「牛脂」を使ったコスメ、肌には優しいの?あまり見かけなかったのはどうして?

牛脂を使った化粧品?

 2025年も様々なスキンケアが話題になり、テレビや雑誌だけではなく、YouTubeやInstagramなどのSNSでも多くのアイテムが取り上げられましたが、その中に「牛脂を肌に塗る」といったものがありました。牛脂は牛の脂身から得られる脂肪で、調味料としてサラダ油の代わりに使って香ばしい匂いをつけたり、バターの代わりに使ってカロリーを抑えたりする用途が一般的ですが、植物油や馬油を使ったスキンケアが話題になる中で、牛脂にもスポットライトが当たったようです。食用のものを肌につけることはあまりお勧めできないのですが、牛脂を肌につけると他の化粧品向けの油と同様に、皮脂の代わりの役割を果たします。

実はこの牛脂ですが、かつては石鹸の原料として最もポピュラーな存在でした。石鹸は植物油もしくは動物油(油脂)をアルカリで中和することによって得られますが、今日のようにパーム油等を使った大規模な生産が行われるようになる以前は自家製ものが多く用いられていました。製造には手に入りやすい油脂が利用されることが多く、その種類は様々でしたが、イギリスやアメリカを中心に利用されていた原料が牛脂です。また、明治時代に日本で初めて近代的な方法で生産された石鹼にも牛脂が用いられていました。

 現在はパーム油などにその役割が置き換わりつつありますが、牛脂を用いた石鹸は引き続きメジャーな存在で、「低刺激」「ナチュラルコスメ」をうたった一部のブランドでは「牛脂由来」であることを積極的にアピールしています。

牛脂とはどんな脂なの?どんな特徴を持っているの?

 ところで、牛脂とはどんな脂なのでしょうか。牛脂は不飽和脂肪酸の一種で皮脂の成分としても知られているオレイン酸を主成分(40%~50%)としていますが、他に飽和脂肪酸であるパルミチン酸やステアリン酸を豊富に含んでいる一方、リノール酸など不飽和度の高い脂肪酸が高い脂肪酸はほとんど含まれていません。そのため、牛脂の融点は他の脂肪酸と比較して大幅に高く、食用としては溶けにくい植物油として知られているカカオバターよりも高い40℃~50℃を示し、調味料として使うときは夏でも鍋やフライパンを温め、ゆっくりと溶かす必要があります。そして、肌につけると皮脂のように作用するため、牛脂を主成分としたスキンケア製品(タロークリームなど)も販売されています。

 牛脂を利用して生産された石鹸は原料の性質をよく受け継いでいて、パーム油やオリーブ油、馬油を使った製品と比較して硬く、崩れにくいことが特徴です。また、成分が皮脂と類似しているため肌への馴染みも良く、使用すると程よく皮脂を落とし(パーム油や石油由来の石鹸よりも洗浄作用が穏やかです)、かつマイルドな保湿効果も期待することができます。泡立ちの細かさも牛脂由来の石鹸の大きな特徴で、パーム油だけを使ったものと比較すると肌への摩擦が少なく、安心して使うことができます。

 牛脂にはこのようなメリットがある一方、使用環境や体質によっては「合わない」と感じてしまうこともあります。まず、牛脂の融点の高さは「使いにくい」と感じる原因にもなります。肌につけても他の油のように溶けないため、牛脂を使った石鹸は入浴用としては良いのですが、洗顔石鹸やクリームとして使った場合はやや肌に残りやすく、肌の状態によっては皮脂のように汗の出口を塞いでしまうため、ニキビなどの原因となることがあります。

 また、牛脂由来の石鹸は使用する水の硬度によっては「石鹸カス」に悩まされます。石鹸カスとは石鹸に含まれる脂肪酸と水中に含まれるマグネシウムやカルシウムが反応して生まれる白い粉末状の物質で、金属石鹼とも呼ばれますが、水に溶けずに肌や水回りにこびりついて残ってしまうことがあります。

 「牛脂」をあまり見かけなくなった理由とは?

 このような特徴を持っている牛脂ですが、最近はやや影が薄くなっていました。その理由は大きく分けて2つあり、1つは「液体石鹸」がメジャーになったことです。牛脂は「水に溶けにくく、融点が高い」ため、必然的に固形石鹸の原料としての利用が主だったのですが、液体のボディーソープやハンドソープが発売されると「小さくなると使いにくい」といった欠点がないこと、また、殺菌などのプラスアルファの機能を取り入れやすい、といった点から固形石鹼のシェアは年々減少し、それと共に牛脂以外の油が多く利用されるようになりました。

 また、液体石鹸がメジャーになり始めた頃に発生したBSE(狂牛病)の流行も牛脂のイメージを悪化させた原因となります。BSEの原因となるタンパク質であるプリオンは脂肪組織内に殆ど存在しないため、牛脂やそれを使った石鹸がBSEの感染源になることはありませんが、感染流行のニュースは動物性原料への不安を大いに喚起しました。そして、イメージ悪化への対策として、メーカー各社は植物由来のパーム油を使った石鹸を強く推すようになり、牛脂が使われているアイテムであっても、それを積極的に謳わないようになったのです。

再び注目される「牛脂」

 しかし、最近になって、牛脂やそれを利用した製品が再びスポットライトを浴びるようになっています。特に話題になっているのは固形石鹸で、パーム油と牛脂から作ったシンプルなアイテムが洗い心地が良く、コスパに優れているとして売上を伸ばしています。また、このような製品は液体石鹸と比較して界面活性剤や殺菌成分などの配合量が少なく、肌への刺激性が少ないことでも知られており、その人気に拍車をかけています。

 また、最近では牛脂クリームも注目されるようになっています。これまでのトレンドは石油から植物への移行が中心でしたが、希少な植物油は高価で、また、必ずしも使いやすいとは言えるものではありませんでした。一方、牛脂は食用の牛肉の副産物として大量に得られるため比較的手頃で、脂肪酸の組成も肌に馴染みやすいといった特長があります。最近になって欧米のヴィーガンブームが下火になっていることも相まって、「植物油よりも身近な油」である牛脂の良さが再評価されるようになっています。

 もし貴方が石鹸やスキンケアクリームを選ぶのに悩んでいる、あるいは疲れてしまったようであれば、一度原点に回帰して、牛脂を使った製品を選んでみてはいかがでしょうか。もし貴方の肌に合えば、毎日のスキンケアを行う上できっと頼もしい相棒となってくれることでしょう。

 

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