注目の天然成分「コーンスターチ」
貴方は化粧品を選ぶとき、どんなことを基準にしていますか。昔から使い続けてきたから、お値段手頃で効果がありそうだから、インフルエンサーがお勧めしていたから、人によって価値観は様々かと思いますが、多くの方にとって「ナチュラル」や「オーガニック」は魅せられるキーワードの1つではないでしょうか。プチプラメイクは石油化学の進歩の賜物で、安全かつ手軽な存在ですが、天然由来の成分が使われているとより安心して使うことができます。また、天然由来の成分の中には、石油から合成することができず、肌にとって特別な効果を持ったものも存在します。
様々な植物由来の成分が化粧品には使われていますが、最近注目を浴びているものの1つが「コーンスターチ」です。料理の好きな方は片栗粉の代わりに使ったり、お菓子作りの材料として使ったりする身近な存在としてご存じかもしれません。トウモロコシを原料とするコーンスターチは近年、石油や鉱物由来の成分に置き換わる存在として、化粧品にも多く取り入れられるようになりました。
コーンスターチとはどんな成分なの?
コーンスターチとは化学的にはどのような成分なのでしょうか。コーンスターチはトウモロコシを亜硫酸水に浸漬した後に不純物やタンパク質を分離し、デンプンを精製することによって得られます。原料のトウモロコシは食用でお馴染みのスイートコーンではなく、試料用トウモロコシ(食用にする場合は挽いて粉状にします)として知られているデントコーンが利用されます。
コーンスターチは常温では白色の粉状の物質で、化学的にはブドウ糖として知られるα-グルコースが結合した高分子であるアミロースとアミロペクチンの混合物です。また、常温では水に溶けませんが、熱水にはやや溶ける性質を持っています。熱水に溶けたデンプンは周囲の水を吸収し、粘度の高いα-デンプンと呼ばれる状態になります。コーンスターチはこの性質を活かし、いわゆる「デンプンのり」や料理にとろみを出す材料として用いられてきました。デンプンとしてはジャガイモや小麦を原料としたものも有名ですが、デンプンの構造に起因し性質が異なっていること、また、生産性や安全性に優れていることから、化粧品にはコーンスターチの方が一般的に用いられています。
コーンスターチ、どんな目的で使用されているの?
このような性質を持ったコーンスターチですが、化粧品にはどんな目的で用いられているのでしょうか。かつてコーンスターチはその粘度の高さを活かし、化粧品にとろみをつける目的での使用が主でした。しかし、今日では天然由来の成分として、かつて鉱物や石油由来の成分が担っていた役割を担うようになりつつあります。
注目すべき役割の1つはマイクロビーズの代替成分としての利用です。プラスティック製のマイクロビーズは化学的に不活性(肌への刺激性がない)な成分として、洗顔料などのスクラブ剤に用いられてきましたが、環境中で分解されずに魚介類に蓄積し、生態系へ影響を与えることが懸念され、使用が自粛されるようになりました。そこで、肌表面の皮脂や汚れを付着させ、取り除くことが可能な成分としてコーンスターチが用いられるようになりました。
また、最近ではベビーパウダーやボディーパウダーに含まれ、発がん性が問題となった鉱物由来成分、タルクの代替成分としても利用が進められています。タルクの発がん性に関しては議論があり、フェイスパウダー等で使う分に関しては問題ないとされていますが、タルクと同じように滑らかな使い心地で安全に使うことができ、かつタルクにはない調湿性を持ったコーンスターチへとその役割を引き継ぎつつあります。
コーンスターチ、安心、安全に使えるの?環境への影響は?
これまでの成分を置き替える形で利用が進められているコーンスターチですが、安全に使用することはできるのでしょうか。コーンスターチは穀物を原料としており、食品添加物としても安全性が高く長年使い続けられてきた成分です。また、アレルギー反応に関しても精製の過程でタンパク質をほぼ完全に取り除くことができるため、心配なく利用することが可能です。また、大規模農場で容易に栽培可能なデントコーンを原料としているため、持続可能性の観点からも優れています。
しかし、環境負荷に関しては少しだけ注意する必要があります。その原因は原料となるデントコーンへの遺伝子組み換え技術の利用です。遺伝子組み換え作物は元々、農薬使用の低減や収率の向上のために開発され、今日では広く栽培されています。遺伝子組み換え作物を原料としたコーンスターチに直接のデメリットはないのですが、従来の近い品種同士の交配では得られない遺伝子を取り入れているため、その作物自体の安全性は確かめられていても、周囲の雑草と交配することにより、長期的に予期せぬ影響を及ぼす危険性があります。普段使う上でトラブルになる要素ではないのですが、新聞などで問題が取り上げられた時には関心を持つようにしてください。
ミスマッチから定番へ、「穀物」とコスメの関係
「どう作るか」の部分で少しだけ問題を抱えてはいるものの、コーンスターチは従来使われてきた原料よりもより安心、安全でずっと使い続けられる化粧品成分として、より着目を浴びています。かつては小麦やトウモロコシといった穀物と化粧品はミスマッチな組み合わせで、小麦由来の原料に至ってはアレルギーで回収騒ぎになったこともありましたが、近年では流れが変わり、トウモロコシの他には米などを原料とした化粧品成分も着目されています。
エネルギーの源としてだけではなく、美しさの担い手としても活躍するトウモロコシは私達にとって今後、ますます欠かせないパートナーとなるでしょう。
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