化粧品成分「ひまわり油」から世界の繋がりを考える

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ウクライナ情勢が化粧品に与える影響

 2022年2月、驚くべきニュースが世界を駆け巡りました。ロシアがウクライナに対して宣戦布告なしに全面的に侵攻を開始したのです。両者は領土や民族の問題を抱えており、東部では地域紛争も起こっていましたが、全面的な侵攻は予期されておらず、その衝撃的な様子がニュースやSNSで大きく取り上げられました。戦闘は2022年9月現在、ロシアの侵攻が頓挫し、長期戦の様相を呈していますが、戦争の当事国の方々だけではなく私達の生活にも光熱費や日用品の値上がりといった形で大きな影響を及ぼしています。

 化粧品の世界でも例外ではありません。世界中の原材料を集めて作られる化粧品についても、新型コロナウイルスの流行と相まって、原料不足や価格の高騰に悩まされています。中でも化粧品の基剤成分として広く使用されている植物油については、2022年9月現在ではやや落ち着きを取り戻しているものの、開戦当初には信じられないような高値となりました。原料価格の影響は数ヶ月遅れで製品価格に反映されるため、今後、徐々にいつも使っている製品の値上げが懸念される状況です。

ウクライナの国花「ヒマワリ」とひまわり油

 ウクライナはチェルノーゼムと呼ばれる肥沃な土壌に恵まれており、世界有数の穀倉地帯として知られています。そこでは小麦やトウモロコシ、大豆といった穀物を中心に多くの作物が生産されています。中でもウクライナの方の誇りとなっている作物の1つが、国花として定められているヒマワリです。ウクライナでは古くからヒマワリが栽培されており、一面に拡がるヒマワリ畑の姿は不朽の名作映画「ひまわり」で世界的に有名になりました。

 ヒマワリは観賞用としても私達に元気を与えてくれますが、世界では主にひまわり油を収穫するために栽培されています。ひまわり油はヒマワリの種子を圧搾することによって得られますが、栽培しやすく手軽に得られる食用油として古くから用いられてきました。ひまわり油は食用油の中でもとても身近な存在で、世界の植物油生産量で第4位、約10%を占めています。しかし、その生産地は意外に限られており、世界最大の生産量を誇るウクライナと第2位のロシアで世界中のひまわり油の半分以上を生産しています。

ひまわり油と化粧品

 食品としてのイメージが強いひまわり油ですが、化粧品でも天然由来の油脂としてしばしば利用されています。ひまわり油が積極的に選ばれる理由としては基材成分としての使い勝手の良さが挙げられます。植物油には色々な種類の脂肪酸が含まれていますが、ひまわり油はリノール酸と呼ばれる不飽和脂肪酸を主成分としています。リノール酸は皮脂にも含まれている成分のため、他の脂肪酸と比較して大変肌に馴染みやすく、肌を強く刺激することもありません。脂性肌に使いすぎてしまうとニキビや毛穴詰まりの原因となるため注意が必要ですが、肌に塗ると皮脂を補い、肌表面の水分を保持する働きがあります。融点も-17℃前後と低く常温で液体のため、他の基剤と混ぜることなくそのまま肌に塗ることが可能です。

 また、ひまわり油には微量成分によるスキンケアの効果も期待することができます。ひまわり油には他の植物油と同様に抗酸化作用に優れたビタミンEが豊富に含まれており、油自体の酸化を防ぐだけではなく、肌のシミやシワの予防効果も期待できます。また、他の植物油よりも肌のターンオーバーを促進するビタミンAやビタミンBを豊富に含んでいるため、使い続けることで肌質の改善も期待することができます。

 ひまわり油は持続可能性の面でも優れています。ヒマワリは比較的育てやすい植物で、同じ土地に植え続けることによる連作障害も少ないと言われています。また、ヒマワリにはその太い根や菌根菌による土壌改良の効果があるため、小麦などを収穫した後に植えることで土地の生産力を回復させ、連作障害を回避します。その為、ひまわり油を適切に利用してヒマワリの栽培を促すことで、持続可能な農業を促すことが可能です。

ひまわり油の代わりになる成分はないの?

 では、もしひまわり油が利用できなくなった場合、他の成分で補うことはできないのでしょうか。植物油には多くの種類があり、「似たような」成分は多くあるのですが、完全に置き換えることは容易ではありません。肌に優しい植物油としてはオリーブ油が代表的で、皮脂に近いオレイン酸を主成分としていますが、生産量がひまわり油の1/10程度のため不足分全てを補うことは難しく、また、低温では固まってしまいます。

 一方、ひまわり油より生産量の多い油で考えた場合、パーム油は飽和脂肪酸の一種であるパルミチン酸を主成分としているため常温では固まってしまい、大豆油や菜種油は酸化されやすいリノレン酸を比較的多く含んでいるため保存性に劣ります。また、生産量の多いこれらの油についても慢性的に供給が不足しているため、ひまわり油の分を全て賄うことは難しい状況です。また、生産を増やそうとすると今度は連作障害が懸念されます。

 価格を抑えるのであれば安定して手に入る鉱物油を使うことになるでしょう。鉱物油は安全、安心に使える成分ですが、肌には植物油ほどよく馴染みません。また、ナチュラルコスメをテーマに製品を作っていた場合、そのテーマを諦めなければなりません。

ひまわり油から世界を考える

 日々、世界中から輸入されたものを使っていた私達ですが、それがあまりにも身近な存在であるため、世界との繋がりを感じることは少なかったように思われます。しかし、最近になって新型コロナウイルスの流行や戦争など、「当たり前」が脅かされ、世界と私達が密接に繋がっており、その繋がりが意外に脆いことを再認識させられました。

 私達が日々、手頃で使いやすい化粧品を使い続けられるのは生産地の方々の努力と平和の賜物です。言葉は通じ合わなくとも、製品を通して私たちはウクライナやロシアの方々と繋がっています。ひまわり油の化粧品を使ったり、ヒマワリの花や種を眺めたりしながら現地の方々の生活を思い浮かべ、平穏な日々が少しでも早く戻ることを願いましょう。

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