柑橘系コスメは肌に悪い?
冬の味覚の定番として、柑橘系の果物は私達の日常に深く溶け込んでいます。日々の食卓を彩るミカンやグレープフルーツ、酸味を加えるレモン、香りを楽しむベルガモットなどその種類も様々で、特に意識をしていなくても、毎日のように食べたり、料理で使ったりしている方も多いのではないでしょうか。また、柑橘系の果物は日用品、化粧品、精油の世界でもお馴染みの存在で、売り場には柑橘系の成分やフレーバーを利用した製品が多く並んでいます。「柚子の入浴剤」はその代表例で、果物としての柚子に触れたことはなくても、利用したことのある方は多いのではないでしょうか。
しかし、この柑橘系の製品について、時々「光毒性」というキーワードを見かけることがあります。「光毒性」を扱った記事ではそのメカニズムについて、「柑橘系の成分の一部が紫外線と反応し、シミや皮膚炎の原因となる」ことが紹介され、化粧品や精油を直接肌につける場合は朝方を避けること、また、中には朝食での摂取を控えた方が良い、といった意見が紹介されているものもあります。この反応はどのような成分によるものなのでしょうか。また、使う上ではどのような注意が必要なのでしょうか。
光毒性の原因「フロクマリン」
柑橘系成分の光毒性の原因は「フロクマリン」もしくは「フラノクマリン」と総称される成分によるものです。フラノクマリンはラクトンの一種であり、桜の葉の香りの匂い成分として知られるクマリンに芳香族化合物の一種であるフランが結合したもので、柑橘系の果物には「ソラレン」「ベルガプテン」と呼ばれる成分が含まれています。ソラレンやベルガプテンはベルガモットやグレープフルーツの皮の部分に主に含まれており、自然界ではその刺激性によって、昆虫による捕食を防ぐ役割を担っています。
このフロクマリンは通常の状態では毒性を発揮しません。そのため、ベルガモットやグレープフルーツの皮を包丁で剥いても直ぐに手が荒れたりすることはありませんが、紫外線に長時間当てるとエネルギーによって構造が不安定となり、フリーラジカルと呼ばれる反応性の高い電子を産み出す性質があります。そして、このフリーラジカルは肌に対して活性酸素と同様の連鎖反応でダメージを与え、また、肌はダメージを防ぐため、紫外線の吸収作用に優れたメラニン色素の合成を活性化させるため、刺激による皮膚炎やシミの沈着を引き起こします。これがいわゆる「光毒性」や「光感作」と呼ばれる反応です。
「光毒性」のリスク、どこまで気にする必要があるの?
フロクマリンによって引き起こされる光毒性は厄介な作用です。しかし、そのリスクは一部で話題になっている程高いものではありません。まず、柑橘系の果物の中でもフロクマリンが多く含まれているものはグレープフルーツやベルガモットなど一部であり、ミカンや柚子にはほとんど含まれていないため、安心して利用することができます。また、グレープフルーツやベルガモットに関しても、フロクマリンは皮の部分に集中しており、通常の食事で摂取する量ではまず問題にはなりません(グレープフルーツの場合は皮ごと1個程度、ベルガモットはより少ないのですが、苦味が強く生食する機会自体が稀です)。
フロクマリンによる光毒性に注意が必要なのは主に「精油」や「抽出物」を利用する場合です。柑橘系の精油は実の皮の部分から油性成分のみを選択的に抽出することによって得られるため、フロクマリンをはじめとした油性成分が濃縮された状態で存在します。匂いも爽やかで心地よいベルガモットやグレープフルーツの精油ですが、希釈せずにそのまま多量を肌につける使い方は避けるべきです。また、精油が利用された化粧品を肌につけた直後は日焼け止め対策を十分に行い、また、長時間屋外を歩くことを避けた方が良いでしょう。フロクマリンは時間と共に分解されますが、数時間程度は注意が必要です。実際に光毒性のある成分が使われている場合、化粧品の箱や説明書に紫外線に関する注意が書いてあることが多いため、柑橘系をテーマにした製品を使う際は必ず目を通すようにしてください。
より使いやすくなった「柑橘系コスメ」
このように、グレープフルーツやベルガモットなど、一部の柑橘系に由来した製品では注意が必要な「光毒性」ですが、最近では抽出方法の改良により、精油や抽出物に含まれるフロクマリンやベルガプテンを除去した原料も広く利用されるようになりました。これらの原料は「グレープフルーツFCF」、「ベルガモットBGF」のように、精油や抽出物の名前の末尾にフリー処方であることを示す旨が追記されており、従来の圧搾法ではなく、水蒸気蒸留法などを用いて生産されています。
これらの原料中に含まれるフロクマリンやベルガプテンの量はごく僅かで、光毒性がかなり抑えられています。現在ではフリー処方の原料が用いられる機会が増えつつあるため、かつて柑橘系の化粧品によって引き起こされていた肌荒れの心配はより少なくなっています。肌につけて刺激を感じることもありますが、その原因は主に柑橘系由来のクエン酸やリモネンによるもので、肌が健康な状態であれば様々なメリットを享受することができます。
柑橘系のコスメや精油はその爽やかな香りや肌に嬉しい効果が知られていたものの、同時に「光毒性」が懸念され、時に敬遠される存在でもありました。しかし、今日では様々な研究が進められたことにより、安心して利用できる製品と変化しつつあります。今まで日焼けやシミを気にして二の足を踏んでいた方も、一度手に取って試してみてはいかがでしょうか。きっと、貴方の毎日がもう少しだけ色鮮やかなものになることでしょう。
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