実は冷えない?冷感コスメ
貴方は夏の風物詩、と聞いて何を思い浮かべますか。花火大会やお盆のようなイベント、かき氷やスイカなどの涼しい食べ物、風鈴や蚊取り線香といった季節のアイテムなど、人によってそれぞれでしょう。そして、化粧品の世界で夏の風物詩といえば、「冷感コスメ」や「ひんやりコスメ」と呼ばれるアイテムです。冷感コスメやひんやりコスメには化粧水やボディーシート、クリームなど様々な種類がありますが、いずれも肌につけると心地よい冷たさを感じ、しばし暑さを忘れます。夏の間は欠かさず持ち歩いているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、この冷感コスメについて、一部の記事で「実は身体を冷やさない」「熱中症の危険をむしろ高めてしまう」といったことが注意喚起されています。また、製品のキャッチフレーズ自体も氷嚢やペルチェクーラーのように「身体を冷やす」のではなく、「暑さによる不快感を和らげる」といったものが多いです。真夏の炎天下の中でも冷たく感じられるのに、どうして「冷えない」と言われるのでしょうか。
冷感コスメの「冷える」メカニズムとは?
冷感コスメは大きく分けて2つの作用によって「冷たさ」を感じさせます。1つは成分が蒸発し、実際に熱を奪うことによるものです。蒸発とは液体(もしくは固体)が気体になることを差しますが、液体が気体になる際に大量のエネルギーが必要になるため、周囲から熱を奪います。スプレータイプの制汗剤に利用されているLPGやDMEといった成分が代表例で、缶の中では液体ですが、ノズルから気体として噴射される際に周囲の熱を奪い、温度を下げる作用があります。また、化粧水などに含まれているエタノールは蒸発する際に肌表面の熱を直接奪うため、つけるとしばらくの間ひんやりと感じられます。
もう1つは特定の成分が肌のセンサーに働きかけ、「涼しいと感じさせる」ことによるものです。肌には体温を調整するための機能が備わっており、その中の1つとして温度を感じるセンサーであるTRPチャネルがありますが、冷感成分であるメントールやサリチル酸メチルは28℃以下の温度に反応するTRPM8と呼ばれる部位を活性化させます。そのため、肌は真夏の炎天下であってもあたかも体温以下の冷たいものに触れたように錯覚し、成分が揮発するまでの間は冷たさを感じることができます。
ひんやり「感」の功罪
このように、冷感コスメは私達の肌に束の間の涼しさをもたらします。「涼しさ」は夏の暑さによる不快感を和らげ、集中力を上げたり、運動による疲れを感じにくくさせたりする効果が期待できます。また、肌の表面が涼しいと感じることで発汗も抑制されるため、夏のまとわりつくような汗による不快感も合わせて軽減することが可能です。
しかし、このひんやり効果は主に「感覚」によるもので、実際には私達の身体はほとんど冷やされてはいないのです。確かに冷感コスメに含まれているLPGやDME、エタノールは私達の身体に冷たさを感じさせてくれますが、1回あたりの使用量や蒸発熱(水は他の成分よりも多くの熱を奪います)を考慮すると奪う熱の量はごく僅かで、汗をかくことによる体温調節(暑くない季節でも1日に0.5l以上)の代わりにはなりません。また、メントールやエタノールには発汗を抑制する作用があるため、体温調節の効果を弱めてしまいます。
その上、「涼しく感じてしまう」こと自体が熱中症のリスクを高めます。屋外を歩くのは移動時間だけ、時間を決めて水分補給を行っている、というのであればまだ良いのですが、身体を冷やす根本的な対策を取らずに冷感コスメだけを使ってしまった場合、体温上昇や水分不足による身体からの警告(不快感などはその初期症状の1つです)を感じにくくなってしまいます。
「夏を快適に過ごす」アイテムとして
このように、冷感コスメは熱中症対策といった観点で考えた場合、あまり効果がないどころか使い方によってはそのリスクを高めてしまう存在でもあります。もし「これさえあれば暑くても大丈夫」という考えで使っていた場合はエアコンや水分補給など、改めて身体を冷やすための対策を考えた方が良いでしょう。幸いにも「身体を冷やす」ための技術も進歩しており、麻などの通気性に優れた素材の洋服、冷却ジェルやペルチェクーラー、空調服といった「屋外も涼める」アイテムなど、様々なものを選ぶことができます。
一方、冷感コスメは「夏の不快感を軽減し、快適に過ごす」上ではとても役立つアイテムです。湿気がひどくてとにかく鬱陶しい、オフィスのエアコンの風をもう少し涼しく感じたい、ベタつかないスキンケアがしたい、といった時、化粧水やスプレーをほんの少し肌につけたり、ボディーシートでひと拭きしたりするだけで涼しさを感じ、失われかけていた気力を取り戻すことができるでしょう。
夏の暑さは年々厳しさを増すばかりで、乗り切るだけでもひと苦労です。水分補給やエアコンによる温度管理をしっかり行いつつ、冷感コスメをアクセントとして取り入れてみてはいかがでしょうか。束の間の涼しさで、貴方の夏がもう少しだけ素敵なものなることでしょう。
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