ベビーパウダーに発がん性?化粧品成分タルクはどうして問題になったの?

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タルク入りベビーパウダーに発がん性?

 2022年8月、米ジョンソンエンドジョンソン社は同社のベビーパウダーの販売を2023年限りで販売停止する旨を発表しました。これは、同社のパウダーを使い続ける、あるいは生産に従事することとがんの発症が裁判で関連付けられたことに起因します。因果関係については不明な点も多く、未だ係争中の案件ではあるのですが、米国だけではなく他の国でも安全性に対する疑問が提起され、訴訟が起こっています。

 問題となった製品はいずれもベビーパウダーもしくはボディーパウダーですが、その中に含まれる「タルク」と呼ばれる成分の発がん性が問題となっています。タルクはファンデーションやボディーパウダーに含まれている白色もしくは灰色の粉状の成分で、製品の滑りを良くして使用感を向上させるために、メイクアップ製品を中心に利用されています。「安全な成分」として長年使用されてきたものですが、どうして問題になったのでしょうか。

「タルク」とはどんな成分なの?

 そもそもタルクとはどのような成分なのでしょうか。タルクとは天然に存在している滑石と呼ばれる粘土鉱物を砕いたものです。化学的には含水ケイ酸マグネシウムと呼ばれ、組成式Mg3Si4O10(OH)2で示される白色、粉末状の物質です。

 化粧品に使われる粘土鉱物には他にもファンデーションなどの基剤に使われているカオリンやクレイパックの成分として知られるモンモリロナイト等がありますが、タルクはあらゆる鉱物の中で最も柔らかく、滑りやすいといった特徴を持っています。化粧品に配合すると肌の上で油のようによく延びますがべたつかないため、その質感が大変好まれ、化粧品の使用感を向上するために取り入れられてきました。

 また、タルクは使用感の良さだけではなく、適度な光沢(酸化チタンと組み合わせてファンデーションの光沢感を調整しています)や吸着力の高さ、抗炎症作用等を持ち合わせています。その上、化学的に安定で肌に刺激を与えないため、フェイスパウダーやファンデーションなどの普通肌向けの製品だけではなく、ベビーパウダーなどのセンシティブな肌を対象とした製品にもその性質を活かし、広く使用されてきました。

「タルク」はどうして問題になっているの?代わりの成分はないの?

 基本的には安全性の高い成分として知られているタルクですが、かつては製法の都合上、一定量の不純物が混入してしまうことがありました。混入の可能性がある成分の中で問題とされるものはアスベストです。アスベストはMg3Si2O5(OH)4で表される結晶状の鉱物で、タルクと組成が似ており同じ場所でしばしば採掘されます。かつては耐熱性の高い建材としてよく用いられましたが、肺に取り込まれると肺がんの一種である中皮腫の原因となるため、今日では使用が禁止されています。アスベストの危険性は認識されており、混入防止のための対策が取られてきましたが、かつては選別が十分ではなく、微量のアスベストが混入してしまうことがありました。

 そして、米国では現在、アスベストが混入したベビーパウダーの使用と卵巣がんの因果関係が提起されています。通常の顔や毛髪などを対象とした化粧品であれば微量のアスベストが含まれていても体内に取り込まれにくいため影響は少ないです。しかし、米国を中心に「ベビーパウダーを股ずれ防止の為に使用」する習慣があったため、局部より体内に取り込まれて卵巣に蓄積し、がんを誘発した可能性が示唆されています。この使い方は日本ではやや馴染みが少ないのですが、本来、「赤ちゃんの身体に塗って使う」製品であるため、ベビーパウダーのタルクが危険であるといった旨は様々な形で取り上げられました。

 この問題に関しては肯定、否定の両方の立場が存在し、未だ確証が得られていない状況です。アスベストはかなり身近に存在する物質であること、また、使用から発症までの期間が長いことから因果関係を証明することは容易ではありません。しかし、より安全な成分に置き換えらえるのであればそれに越したことはありません。

タルクの有害性についての研究は引き続き進められていますが、それと並行する形でタルクの代替となる成分が検討され、置き換えが始まっています。最も利用されているものはコーンスターチです。コーンスターチは植物トウモロコシから作られるデンプンで、刺激が少なく発がん性も認められていない成分です。触ったときの感触や水分の吸収作用など、タルクと異なっている点もありますが、ベビーパウダー向けとしてはタルクの代替成分として広く利用されるようになっています。

「タルク」の入った製品、使い続けても大丈夫?

 このような問題を抱えているタルクですが、今日ではアスベストの混入に十分な対策が取られており、使用のリスクは十分に低いと考えられます。また、発がん性物質の摂取から発病までには数十年の期間があり、がんの原因には様々な要素が絡んでいるため、必要以上に心配する必要はありません。例えば、タルクは日焼け止めにも使用されていますが、日焼けには短期的、長期的にタルクの使用より高いリスクが存在します。

 しかし、ベビーパウダーやボディーパウダー等、全身に使用する用途に関しては、安心を求めるのであれば他のコーンスターチ等を主成分とした製品を利用すると良いでしょう(大切な子供に使用する成分であれば尚更です)。また、フェイスパウダーやファンデーションにとってタルクは欠かせない成分ですが、粉が舞った時には(他のパウダー製品も同様ですが)大量に吸い込まないよう注意が必要です。

 化粧品には基本的に「安全性が認められた」成分が使用されていますが、基準は常に見直しが行われており、技術の進歩と共に、より肌に優しく安全な成分へと置き換えられてゆきます。その中で一人一人にとって最も大事なことは、自分の肌の調子と向き合い、化粧品の「合う」「合わない」を判断することです。ある人にとって良い製品であっても、自分にとってそうだとは限らないのが化粧品の難しさですが、同時に魅力でもあります。時々ニュースに気を配りながら、あれこれ試してみてはいかがでしょうか。

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