顔はキャンバス?メイクとクレヨンの意外な関係

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 子供達の「表現したい」を叶えてくれる素敵なアイテム「クレヨン」

自分の想いを表現したい、何かを描いてみたい、ふとした瞬間に、無性にそうしたくなることはないでしょうか。ブログを書いたり絵を描いたり、ピアノを弾いたりダンスを踊ったり、表現の方法は様々です。その中で「絵を描く」ことはとても手軽で、子供から大人まで多くの方に親しまれています。画材選び1つにしても奥が深く、同じ人物や風景でも色鉛筆や油絵具、水彩など、素材によって全く異なった仕上がりになります。

そして、数ある画材の中でも「クレヨン」が好き、という方は多いのではないでしょうか。そのポップで可愛い見た目や温かみのある色味、すぐに使える手軽さは、初めての画材として手に取った子供だけではなく、大人をも魅了します。また、安心して使えるのもクレヨンの特徴です。クレヨンはワックスとオイル、顔料でできていますが、柔らかいため刺したり踏んだりしても、尖った先で怪我をすることはありません。また、甘いお菓子のようだと思って食べてしまっても、その不味さにショックは受けますが、身体に害はありません。

クレヨンとメイク、意外な共通点?

 このクレヨンですが、何かに似ていると思いませんか。実は、私達が普段使っているメイクアップ製品、特に、口元を彩る口紅やピンポイントのメイクに使うカラースティックといった製品は、クレヨンと原材料がとてもよく似ています。ミツロウやキャンデリラロウ、カルナウバロウと等のワックスに程よい柔らかさを生み出すための流動パラフィン、形を整えるためのタルクといった成分がクレヨンにも化粧品にも含まれています。また、化粧品、クレヨンいずれにも製品のカラーに合わせた顔料が使用されています。

 とても良く似た両者ですが、ワックスとオイルの配合比率は大きく異なり、クレヨンとメイクの質感が異なる原因となっています。キャンバスに絵を描くためのクレヨンはワックスを主成分としており、硬い書き心地なのに対して、オイルを主成分とした口紅やカラースティックは幾分柔らかく、肌と馴染みやすいのが特徴です。クレヨンでメイクをしても肌へのノリが今ひとつで、カラースティックや口紅で塗り絵をすると折れたりべたついたりでどうもしっくりいきません。

「肌に馴染ませる」ための特別な工夫

 カラースティックや口紅とクレヨンの違いはワックスとオイルの比率だけではありません。これらの化粧品には化粧崩れの原因となる肌の乾燥を防ぐため、クレヨンには含まれていない「エモリエント剤」と呼ばれる成分が含まれています。

 エモリエント剤にはイソステアリン酸グリセリルに代表される脂肪酸エステルやオリーブ油に代表される植物油など様々なものが存在しますが、化粧品に配合することによって使用感を改善したり、肌の表面に皮膜を作ることによって水分の蒸発を防いだりする効果があります。最近ではクレヨンもより柔らかくなっていますが、化粧品特有のべたつきはこのエモリエント成分によるものです。

 また、肌の保湿作用を補うことによって化粧崩れを防ぐため、保湿成分として有名なヒアルロン酸やカミツレ花エキスなどが取り入れられていることがあります。化粧水や美容液に比べると保湿成分の配合量は少なく、残念ながらこれ一本だけ使えば安心といった製品ではないのですが、プラスアルファの肌の保湿に役立ちます。

クレヨンとメイク、どんな顔料が使われているの?

 クレヨンとカラースティック、口紅は色のラインアップも異なります。クレヨンでは風景から人物まで様々なものを描くため、使用される顔料の種類も粘土鉱物から色素まで様々です。一方、カラースティックは「肌の色」を補正するために使用されるため、基本となる色は赤、黄、黒及び白の4色に限られ、主な色成分は酸化鉄(結晶の構造の違いにより赤、黄、黒のものが存在します)及び酸化チタンの2種類だけです。

 色の種類が多い口紅はもう少し多様な顔料が使用されていますが、食品添加物としても有名なタール色素(赤色○号、青色○号等の名称で示される添加物の総称です)及び昆虫由来のコチニール色素、紅花色素などの一部の天然色素等、使用されている成分はそれ程多くなく、成分同士の組み合わせで微妙な色を表現しています。

 また、クレヨンの成分には基本的に身体に無害なものが使われていますが、化粧品には「直接肌に塗る」「口の中に入る可能性が高い」といった理由から、無害な中でも特に「安全性が証明された」成分のみが使用されています。口紅に使用されるタール色素は時々安全性が議論されますが「使用感の重さ」「体調によっては少し肌荒れしやすい」といった欠点はあるものの、一般的にはとても安全性が高い成分です。

化粧品からクレヨンをつくる?

 このように、カラースティックや口紅はクレヨンと似た存在でありながら「肌を彩る」ことに最適化されており、成分もそのためのものが使われています。しかし、最近になって「化粧品からクレヨンをつくる」といったユニークな試みが始まっています。

 貴方が買った口紅やカラースティック、アイブロウ、最後まで使い切っているでしょうか。買ってみたけどどうも合わなくてそのまま眠っている、あるいは捨ててしまった、といった経験を誰もが持っていることでしょう。この余ってしまった化粧品を回収し、そこに含まれている顔料やワックス、オイルを「クレヨン」として再生するプロジェクトが、幾つかの企業によって進められているのです。

 この「クレヨン」は製品由来のラメが入っていたり、色味が不安定だったり、使い勝手がやや異なりますが、安心して使える成分だけで作られていて、クレンジングオイルで簡単に落とせるのがメリットです。沢山の化粧品を集められる仕組みやユーザーの獲得など多くの課題はありますが、今後のプロジェクトの発展が期待されます。

 化粧品は薬のようなやや特別な製品で、日々、研究者がしのぎを削って開発しているもの、といったイメージを持っている方も多いかもしれません。それは間違いではありませんが、クレヨンのようなより身近なアイテムとも共通点が多くあります。化粧品会社の創業者のエピソードには、身近なアイテムから着想を得て化粧品を作り始めた話が多く取り上げられています。貴方もふとした時に想いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

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