化粧品のマイクロビーズとは?
肌に良い洗顔フォームを探していて、「毛穴の詰まり」や「古い角質の除去」をうたったものを店頭やCMでご覧になったことはないでしょうか。最近はやや目にする機会が少なくなりましたが、一時期各社がこぞってそのような効果を持った製品を発売していました。洗顔フォームの中にややざらざらした肌触りの、特徴的な粒状の成分が含まれており、洗顔で顔をこすることによって、成分が肌の表面の古い角質や毛穴に溜まった皮脂を落とすことを売りにしていました。
この粒状の成分が「スクラブ剤」です。スクラブ剤には幾つかの種類があり、塩の結晶やシリカのような天然原料を主成分とするものもありますが、最も多く使われていたものがポリエチレンを利用したものです。ポリエチレンやセルロースを主成分とする直径0.5㎜以下のスクラブ剤は「マイクロビーズ」と呼ばれ、洗顔フォームにとどまらず歯磨きや洗剤等の洗うことを目的とする商品、また、その他の効果を見込んでファンデーションや口紅等にも広く利用されてきました。
マイクロビーズの効果
化粧品におけるマイクロビーズの効果は主に2種類あります。1つは細かい粒を肌にこすり付けることにより、物理的に肌に働きかける作用です。マイクロビーズは細かく適度な硬さを持っているため、洗顔の過程で古く剥がれやすくなった角質層を剥がし、また、顔の毛穴に入り込んで毛穴内に詰まった皮脂を取り除きます。一方で正常な肌に対しては表面を削り取ることなく滑るように動くため、洗顔によるマッサージ効果を助け、表面の血行等を促進する働きがあります。
もう1つの効果は化粧品としての使用感を良好にし、仕上がりを良くする作用です。乳液やファンデーション、口紅等にマイクロビーズを少量加えることにより、肌表面でのファンデーションの滑りが良くなり、素早く顔全体に広げることができるようになります。また、ファンデーションに配合されたマイクロビーズは肌のシミやシワを光の反射具合を変えることによってぼかし、目立たなくすることができます。マイクロビーズは化学的な作用を持たず、細かい粒であるため、多くの化粧品に添加することが出来ます。また、使用後は水やメイク落としで容易に洗い流すことが可能なため、肌に残留する心配もなく安心して使うことができます。
マイクロビーズと環境負荷
特徴的な機能を持っており、かつ肌への負担が少ないことから多くの製品で使われてきたマイクロビーズですが、「水にも油にも溶けず」「直径0.5mm以下」といった性質が予期せぬ環境被害を起こしていることが最近明らかになりました。
洗い流されたマイクロビーズは下水道を通って水処理施設へと運ばれますが、フィルターを使ってろ過をするには小さすぎ、化学的にも反応しない為、そのまま川に流れてしまうのです。川に流れたマイクロビーズはやがて海へと流れ着き、流れのない場所に蓄積されます。蓄積されたマイクロビーズは海でも分解されることがなく、小さな動物に付着し、それを食べた魚の体内に蓄積されます。そしてそれをさらに大きな魚や他の動物が食べ、といった事が繰り返されると、より多くのマイクロビーズが蓄積されることになります。
大量に蓄積されたマイクロビーズは魚の生育に悪影響を及ぼすことが実験で証明されており、内分泌かく乱物質などのより有害性の高い物質を取り込みやすくなることも懸念されています。また、大量に蓄積されると肉眼でもはっきりと確認できるようになるため、魚の商品価値を大きく損ねてしまいます。
マイクロビーズを取り巻く動き
このような環境への影響を懸念し、マイクロビーズについては全世界で使用を禁止する動きが出ています。アメリカやヨーロッパの主要国、台湾等では使用が既に禁止され、日本では政府による禁止こそ実施されていませんが、業界団体である化粧品工業連合会が2016年、加盟企業について自主規制を呼びかけており、多くの企業がマイクロビーズの使用を取りやめています。
現在多くの企業が取り組んでいることは、マイクロビーズをより生物によって分解されやすいものに置き換えることです。代表的なものは食物繊維でお馴染みのセルロースや生分解性プラスティックを用いたもので、使用感を損ねることなく同様の効果を持つものとして着目されています。また、世界に目を向けると、アメリカのカリフォルニア州の様に、生分解性であるか否かを問わず同様のプラスティックの配合を禁止する自治体も出ており、プラスティックを一切含まない製品の開発も進むことが予想されます。
ところで、マイクロビーズについてはインターネットで検索すると様々な意見が出てきます。マイクロビーズが環境に与える長期的な影響についてはまだ結論が出ていないのですが、禁止が進められているのは分解されない特性上、事前の予防措置が必要といった考えによるものです。
参考リンク①東京農工大高田教授インタビュー
参考リンク②環境省マイクロプラスチックへの取り組み
http://www.env.go.jp/water/marine_litter/00_MOE.pdf
しかし、一部の方は「今の量では影響ないのだから禁止しなくて良い」「魚の成長に影響が出るものを肌に塗ってはいけない」といった形で、事実に独自の解釈を加え、あたかも自分の意見が真実であるように誘導します。マイクロビーズに限らず、広く市場に出回っているものについては安全性の試験が繰り返されているため、使用に関して不安を感じる必要はありません。また、何かが問題になるのは何らかの事実があるからで、仮説が間違っていることはあっても、それ自体全く根拠がないということはありません。化粧品に関しては時々極端な意見が出回ることがありますが、そのような場合は公共機関や学校、責任ある専門家等の意見と照らし合わせ、それが間違っていないかどうか確かめるようにして下さい。
マイクロビーズの機能は化粧品にとってとても便利なもので、それが代替品によって置き換えられるのか、全く利用されなくなってしまうのか、今後の動向が注目されます。日々更新される情報を上手く見極めながら、消費者として上手く利用できるようにすることが大事です。
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