化粧品の「脂肪酸」とはどんな成分なの?どうやって使われているの?

読みもの

「脂肪酸」と私達の深い関係

 貴方は最近、自分の健康について考えたことはありますか。忙しい日々に追われていると、どうしても生活習慣が乱れてしまいがちです。不規則な生活は身体の不調や変化の原因となりますが、その中でも頭を悩ませがちなこととして、「脂肪に関するトラブル」が挙げられます。バランスの悪い食事や運動不足が重なると、身体は必要以上に「脂肪分」を蓄え、体重が急に増えたり、高脂血症に悩まされたりする原因となります。

 しかし、この脂肪は悩みの種であると同時に、タンパク質と並んで私達が生きてゆく上で欠かせない成分です。身体の至るところに脂肪が材料として使用されており、肌もまた例外ではありません。肌に潤いやハリをもたらしているセラミドやコレステロールは脂肪の一種である脂肪酸を原料として合成される成分です。また、皮膚からの水分蒸発や外的な刺激を防ぐ皮脂についても、脂肪酸やそのエステル(脂肪酸エステルは一般的に中性脂肪とも呼ばれています)から構成されています。

「脂肪酸」とはどんな成分なの?化粧品とどう関係があるの?

 では、この脂肪酸とはどんな成分なのでしょうか。脂肪酸とは化学的には炭素と水素の繰り返し構造である炭化水素鎖にカルボキシル基と呼ばれる部分が結合した成分の総称です。炭化水素鎖の長さは様々ですが、1分子あたりの炭素原子の数が6個未満のものを短鎖脂肪酸、6個以上のものを長鎖脂肪酸と呼びます。脂肪酸の一般的な性質として、炭化水素鎖の長さが短いものは水に比較的溶けやすく、鎖が長くなるにしたがって、水よりも油に溶けやすくなります。

 最もよく知られた長鎖脂肪酸は炭素数が16個のパルミチン酸及びパルミトレイン酸、18個のステアリン酸やオレイン酸です。これらは皮脂に単体の遊離脂肪酸として、もしくはグリセリンと結合した脂肪酸エステルの形で含まれます。また、脂肪酸の炭素数がより多くなると固く粘着力の強い、ワックスやロウと呼ばれる状態になります。

 そして、この「皮脂と似ている、もしくは同じ」成分であることは化粧品の成分として優れていることも意味します。肌に対する刺激が少なく、皮脂ともとても馴染みやすいため、化粧品の成分を肌に馴染ませたり、皮脂を補ったりする目的に脂肪酸は最適です。また、界面活性剤として利用することで、皮脂や汚れを取り除くこともできます。

化粧品に含まれる脂肪酸の用途①肌や髪に「つける」

 化粧品における代表的な脂肪酸の利用法は肌に直接つけて使うことです。油性化粧品のベース成分として、あるいは皮脂を補うことによる保湿効果を目的として、様々な脂肪酸が利用されています。有名な成分の1つとしてはオレイン酸が挙げられます。オレイン酸はツバキ油やオリーブ油に豊富に含まれる不飽和脂肪酸で、酸化に強く肌にとても馴染みやすい成分です。また、常温で液体のため使い勝手が良く、他の油性成分の溶剤として、あるいは乾燥肌を改善するためのスキンケア成分として広く用いられています。

 一方、「馴染ませる」と同時に「固める」ことを重視する場合、飽和脂肪酸で常温では固体のパルミチン酸(を主成分としたモクロウ)やそのエステル(を主成分としたミツロウ)などが好んで用いられます。パルミチン酸は皮脂の成分としても知られていますが、固まりやすいため、肌よりもむしろ髪の毛のスタイリング剤などに適しています。

化粧品に含まれる脂肪酸の用途②皮脂や汚れを「取り除く」

 脂肪酸のもう1つの代表的な利用法は石鹸として使い、肌に付着した余分な皮脂や汚れを取り除くことです。この用途では皮脂よりも少し炭素数がやや少ない脂肪酸がよく利用されており、代表的な成分としては炭素数12のラウリン酸や炭素数14のミリスチン酸が挙げられます。

 炭素数が10以下の脂肪酸は水と馴染みやすいものの、肌に対する刺激性が強く、臭いもきついことから化粧品には不向きですが、ラウリン酸やミリスチン酸のカリウム塩やナトリウム塩は肌に対する刺激性が十分に低い一方で、比較的水にも馴染みやすく、低温での泡立ちにも優れていることから、石鹸として使うことで皮脂や油汚れをよく洗い流すことができます。

 最近ではより低刺激な成分として、石鹸により炭素数が多い、パルミチン酸やオレイン酸を利用することも多くなりました。この場合、ラウリン酸やミリスチン酸と比較して汚れを落とす作用がマイルドで、条件によっては泡立ちが悪くなることもあります。しかし、洗浄力が必要にして十分な場合も多く、これらの脂肪酸を豊富に含んだオリーブ油等から作った石鹸もナチュラルコスメとして販売されることが増えています。

さらに身近で大事な存在へ

 このように、脂肪酸は私達の肌に毎日寄り添う成分として、様々なアイテムに利用されています。また、洗浄効果の弱さや刺激性の面でかつては敬遠されていた成分についても新たな役割が見いだされ、使われるようになっています。

 例えば、ヤシ油から得られる炭素数8のカプリル酸や炭素数10のカプリン酸は刺激性や毒性の面から利用が避けられていましたが、グリセリンエステルの抗菌効果が確認され、防腐剤の配合量を減らすための成分として利用されています。また、酸化されやすいため、基剤としてはあまり用いられていなかったリノール酸は、メラニン色素の合成を妨げる効果が発見されたため、美白効果を期待して取り入れられています。

 身近で多くの人が知っているような成分についても、その作用の全てが知られているわけではありません。そして身近な成分だからこそ、もっと活かすことができないかとの想いで、様々な研究が日々進められています。今後、私達が「脂肪」について考え、有難みを感じる機会はますます増えてゆくのではないでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました