化粧品の不思議な成分、EDTAにはどんな効果があるの?

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化粧品の不思議な成分「EDTA」

 貴方の使っている化粧品に使われている成分について、あなたはどれほどご存じでしょうか。ごくシンプルな化粧水でも、水にグリセリン、ヒアルロン酸といった「しっとり」を担う成分だけではなくて、「さっぱり」や「長持ち」の役割を担うエタノール、毎日使いたくなる香りの「香料」など、様々な成分が使用されています。今日ではインターネットを少し調べるだけで、それぞれの成分の役割を簡単に知ることができるでしょう。

 しかし、中には役割が判りづらい成分も存在します。「EDTA」はその筆頭ではないでしょうか。EDTAは様々な化粧品、特にシャンプーや洗顔料などに多く利用されている成分ですが、「キレート剤」「金属イオン封鎖剤」といったキーワードを聞いても、その役割は想像しづらいのではないでしょうか。肌に良いとの記事もなく、防腐剤のように「刺激性」や「毒性」といった嬉しくないキーワードでも取り上げられていない、不思議な存在のEDTAですが、一体化粧品の中でどんな役割を担っているのでしょうか。

EDTAとはどんな成分なの?

 EDTAはエチレンジアミン四酢酸、もしくはエデト酸とも呼ばれる成分で、化学式C10H16N2O8で表されるジアミンの誘導体です。EDTAは化粧品にそのまま利用されることもありますが、水に溶けにくいため、主に「酢酸」の部分を水酸化ナトリウム等で中和したEDTA-2Na、EDTA-4️Naが用いられます。特にEDTA-2Naは化粧品以外でも化学分析など様々な用途に利用されており、用途によってはEDTA-2Naを「EDTA」と呼ぶこともあります。

 EDTA及びそのナトリウム塩に共通の性質として、優れた「金属イオン封鎖」作用が挙げられます。EDTAは水の中に存在する金属イオンと反応し、「錯体」もしくは「キレート」と呼ばれる状態になります。この錯体は無色で水に溶けやすいため、水や化粧品にEDTAを加えても見た目の変化を一切引き起こしませんが、水中の遊離(何かと結合していないフリーな状態の)金属イオンの濃度は大きく低下します。そして、この反応は化粧品、特にシャンプーやボディーソープの品質を保つ上で、とても重要な役割を担います。

金属イオンを「封鎖」するとどんな効果があるの?

 化粧品に使われている「水」は基本的には不純物を取り除いた「精製水」が用いられますが、市販のミネラルウォーターや水道水には微量の不純物やミネラル(金属イオン)が含まれています。水に含まれる金属イオンは身体や肌にとって必要な成分ですが、石鹸やシャンプーに含まれる界面活性剤と反応すると「金属セッケン」と呼ばれる白い物質になります。この物質は一般的には「石鹸カス」とも呼ばれていますが、シャンプーやボディーソープの洗浄力を落としたり、浴室にこびりついたりする厄介な存在です。また、金属イオンは他にも化粧水の沈殿や油性成分の酸化、金属アレルギーなど、私達にとって望ましくない作用を引き起こします。

 EDTAはこの厄介な存在である金属イオンを「錯体」にすることによって封じ込めます。EDTAと金属イオンによって形成された錯体は非常に安定で、温度変化などによって分解されにくいため、封じ込められた金属イオンは他の成分とほぼ反応しなくなります。そのため、石鹸やボディーソープにEDTAを加えることで水中のミネラルによる金属セッケンの発生が抑えられ、泡立ちを良くしたり、石鹸カスがこびりつくのを防いだりすることができ、油性化粧品に加えると金属イオンによる成分の酸化を防ぐことができます。

どうしてEDTAが選ばれるの?

 金属イオンを封鎖する成分は数多くありますが、EDTAを使う理由として、その作用が強い、といったことの他に「無色透明で、水に溶けやすい」ことも挙げられます。金属イオン封鎖剤と金属によって形成された錯体の中には水中で沈殿したり、変色したりするものもあります。必ずしも沈殿や変色は害をもたらさないのですが、安心、安全な化粧品を作る上では「変化しない」ことが何よりも求められます。また、肌に対して刺激性や毒性をもたらさないことも重要な要素ですが、EDTA及びそのナトリウム塩はその点でも大変優れています。

 EDTAと似たような作用を示し、かつ「無色透明で、水に溶けやすい」条件を満たす成分は他にメタリン酸ナトリウムやエチドロン酸などもあり、最近では金属イオン封鎖剤として利用される機会も増えてきました。しかし、錯体を形成する金属イオンの種類が限られている、温度やpHなどの条件で作用が弱まりやすい、といったデメリットがあるため、EDTAの方が好んで用いられています。

EDTAが入った製品、本当に使っても大丈夫?他の選択肢はないの?

 EDTAはその安定性が時にデメリットにもなります。河川に流出したEDTAは中々分解されることなくその性質を保ち続け、水中の金属イオンと錯イオンを形成します。そのため、大量に流出すると水生生物にとって必要な金属イオンが奪われてしまったり、有害な重金属イオンを蓄積してしまったり、といった形で生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されています。

 EDTAの環境負荷は他の成分と比較して決して高くはなく、研究によっては「実は生分解されるため、環境負荷は最小限」と主張しているものもあります。そのため、EDTAの使用を禁止する動きは日本では今のところありませんが、最近ではペンテト酸5Naなど、より生分解に優れ、環境負荷が低い成分が選択されるケース少しずつ増えてきました。

 しかし、このようなデメリットがあっても尚、EDTA及びそのナトリウム塩の持つ優れた効果は化粧品の品質を保つ上でのメリットが大きく、化粧品成分としてかなり重要な役割を果たしています。程よく泡立ち肌にも優しいシャンプーやボディーソープ、沈殿を起こさず安心して使えるスキンケア製品などはEDTAの持つ金属イオン封鎖作用あってこそ成り立つものです。より画期的な成分が見つかるまで、EDTAは貴方の肌に寄り添い続けることでしょう。

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