「石油系成分」=身体に悪い?
貴方は「石油」と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか。遠い沙漠の国、大きなタンカー、車の燃料、人によってそれぞれかと思いますが、「化粧品」がセットになると、ネガティブな印象を持ってしまう方も多いのではないでしょうか。最近では少し落ち着いた印象も受けますが、シャンプーやコンディショナーなどを中心に、「石油系の成分は刺激が強く、髪を痛めてしまう」「天然由来の成分は髪や肌に優しいので、そちらを使うべき」といった記事が多く見受けられました。
また、このような話はヘアケア製品だけではなく、スキンケアやメイクアップの製品でもみられ、ワセリンやタール色素など、ごく当たり前に使われていた石油系の成分が「肌荒れを引き起こす」「肌に馴染まない」成分として問題視されています。時にはシャンプーよりも過激な論調で「どうしてそんなものを使っているのか」と問いかけるような記事もあり、読み手の不安を大いに掻き立てます。では、どうして石油系の成分は髪や肌に悪い、と言われるようになったのでしょうか。
石油系成分の「問題点」①肌や皮脂との馴染みにくさ
石油系成分が「髪や肌に悪い」と言われる原因の1つとしては、「皮脂との馴染みにくさ」が挙げられます。シャンプーの例を挙げると、石油を原料として合成される「石油系界面活性剤」は「アミノ酸系」の成分と比較して分子量が低く、また、構造がより単純なため皮脂をより多く取り除きます。また、ハンドクリームの石油系成分であるワセリンは肌からの水分蒸発をよく防ぎますが、皮脂との構造が大きく異なり、また、水と馴染みやすい部分を持っていないことから、皮脂に近い構造のシアバターなどと比較してどうしても「蓋をされた」感覚になってしまいます。
この「馴染みにくさ」は石油系成分の大きなデメリットです。最近では使用感を改善するための様々な工夫がなされていますが、構造に起因するものであるため完全には克服できません。乾燥気味の頭皮に石油系のシャンプーを使うとどうしても皮脂不足になってしまい、また、香料などでは天然由来のものと比較した際の匂いの違いに違和感を覚える方がいらっしゃいます。どれも適切に使う分には問題はないのですが、その価格の安さと使用時の違和感が故に「安かろう悪かろう」と言われてしまうことがあります。
石油系成分の「問題点」②不純物による刺激やアレルギー
石油系成分のもう1つの問題点として挙げられているのが「石油由来の不純物」による肌への刺激性です。代表例としてはワセリンが挙げられ、ワセリンはかつて「安価だけども不純物が多く、刺激性がある」成分として知られていました。また、海外コスメの成分を検証したところ、溶剤としてのエタノールの中に刺激の強い副生成物「メタノール」が確認され、海外コスメはあまり使わない方が良い、と紹介されたことがありました。
このような事例はかつて多く発生していましたが、精製技術の進歩や品質管理の意識向上によって年々少なくなっています。ワセリンは今日では「赤ちゃんでも使える成分」として紹介されており、中国などの海外製品も規制の強化などにより、「日本では使用できない」成分が含まれている(防腐剤などは国ごとに使用可、不可の基準が異なります)、ということはあっても、意図しない不純物が含まれるケースはあまり聞かれなくなりました。
そして、この不純物の問題は最近、石油系成分を使うデメリットではなく、むしろメリットに変化しつつあります。保湿成分として有名なグリセリンは石油由来のプロピレンから合成する方法、油脂を分解する方法のいずれでも合成可能ですが、前者の方がより純度の高いものを得ることができます。また、天然由来成分は「予測できない成分」をしばしば含んでいるのに対し、石油系成分を合成して得る場合、その副産物はおおよそ予想可能です。そのため、アレルギーなどを防ぐ観点からすれば、石油系成分の方が安心して使うことができる、といえるでしょう。
「石油系成分」「天然由来成分」それぞれの役割
このように、かつては「肌荒れを引き起こす」「肌に馴染まない」と言われていた石油系の成分は、技術の進歩や意識の高まりにより、必ずしもそうとは言えない存在となりつつあります。肌や髪への馴染みやすさを重視するのであれば「天然由来成分」を使ったコスメを使うメリットが大きいのですが、より安心、安全なものを使いたい、と考えた場合、今日では石油系成分中心のコスメも十分に選択肢になり得ます。また、石油系成分の製品は「手に入れやすい」「成分が変わりにくい」といったメリットもあり、普段使いのコスメとしてはとてもありがたい存在です。
化粧品において石油の果たしている役割はあまりにも大きいものです。天然由来の成分も様々なものが発見され、化粧品に応用されていますが、同じような成分を石油から合成することにより、効果と手に取りやすさを両立した製品が日々生み出されています。「肌に悪そう」と決めつけてしまうのではなく、フラットな目線で様々なものを試し、自分に合ったものを探してみてはいかがでしょうか。