ひんやりコスメ、爽快だけどちょっと痛い…。
本当に暑い日本の夏、ついエアコンの効いた室内に閉じこもり、冷たい飲み物ばかり飲んでしまう、そんな風に過ごしてしまう方も多いのではないでしょうか。何もしたくない休みの日、1日位はドラマに映画三昧の日も悪くはないでしょうが、身体の冷やし過ぎは身体にも良くないですし、ずっとそうしてばかりはいられません。仕事や買い物、家事に子育て、必ず外に出なければいけない時がやってきます。
そんな時、役立つ化粧品がいわゆる「ひんやりコスメ」です。ひんやりコスメには身体を冷やす、あるいは身体を涼しいと感じさせる作用のある成分が含まれており、化粧水やスプレー等、色々な製品が発売されています。肌に塗ったり吹きかけたりするとしばらくの間暑さを忘れることができるため、お出かけ前、あるいは暑い外から戻ってきた後に使うと効果的です。
暑い夏にはとても便利なひんやりコスメですが、使い心地には課題を抱えています。シャンプーに化粧水にスプレーに、手軽に買える製品を色々と試してみて、どれも「ひりひりする」「しみる」と感じてしまったことはないでしょうか。化粧品といえば肌に優しいはずなのに、ひんやりコスメにはとても刺激の強い成分が入っているように感じてしまいます。
ひんやりコスメの痛さの正体
ひんやりコスメに用いられている代表的な成分はメントールです。メントールはハッカやペパーミントに多く含まれている成分で、化粧品や食品、煙草などに独特の、冷たい感触を出すために使用されています。メントールを皮膚に塗ると皮膚の真皮層に存在する温度感受性のTRPチャネルを刺激し、28℃以下の低い温度を感じるための部位であるTRPM8を活性化させます。そのため、夏の暑い時期に使用するとあたかも涼しい環境にいるように感じられ、暑さによる不快感を和らげることができます。
しかし、メントールは同時に特有の「痛み」も引き起こしてしまいます。メントールは冷たさを感じる部位であるTRPM8を活性化させるだけではなく、刺激や痛みを感じる部位であるTRPA1もまた活性化させてしまいます。メントールは肌に炎症等を引き起こす心配もなく、安心して使用できる成分ですが、TRPA1を刺激することにより、あたかも肌が刺激を受けたかのように感じてしまうのです。
また、メントールは水に溶けにくいため、エタノールに溶かす形でしばしば用いられます。エタノールは肌の上で蒸発して肌の表面の熱を奪うため、メントールと合わせて使用するとよりひんやりとした感触を得ることができますが、アルコールに敏感な方にとっては刺激を感じる原因となってしまいます。
ひんやりコスメの痛い感覚、和らげる成分はないの？
暑さの不快感を和らげたいけれども、メントールの「痛い」感覚が苦手といった場合、どのような製品を選べば良いのでしょうか。幸いにも、ひんやり効果を持ちつつもあまり痛みを感じさせない、あるいは痛みを感じる作用を軽減させるための成分が存在し、製品に取り入れられています。
この2つの効果を兼ね備えた代表的な成分として、ユーカリ葉エキスが挙げられます。ユーカリ葉エキスに含まれている代表的な成分である1,8-シネオールは独特の爽やかな匂いを持った化合物ですが、TRPチャネル中のTPRM8を活性化させ、涼しさを感じさせるのと同時に刺激や痛みを感じるTRPA1の作用を抑制する働きがあります。したがって、メントールと一緒に使用した場合、メントールによる刺激感を和らげる効果があります。また、ユーカリ葉エキスは他にも肌表面のセラミドを増加させることにより、肌表面の状態を改善させる効果も併せ持っているため、暑さの不快感への対処とスキンケアを両立させることが可能です。
また、セイヨウハッカ葉エキスはメントールを主成分としたペパーミントから抽出した植物エキスですが、ユーカリ葉エキスと同様に1,8-シネオールを含んでいること、同じくTRPA1への作用を緩和する働きを持つメントール誘導体（メントン等）を含んでいること、肌を引き締める効果のあるタンニンを含んでいることからメントールよりも低刺激で、かつ暑さに対して別なアプローチからも効果的な成分です。セイヨウハッカ葉エキスには抗酸化作用等も認められているため、スキンケア効果も期待できます。
より心地よい「ひんやり」を手に入れるために
前節ではメントールの刺激感を和らげるための成分を紹介しましたが、刺激感が気になる場合、身体の部位や状態に合わせて効果自体を抑えたもの、あるいは別な効果を持ったものを使うことも大事です。
メントールを配合したひんやりコスメには化粧水からシャンプー、ボディースプレーまで様々な種類がありますが、特にひんやり感を重視したものについては製品の謳い文句としても「ひんやり」が強調されていることが多いです。蒸し暑い夏の日に、身体の不快感を抑えるのには最適ですが、皮膚が薄く、刺激を感じやすい顔に使用するには化粧水や美容液などの効果を第一としたもの（使用感を良くするためにメントールが含まれていますが配合量は控え目で、また、ユーカリ葉エキスなどが一緒に使われているため刺激を感じにくくなります）を使う方がお勧めです。製品自体のひんやり効果は控えめですが、冷水での洗顔を合わせて行うことによって、十分にひんやり効果を感じることができます。
また、外から帰ってきた後、スポーツの後などに手軽にひんやり効果を感じたい場合はメントールを含んでいない、スプレータイプの製品を使用するのも良いでしょう。効果はあまり持続しませんが、スプレー内のガスやエタノールが気化する時に熱を奪って周囲の温度を下げるため、火照った身体を冷まし、汗を引かせることが可能です。その後は十分に水分を補給して、エアコンの効いた室内で過ごして下さい。
化粧品のカテゴリからは外れますが、より強いひんやり効果を求める場合、衣類に吹きかけるタイプの製品も販売されています。スポーツ向けのコールドスプレー等と同様のもので、皮膚に直接吹きかけると凍傷の恐れがあるので注意が必要ですが、衣類や身体の熱をより効果的に冷ましてくれます。
暑いのは嫌だけど、どうも不安でひんやりコスメは使う気になれなかった、そんな方もいらっしゃることでしょう。しかし、ひんやりコスメに限った話ではありませんが、成分や痛みの原因について正しく知っておくことで、その不安を和らげ、安心して使用することができます。貴方の夏が少しでも涼しく、快適な季節になることを祈っています。
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