飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、何が違うの?化粧品への使い分けは?

「飽和脂肪酸」?「不飽和脂肪酸」?

 あなたは「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」という言葉を聞いたことがありますか?おそらくほとんどの方が、オリーブオイルやグレープシードオイルに含まれている不飽和脂肪酸が体に良い、あるいは飽和脂肪酸を摂りすぎると、体にあまり良くない、といった記事を見たことがあるのではないでしょうか。実際に食べ物から脂肪酸を摂取する時、飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸の方が悪玉コレステロールの増加が抑えられることなどが知られており、不飽和脂肪酸を使った様々な食品が販売されています。

 この「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」ですが、化粧品の世界でもとてもお馴染みの成分で、スキンケア、メイクアップ、ヘアケアからクレンジングまであらゆるジャンルに、このいずれかもしくは両方が使われています。一体、この両者にはどんな違いがあるのでしょうか。また、どのように使い分けられているのでしょうか。

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、どんなところが違うの?

 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の構造はよく似ており、動物や植物の体内にはその両方が存在します。化粧品に使われている炭素数14から20位のものはいずれも基本的には水に溶けにくく油に溶けやすい成分で、皮脂と構造が似ているため、肌とのなじみが良いことが特徴です。最もよく知られているものは炭素数18のもので、飽和脂肪酸であるステアリン酸はカカオバターや牛脂の主成分、1価の不飽和脂肪酸であるオレイン酸はオリーブオイルの主成分として知られています。

 この両者の違いは分子内に「二重結合」があるかどうかです。飽和脂肪酸であるステアリン酸は分子内の炭素原子がすべて隣同士の炭素と同じような形で結合していますが、不飽和脂肪酸であるオレイン酸は1つだけより結びつきの強い「二重結合」と呼ばれる構造を持っています。また、美容への効果が知られているリノール酸は同様に炭素数18の脂肪酸ですが、構造内に二重結合を2つ持っています。

 分子内の二重結合は分子に2つの影響をもたらします。まず、二重結合の多い分子ほど隣同士の炭素の距離が短くなり、自由に形を変えられなくなるため(分子模型を見たことがある方はご存知かもしれませんが、分子は直線ではなく、レゴブロックのような立体構造を持っています)構造がコンパクトになります。分子がコンパクトになるほど隣同士の分子がまるで接着剤のように引き合う力(分子間力)が弱くなるため融点が低くなり、低い温度で液体になります。一般的に飽和脂肪酸は常温では固体で、不飽和脂肪酸は液体であることが多いです。

 また、二重結合は一般的な結合と比較して他の物質と反応しやすい性質があるため、二重結合の多い脂肪酸ほど酸化されやすい特徴があります。そのため、二重結合の多い脂肪酸は飽和脂肪酸と比較して長期間の保存には向いていません。しかし、この性質をうまく活かすことで、肌への刺激やシミなどの原因となる空気中の活性酸素や過酸化脂質と反応させて「身代わり」の役割を務めることで、紫外線から肌を守ることができます。                               

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、どんな風に使い分けているの?

 このように、二重結合の有無によって化学的性質が異なる飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸ですが、化粧品には主に融点の違いを活かした使い分けがされています。融点の高い飽和脂肪酸を多く用いると、製品は常温では硬く溶けにくいバーム状のものになり、手のひらや肌の上に乗せたり、場合によってはお湯で温めたりすることで、初めて溶けて液体になりますが、融点の低い不飽和脂肪酸を多く用いると、常温でそのまま肌に付けて伸ばせるオイルやクリーム状の製品が出来上がります。

そして、この両者を混ぜることで溶けやすさを自在にコントロールできるため、工夫次第で「ポーチの中では液体でも、人肌でとろける」といった製品を作ることができます。天然のオイルで丁度「人肌でとろける」組成を持っているのがシアバターやココアバター、口の中でとろけるものが牛脂やラードで、どれも化粧品成分としてだけでなく、食品としてお馴染みの存在です。また、石鹸の原料として使った場合も飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸では同様の違いが見られ、飽和脂肪酸を使ったものが硬く、冷たい水ではやや溶けにくいのに対して、不飽和脂肪酸を使ったものは柔らかく、低温での泡立ちに優れています。

 また、これらは「反応のしやすさ」によって使い分けられるケースもあります。基本的に化粧品の原料としては酸化に強い飽和脂肪酸、もしくは二重結合を1つだけ持った不飽和脂肪酸が好んで用いられ、よりサラサラとした二重結合の多い不飽和脂肪酸を使う場合はビタミンEなどの酸化防止剤を添加したり、元々酸化防止剤が多く含まれている油を使ったりすることが一般的です。

 しかし、最近では不飽和脂肪酸の反応性の高さを利用するケースも増えてきました。最も有名な例は二重結合を2つ含んだ炭素数18の脂肪酸である「リノール酸」で、肌につけるとメラニン色素の合成を促進する酵素チロシナーゼの活性を阻害し、シミやソバカスの発生を予防する効果が知られています。リノール酸はそのままでは酸化に対して不安定ですぐに分解されてしまうため、ナノカプセルに入れて肌の内部にそのまま届きやすくしたものがスキンケア製品を中心に利用されています。

「使い心地」を判断する材料として

 このように、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸は構造の微妙な違いによって異なる性質を示すため、化粧品にはそれぞれの特徴を活かす形で使い分けがされています。食品では不飽和脂肪酸の方がやや身体に良いイメージがありますが、化粧品に関してはそのようなことはなく、「とろけやすさ」「柔らかさ」など主に感触の部分に影響します。そのため、どちらを積極的に選ぶ、というのではなく、製品の使い心地を推測する1つの材料として使うのが良いでしょう。

 化粧品選びはあまりにも情報が「飽和」していて、本当に悩んでしまう作業です。脂肪酸の「飽和」「不飽和」を1つの基準としてみてはいかがでしょうか。

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