とても身近な化学物質「エタノール」
貴方は「化学物質」と聞いて何を思い浮かべますか?化学物質とは特別なものではなく、毎日生きていく上で欠かせない水も、食ベ物も、手に触れているスマートフォンやキーボードも全て当てはまるのですが、「何か特別な効果を持った成分」を化学物質として考えるのであれば、「アルコール」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。飲んで少し幸せな気分になったり、傷口の消毒に使ったり、特別な効果を期待して使う成分として、アルコールは私達の生活にとって欠かせないものとなっています。
そして、私達がアルコールとして思い浮かべている成分は多くの場合、「エタノール」のことを指します。化学的な意味でのアルコールには多くの種類があり、シャンプーに使われている高級アルコールや肌をしっとりさせるグリセリンもその一種ですが、お酒をはじめとして、私達が日々の生活で「アルコール」として意識して取り入れているものの大半がエタノールです。エタノールは化粧品の分野でもとても身近な存在で、国内で販売されている2万種類以上もの製品に成分として取り入れられています。
エタノールの役割①「水と油を混ぜ合わせる」
エタノールは化粧品においてどのような役割を担っているのでしょうか。エタノールの第一の役割は「水と油を混ぜ合わせること」です。一般的に水と油はお互いに混ざり合わない存在として知られていますが、化粧品には肌の皮脂(油)と馴染み、かつみずみずしさ(水分)を保つといった機能が求められます。そのため、化粧品には油と馴染みやすい成分、水に馴染みやすい成分の両方が必要となり、かつ両者を製品内で分離させないための工夫が必要となります。
エタノールは構造内に水と馴染みやすい親水基、油と馴染みやすい疎水基と呼ばれる部分の両方を持つため、水にも油にも溶けやすく、また、溶媒として多くの物質を溶かし込みます。化粧水や乳液、ローションのような水分量の多い製品では、水に適量のエタノールを加えることにより、水に溶けない成分も製品中に取り入れることが可能です。水性成分、油性成分を共存させるためには乳化剤を加えて「乳化」させる方法もあり、こちらも化粧品ではお馴染みですが、エタノールは乳化剤と比較して温度や他の物質の影響を受けにくく、成分を安定して溶かし込むことが可能です。
エタノールの役割②「化粧品を長持ちさせる」
化粧品におけるエタノールの第二の役割は「化粧品を長持ちさせる」ことです。化粧品は肌に直接塗って使うため、炎症の原因となるカビや雑菌が繁殖しないように注意する必要があります。カビや雑菌の繁殖を防ぐためには「混入自体を防ぐ」「混入しても繁殖しないような対策をする」といった2つの手法がありますが、化粧品は「手に取って使う」「常温で保存する」「直ぐに使い切らず、数ヶ月間保管する」製品のため、後者の方法が適当です。
エタノールにはカビや雑菌の繁殖を防ぐ、防腐剤としての効果があります。高濃度のエタノールは殺菌、消毒作用でも知られており、かつては医療や介護の現場で、最近では新型コロナウイルス感染防止の為に様々な場所で使用されていますが、比較的低濃度でも繁殖を抑える効果があることが確認されています。
防腐剤としての効果に特化した成分としてはパラベンやフェノキシエタノールが知られていますが、エタノールの効果はこれらの成分には及ばないものの、実際に使用される濃度では十分に実用的で、1,3-ベンゼングリコール等と比較しても高い効果を発揮します。パラベンやフェノキシエタノールはアレルギー反応や発がん性の観点から(実際にはリスクは低いのですが)使用が避けられることがあり、そのような製品ではエタノールが防腐剤としての主要な役割を担っています。
エタノールの役割③「さっぱりとした使い心地」
エタノールの主な使用目的は溶媒として、あるいは防腐剤としてのものですが、エタノールには化粧品の使い心地を改善する効果もあります。エタノールは肌の表面で揮発し、肌表面の熱を奪う作用があるため、エタノールが多く含まれた化粧品を使用するとさっぱりとした使い心地になります。その為、さっぱりとした使用感が好まれる男性向けや夏向けの製品等に好んで取り入れられます。よりひんやりとした感触を持たせる為にはメントールやユーカリ葉エキス等が使われることがありますが、冷感と同時に痛感も刺激してしまい、やや好みの分かれる使い心地になるため、より穏やかなエタノールの方が好まれます。
また、エタノールには毛穴を引き締めて皮脂の分泌を防ぐ収れん作用や肌の皮脂を取り除く効果も期待できます。そのため、皮脂が過剰になり、肌がべたつきやすい夏場の使用には、単に使い心地が良いだけではなく、肌の環境を整えるといった観点からも適しています。皮脂を取り除く、あるいは毛穴を引き締めるための成分は他にもありますが、エタノールは最も手軽に利用可能で、かつ安全な成分として多くの製品に使用されています。
エタノールが合わないけれど、どんな化粧品を使えば良いの?
便利な成分として多くの化粧品に使用されているエタノールですが、時に悩みの種でもあります。エタノールに対してアレルギーを持っている場合、アルコールのパッチテストを受けた後のように、化粧品を塗った周辺が赤くなってしまうことがあります。この症状に悩まされ、様々な「肌に良い」と言われる製品を探し、試してみた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
色々な働きを担っているエタノールですが、幸いにも他の成分でも代替することができます。幾分選択肢は限られて、また、若干高価になってしまいますが、アルコールが合わない方でも安心して使える化粧品として、エタノール不使用の製品が「アルコールフリー処方」を謳って販売されています。アルコールフリー処方の製品の中には界面活性剤のような「高級アルコール」が使用されていることもありますが、エタノールと高級アルコールは全く別な成分であるため、安全に使用することができます。
結局、どうしてエタノールは使われているの?
時にはアレルギーの原因として避けられることもありますが、エタノールは化粧品において最も使用される成分の1つとして、確固たる地位を築いています。エタノールと同じ効果を持った成分は他にもありますが、複数の効果を併せ持ち、かつ手軽に利用できる成分は他にはありません。また、私達とエタノールの付き合いは他の成分と比べてもとても深く、どのように使うべきかをよく理解しています。
私たちが開封しても安全に使用でき、配合成分を安定させ効果を十分に発揮させる類まれな成分だからです。
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