「垂れないのに柔らかい」化粧品、どんな成分のおかげなの?

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「垂れないのに柔らかい」不思議なアイテム、化粧品

 貴方は化粧品の「容器」と聞いてどんなものを想像しますか。透明のガラスのボトル、プラスティックの色鮮やかな容器など、様々なものが思い浮かぶことでしょう。特にハイブランドの容器はどれも趣向が凝らされていて、見ているだけでも心惹かれます。蓋を開けたりポンプを押したり、時には傾けたりして中身を取り出し、使い終わったら蓋やポンプを上にして、そっと棚やメイクボックスにしまうのは毎日のルーチンです。

 しかし、そんな化粧品容器の中で「チューブ製品」や「口紅」はやや不思議な存在です。「チューブ製品」や「口紅」は一見普通の化粧品と変わらないのですが、逆さにしても中身が垂れたり、油分が分離したりすることはありません。また、どちらも普段は固まっていそうに見えますが、チューブほんの少し力を加えるだけで、丁度良い量を絞り出すことができたり、口紅を肌に軽く押し当てるだけでまるでクリームのように自由に延ばすことができたりします。どうしてこのようなことが可能なのでしょうか。

力を加えるとサラサラになる?不思議な性質「シュードプラスチック」「チキソトロピー」

 実は化粧品のチューブを絞った時、その中では不思議な現象が起こっています。水などの一般的な液体(専門的にはニュートン流体と呼ばれます)は力を加えてもその粘度は変わらないため、水やミネラルオイルといったサラサラの液体は容器を傾けるとすぐにこぼれ、逆にワックスのようにベタつきの強いものはほとんど動きません。しかし、チューブに充填された化粧品やマヨネーズなどの食品は少し力を加えるだけでその粘度が大きく下がり、あたかもサラサラの油のように振る舞います。この性質は「擬塑性」もしくは「シュードプラスチック性」と呼ばれ、私達の日常生活をより便利にする目的で利用されています。

 また、シュードプラスチック性を持った物質の中には「力を取り除いても少しの間は柔らかく、その後徐々に固さを取り戻す」ものが存在し、この傾向を「チキソトロピー性」と呼んでいます。チキソトロピー性は先に紹介したマヨネーズの特徴としても有名ですが、化粧品にとっても欠かせないものです。「力を加えると柔らかくなり、しばらく置くとまた固くなる」性質を上手く利用することにより、アイテムの携帯性や保存性、手に取って延ばすときの適度な柔らかさ、そして肌への密着性を並立させることができます。

メイクアップ製品と「チキソトロピー」

 では、この性質は化粧品のどんな成分によるものなのでしょうか。実はこの「チキソトロピー性」はチューブ製品に限らず化粧品では一般的なもので、口紅やファンデーションにもこの性質が利用されています。口紅にはミツロウやカルナウバロウ等のワックス系の成分が含まれており、普段はクレヨンのように固まっていますが、肌に押し当てるとかなり柔らかくなるため、自由自在に延ばして色をつけることができます。また、塗り終わった後は固くなるため肌に程よく密着し、色落ちの心配をすることなく1日を過ごすことができます。

リキッド系のファンデーションやクレイパックの体質顔料として含まれているベントナイトやヘクトライトといった粘土成分も同様の作用を発揮します。リキッドファンデーションやクレイパックは他の製品と比較しても肌にしっかり密着させる必要がありますが、これらの粘土成分が水を取り込むことによって形成されたゲルは適度に固く、しかしながら肌につけると程よく延び、しばらくすると肌に密着します。そのため、ファンデーションの持続力を上げたり、皮脂を吸着させたりするには好都合で、しばしばこれらの成分が用いられています。

スキンケア製品と「チキソトロピー」

 このように油性のメイクアップ製品では「主役」の成分によって得られている「シュードプラスチック性」「チキソトロピー性」ですが、水性のスキンケア製品では「増粘剤」を加えることによって実現しています。チキソトロピー性に優れた増粘剤の代表的な例としてはカルボマーが挙げられます。カルボマーはオールインワンコスメなどでお馴染みの成分で、とろみが強く逆さにしても中々落ちてきませんが、肌につけるときの延びは油分のように良好で、べたつくこともありません。また、しばらく経つと肌に皮膜を形成し、水分や他の有効性分を肌によく留めます。

また、キサンタンガムやグアーガム、カラギーナンといった多糖類も優れたチキソトロピー性を持っています。これらの成分は天然の植物から得ることができますが、いずれも水に溶かすとカルボマーと同様に強いとろみと延びやすさを両立したゲルを形成します。最近は化粧品のとろみ成分としてカルボマーがすっかりおお馴染みになり、他の成分はやや影が薄い印象もあるのですが、実際は他の成分との相性やpHなどの制約、求める使い心地などに合わせて使い分け、あるいは併用がされています。

「使いやすい」化粧品を選ぶために

このように、「垂れないのに柔らかい」チキソトロピー性は私達が毎日のメイクやスキンケアをストレスなく行う上でとても重要なものです。この性質は古くから利用されてきましたが、化粧品に限らず食品や医療の分野でも今尚多くの研究が進められ、より良い製品を生み出すための試みが続けられています。そのため、10年前に「すぐに垂れてしまう」「固くて上手く使えない」と感じていたようなアイテムでも、今は使い心地がとても良くなった、ということも珍しくありません。日焼け止めはその良い例で、以前はベタつく、延びが悪い、すぐに垂れるなど塗りにくいものが多かったのですが、最近ではずいぶんと使い心地が良くなりました。

つい保湿や抗酸化など分かりやすい成分だけを基準に選んでしまいがちな化粧品ですが、時には複数のアイテムを実際に手に取ってみて、「垂れなさ、柔らかさ」にも着目してみてはいかがでしょうか。きっと貴方がより満足するものを選ぶための手助けになることでしょう。

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