究極の抗酸化成分、フラーレンとはどんな物質なの?

読みもの

「フラーレン」、聞いたことがありますか?

 年齢を重ねても、いつまでも若々しく美しい肌であり続けたい、美容にかける情熱は人それぞれでも、誰もがそう思っているのではないでしょうか。肌の悩みは色々とありますが、日焼けや老化によるシミやシワを防ぎたい、といった願いは特に切実で、毎年のように新しい日焼け止め、スキンケアの製品が発売されています。そしてその多くが保湿と共に「抗酸化作用」を謳っており、肌の老化の原因となる活性酸素から肌を守るための成分が取り入れられています。

 化粧品向けの抗酸化成分としてはビタミンCや茶葉由来カテキン、コエンザイムQ10等が挙げられ、いずれも活性酸素による肌の酸化を抑える効果がありますが、近年、より抗酸化作用の強い成分として、新たに「フラーレン」が取り入れられるようになりました。そして、その多くが化粧品成分としては珍しく、フラーレンの名前を前面に出す形で販売されています。食品でもお馴染みのビタミンCやカテキンと比較して馴染みの少ないフラーレンですが、どんな成分なのでしょうか。

 

化学が織りなす芸術「フラーレン」

 突然ですが、貴方は雪の結晶を見たことがありますか。結晶とは分子、もしくは原子が規則的に並んでいる状態のことを指し、雪の場合、水分子が規則正しく並び、温度で変化することによって美しい結晶の七変化が生み出されます。また、炭素原子の七変化も化学の世界では有名で、温度や圧力次第でダイヤモンドや木炭、グラファイトなど、見た目や性質が異なった結晶へと変化します。そして、今回取り上げているフラーレンも炭素原子で構成された結晶の1つですが、他の結晶(平面状、もしくは立体状に原子が規則正しく並んだもの)とは構造が大きく異なります。

 代表的なフラーレンは炭素原子60個で構成されるC60フラーレンと呼ばれる物質で、サッカーボールのような正二十面体の構造を持っており、1つの分子として作用します。この奇抜な構造がアメリカを代表する建築家、バックミンスター・フラーの芸術作品に似ていたことから「フラーレン」と名付けられました。

フラーレンは当初はC60のもののみが知られていました。しかし、近年、より効率的にフラーレンを合成する方法が開発される中で、副生成物として60個より多くの炭素原子で構成された、C60と同様の性質を持った成分が発見されています。これらは高次フラーレンと呼ばれており、応用のための研究が進められています。

フラーレンの抗酸化作用のメカニズム

 奇抜な構造を持ったフラーレンですが、近年、その並外れた抗酸化作用が注目され、一部のスキンケア製品の成分として取り入れられています。フラーレンの抗酸化作用は代表的な酸化防止剤のビタミンCの100倍以上にも及び、かつ、その効果が長期間持続します。通常の酸化防止剤は紫外線等によって発生した活性酸素によって「身代わり」として酸化されることによって肌を守り、自らはその効果を失いますが、フラーレンの抗酸化作用はやや異なり、活性酸素を「無害化」する働きを持っています。

活性酸素はフリーラジカルと呼ばれる物質の一種で、本来2個1組で原子の周りに存在する電子のうち1個が存在しない為(不対電子と呼ばれています)反応性が高く、また、不対電子をバケツリレーのように回す為、連鎖的に反応を起こします。しかし、フラーレンにはこの不対電子を受け止め、構造を安定化させるσ結合と呼ばれる部分が多く存在するため、フラーレンに吸着された環境中の活性酸素はより安定な構造へと変化します。この時、フラーレンの分子構造自体は大きく変化しない為、ビタミンCのように抗酸化作用を失いません(この吸着作用のメカニズムに関しては未だ仮説の段階で、現在でも研究が進められています)。

この持続的な抗酸化作用のお陰で、フラーレンが含まれた化粧品を使い続けることにより、日焼けによる肌の機能低下の防止やシミ、シワの防止など様々な効果を期待することができます。見た目は黒い煤のようで、あまり見栄えはしない成分なのですが、肌にとってとても有用な物質なのです。

フラーレンの課題と今後の展望

 優れた抗酸化作用を持ったフラーレンですが、定番の成分となるためには幾つかの課題を抱えています。まず、フラーレン自体が水にも油にも溶けにくいため、PVPと呼ばれる高分子ポリマーを添加して分散させる(水溶性フラーレンもしくはラジカルスポンジ)、もしくはスクワランオイルに溶かす(油溶性フラーレンもしくはリポフラーレン)必要があります。この工程を経ることによって、フラーレンを化粧品成分として取り入れることができるようになりますが、製品の感触が添加物であるこれらの成分に左右されてしまいます。

 また、C60フラーレンの安全性は十分に確認されていますが、現状の合成法では大量の煤が副生成物として発生し、取り除くのに手間がかかるため、安全に使用できる高純度の原料は依然として高価です(化粧品向け原料は工業用と比較して高い純度が求められます)。手に入れやすい価格帯の製品も出始めていますが、普及するためにはより効率的な合成方法の開発が待たれます。

 このように技術的な課題こそ多いフラーレンですが、従来の抗酸化成分に代わる次世代の成分としての期待値はとても高いものです。幸いにも、フラーレンは化粧品だけではなく医薬品や素材等の分野でも注目されており、多くの研究が進められています。今後、その名前を目にする機会は一層増えてゆくことでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました