもののことを指します。

 これだけではただ分子が大きくなっただけのように思われますが、実はこの時、水と馴染みやすい分子内のヒドロキシル基同士が「水素結合」と呼ばれる強い力で結びつくようになります。そのため、水に溶かそうとしてもグルコースのようには水分子と引き寄せ合わず、また、触るとのりのような粘着力、水に溶かすと片栗粉のようなとろみを感じるようになります。この水素結合は結合しているグルコースの数が多くなるにしたがってより強くなり、100個以上が連なったものをデンプン(もしくは原料に由来してコーンスターチ)ではこの結合に起因して粘着力や水に溶かした際のとろみがとても強く、また、水にほとんど溶けなくなります。

 水素結合は比較的強い力ですが、分子同士が近づいた際に発生する力であるため、高温で分子が活発に動くようになると失われます。そのため、デキストリンやデンプンを温めた状態では水素結合による粘着力はやや失われ、また、水に溶けやすくなります。

デキストリンはどうやって作られているの?どうして使われているの?

 では、このデキストリンはどのようにして作られているのでしょうか。先程、「グルコースが結合することによってデキストリンになる」と説明したのですが、実際の製造方法は逆で、デンプンを加水分解することによってデキストリンが生成します。分解の際には塩酸等で処理を行った後、私達の唾液にも含まれている酵素「アミラーゼ」が用いられます。デンプンを加水分解すると最終的にはグルコースになりますが、反応時間等の条件を調整することによって適度な大きさを持ったデキストリンを作ることができます。

 そして、このデキストリンは際立った特徴はないものの、とても便利な成分です。化粧品にとろみや粘着力をつけるための成分は他にも多くありますが、化学的に合成、あるいは動植物から直接採取した成分では使用感がその成分特有のものになってしまいます。一方、デキストリンは様々な大きさを持ったものがあるため(デキストリンの中でも分子量が少ないものをマルトデキストリン、より少ないものを粉飴と呼びます)、化粧品の種類や求める質感に合わせて細かく調整することができます。また、デキストリンはデンプン、ブドウ糖と共に食品としてもお馴染みの成分で、原料由来の不純物の心配も少ないため、安全に利用することができます。

 「縁の下の力持ち」として

 このような性質を持った成分であるデキストリンですが、化粧品成分としてはやや目立たない存在です。鮮やかな色を出すこともなければ、肌をしっとり艷やかにするような効果もありません。しかし、デキストリンは化粧品の「使いやすさ」を保つ上で、縁の下の力持ちとして重要な役割を担っています。外出先でも安心して使えるパウダーファンデーション、ちょうど良い硬さのクリームといった製品はこのような目立たない成分のお陰で成り立っています。新しいスキンケア成分をあれこれ探してみるのも良いのですが、時々はこのような成分にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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