輝くだけじゃない、化粧品成分「アルミニウム」の地道な役割
貴方は「金属」と聞いてどんなものを思い浮かべますか。最も有名な鉄に金、銀、銅、プラチナ、ニッケルなど、様々な金属が生活のあらゆる場所に利用されていますが、アルミニウムもまた、私達の生活に深く根付いた金属の1つです。軽く丈夫で錆びにくく、きれいな光沢を持ったアルミニウムは化粧品にも多く利用されており、アルミニウムそのもの、もしくはその酸化物(アルミナ)はポイントメイクやネイルをキラキラ輝かせる成分としてお馴染みです。
しかし、アルミニウムは自らがキラキラ輝くだけではなく、私達の「キレイ」「快適」を支える裏方としても大事な役割を担っています。アルミニウムが錆びにくい、と言われる理由は表面に薄い皮膜(酸化アルミニウムや水酸化アルミニウム)を形成し、金属がそれ以上酸化されることを防ぐからですが、アルミニウムを含む化合物は肌の上でも薄い皮膜を作ることにより、私達の様々な悩みを解決してくれます。一体、化粧品にはどんな成分が使用され、どのような効果が期待できるのでしょうか。
アルミニウム化合物の役割①毛穴を引き締め、汗を抑える
アルミニウム化合物の主な役割の1つとして、「毛穴を引き締める」作用が挙げられます。この作用を持った成分としてはミョウバンや塩化アルミニウム、クロルヒドロキシアルミニウムなどが挙げられます。ミョウバンや塩化アルミニウムが含まれた化粧品を肌につけると汗と反応し、比較的強い酸性の水溶液になります。この水溶液は強い殺菌作用を持っており、かつその刺激は血管が収縮させて毛穴を一時的に引き締めます。そのため、これらの成分を使用することによって汗や皮脂の分泌量を抑え、汗染みや臭いなどの不快な症状を抑えることができます。
一方、塩化アルミニウムやクロルヒドロキシアルミニウムは皮脂と作用することにより、さらに強力な制汗効果を発揮します。これらの成分を肌につけると毛穴の奥まで浸透して汗と反応し、水酸化アルミニウムに変化します。そして、この水酸化アルミニウムは皮膜(ゲル)を形成することによって、あるいは毛穴内の角質に含まれるケラチンと呼ばれるタンパク質と反応して角栓を形成することによって毛穴を閉塞します。この作用は酸による引き締めよりも強力で、かつ成分が排出されるまで続くため、強い効果が期待できます。作用が強力な塩化アルミニウムは医療用として、より穏やかなクロルヒドロキシアルミニウムは化粧品向けとして主に用いられています。
アルミニウム化合物の役割②「他の成分を使いやすくする」
アルミニウム化合物の皮膜は私達の肌に直接作用するだけではなく、他の成分を覆うことで化粧品をより使いやすいものにする作用も持っています。水酸化アルミニウムは塩化アルミニウムやクロルヒドロキシアルミニウムから生成する成分としても知られていますが、化粧品成分として記載されている場合、主に「酸化チタンを覆って使いやすくする」目的で用いられています。
酸化チタンはメイクアップ製品の白色顔料や日焼け止めの紫外線散乱剤として有名ですが、触媒(他の物質の反応を促進する成分)としても知られており、そのまま使用すると肌や他の成分にネガティブな影響をもたらすリスクがあります。しかし、酸化チタンを予め水酸化アルミニウムで表面処理し、安定した皮膜を形成させることで、触媒としての作用を失わせ、そのリスクを避けることができます。
また、ステアリン酸アルミニウムはいわゆる「金属石鹸」に分類されるアルミニウム化合物で、常温では水にも油にも溶けない粉末ですが、温めるとゲル状になって油と馴染みやすくなる性質があります。そのため、化粧品の粘度を調整する目的で油性製品に利用されたり、パウダー製品が固まったり、塊になったりするのを防ぐ目的で利用されます。
どうして皮膜やゲルを形成するの?安全性は大丈夫?
このように、アルミニウム化合物はただキラキラ輝くだけではなく、特徴的なゲルや皮膜を作って皮膚や他の成分を覆うことで、私達の毎日をしっかりと支えています。この作用は水酸化アルミニウムやステアリン酸アルミニウムや油の中で均一に分散し、構造中に含まれるヒドロキシル基と呼ばれる部分が中心のアルミニウムイオンの部分と引き寄せ合うことによるもので、他の金属イオンの化合物ではなく、「アルミニウム化合物」が使われている主な理由です。
また、アルミニウム化合物の特徴として、その安定性の高さが挙げられます。金属イオンの中にはバリウム(硫酸バリウムを除く)やリチウムのように反応性や毒性が高く、化粧品成分としては好んで用いられないものも多いのですが、アルミニウム化合物は酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムの構造が安定しており、反応性が低いため金属アレルギーも起こしにくく、安心して使うことができます。一時期、アルミニウムイオンとアルツハイマー病の因果関係が取り沙汰されたことがありましたが、現在では十分な根拠なしとして否定されています。ただし、一部のアルミニウム化合物(塩化アルミニウム)などについては、その酸性の強さが肌への刺激に繋がることがあるため若干の注意が必要です。
世の中には様々な金属があり、何百年、あるいは何千年と私達の生活にあらゆる形で利用されてきましたが、アルミニウムは発見されてから約200年しか経っておらず、未だに研究が進められている「新しい」金属です。今後も新しいアルミニウム化合物が見出され、化粧品にも利用されてゆくことでしょう。そして、その成分は私達の未来をより輝かせてくれるに違いありません。