化粧品に「バリウム」が使われている?
貴方は「バリウム」と聞いてどんなものを想像しますか。おそらく、多くの方は胃のレントゲン検査のときに飲む液体(造影剤)を思い浮かべるのではないでしょうか。造影剤は硫酸バリウムと呼ばれる物質を主成分としており、飲んで消化管の粘膜に付着させ、X線で撮影することによって表面の凹凸を浮かび上がらせ、様々な病気を見つけることができます。造影剤は口当たりが粉っぽく、多くの人が「辛い」「もう受けたくない」と感じる内視鏡検査のことを思うと我慢ができる範囲ではあるのですが、コップ一杯飲むのはしんどく、「嫌い」という方も多いのではないでしょうか。
この「バリウム」こと硫酸バリウムですが、実は化粧品の成分としても知られており、特にファンデーションや口紅といったメイクアップ製品では最も利用されている成分の1つです。「飲み込んでも大丈夫」「粘膜(肌)につけやすい」といった特徴は確かに化粧品に使っても問題なさそうに思われますが、一体どんな目的で利用しているのでしょうか。また、毎日使い続けても安全性には問題ないのでしょうか。
硫酸バリウムとはどんな成分なの?どんな目的で利用されているの?
「バリウム」こと硫酸バリウムは鉱石の一種である重晶石を精錬することによって得られる物質で、単体では白く柔らかい粉末として知られています。ご存知の方も多いかもしれませんが、粉末は水にも油にも溶けにくく(造影剤の「粉っぽさ」の理由です)、化学的にも安定で他の物質とほとんど反応しません。また、硫酸バリウムの色は「白」ですが、比較的光を屈折させずにそのまま透過させる性質があるため、「無色透明」と表現されることもあります。
この硫酸バリウムですが、化粧品には「体質顔料」として用いられています。ファンデーションや口紅といったメイクアップ製品には様々な「顔料」が使用されていますが、粉末状のものは肌につけてもすぐに落ちてしまい、また、酸化鉄やタール色素といった顔料の大半は色が強いため、そのままつけるとナチュラルとは程遠い、ビビットな色味になってしまいます。そこで、体質顔料を化粧品に配合することにより、顔料を肌につけやすくしたり、自然な色味を出したりすることが可能になります。体質顔料には肌への馴染やすさや適度な柔らかさだけではなく、他の成分と反応したり自分の色を出したりしない、裏方としての役割や機能が求められます。
硫酸バリウムはこれらの性質を合わせ持った存在です。また、滑り性にも優れているため肌の上での伸びも良く、使用することで化粧品の使い心地を向上させることができます。代表的な体質顔料としては硫酸バリウムの他にタルクやカオリンなどがあり、同様にメイクアップ製品に利用されていますが、これらの顔料が一般的に白色で透明感を下げるために利用されるのに対し、硫酸バリウムは比較的高い透明感を持っており、他の顔料の色味を妨げないことが特徴です。そのため、ファンデーションなどの白を基調としたメイクに利用されるだけではなく、口紅やチーク、アイシャドウなど様々な「色をつける」メイクにも利用されています。
「硫酸」?「バリウム」?肌や身体への影響は大丈夫?
このように優れた体質顔料としての性質を持った硫酸バリウムですが、化粧品よりも医療目的での利用が有名であること、また、劇物としてのイメージが強い「硫酸」や「バリウム」の化合物であることから、その安全性について疑問を持つ方もいらっしゃるかと思います。本当に毎日肌につけても大丈夫なのでしょうか。
実のところ、硫酸バリウムは構造的に安定であり、他の物質と反応、あるいは分解することによって肌に刺激を与えるような物質を生み出さないため、肌に刺激を与えることなく安全に利用可能な成分です。造影剤としてはその高い安定性が災いし、消化器官に付着したまま排泄されず、長期間残留してしまうことによって問題を引き起こすことがありますが、メイクの場合、クレンジングや洗顔で簡単に落とすことができるため、特に心配する必要はありません。
また、硫酸バリウムはX腺をよく遮るため検査に利用されますが、それ自体が放射線を発生する物質ではないため、被ばくなどの心配もありません。唯一のリスクとして大量に吸い込むと肺に炎症を引き起こすことも知られていますが、鉱山や製造現場で「大量に、日常的に吸い込んだ場合」に問題となることで、仮にパウダーファンデーションを多少吸い込んでしまったとしても(大半の製品は「そもそも飛び散らないように」工夫がされています)直ぐに肺の外へと排出されるため問題ありません。
健康だけではなく、美しさも支える存在として
このように、硫酸バリウムは造影剤として私達の健康を支えるだけではなく、化粧品の体質顔料として私達の美しさをも支えてくれる存在です。中でも「自分の色を出さず、透明であること」は他の体質顔料にはない特徴で(放射線を通さないことを考えると実に不思議です)、口紅やアイシャドウ、チークの鮮やかさを保ちつつ、より使いやすいものへと変えてくれます。今後もメイクアップ製品に欠かせない成分として、様々なアイテムに使われてゆくことでしょう。もし貴方が「バリウム」のことを嫌いになりかけていたら、そんな一面があることを思い出してみてはいかがでしょうか。毎年の健康診断へのモチベーションが、少しだけでも上がるかもしれません。