実は色々ある「レチノール」
貴方はレチノールという成分を聞いたことがありますか。日焼け止めや保湿など「肌を守る」ためのスキンケアから一歩進んで、多少手間はかかってもシミやシワを防ぎたい、肌のくすみを取り除きたい、といった成分を探したときに候補に上がってくるものの1つがレチノールです。肌への刺激がやや強く、また、紫外線などによって分解されやすいため注意して使う必要がありますが、その分高い効果を期待することができ、最近では様々な製品が国内外を問わず生産、販売されています。
しかし、この「レチノール」は少し困った存在でもあります。インターネットなどで調べると「レチノイン酸」「トレチノイン」「レチノイン酸トコフェリル」「純粋レチノール」など、似たような名前の成分が多くヒットし、そのほとんど全てが同じような効果をうたっています。一体、「レチノール」と呼ばれているものにはどんな種類があるのでしょうか。また、成分によってどのような違いがあるのでしょうか。
肌の再生を促す医薬品成分「レチノイン酸」
レチノール、もしくはそれによく似た成分はいずれも肌のシワやたるみ、くすみなどを改善する効果のある成分として知られていますが、その作用をもたらすのは主に「レチノイン酸」もしくは「トレチノイン」と呼ばれる物質です。レチノイン酸は皮膚に存在するレチノイン酸受容体と呼ばれる部位に働きかけて肌のターンオーバーを促進し、古い角質を剥がしたり、肌内部でのヒアルロン酸やコラーゲンの産生を促進したりする作用があることが知られています。その効果は一般的な化粧品成分に期待できるもの(保湿や抗酸化作用など)よりも実感しやすいもので、美容皮膚科などで治療薬としても用いられています。
しかし、レチノイン酸そのものを肌につけることは大きな効果が期待できる一方、そのリスクもまた無視できません。よく知られているものはレチノイド反応と呼ばれるもので、レチノイン酸によって肌のターンオーバーが急激に改善されることにより、一時的に赤みや皮むけ、かゆみなどの望ましくない状態が発生してしまいます。また、レチノイン酸は肌の表面で作用し、角質層を強力に剥がすことで知られており、他のレチノール関連の成分よりもかなり刺激性が強くなります。そのため、レチノイン酸は日本国内では化粧品への配合が禁止されており、医薬品として、医師の指導の下でのみ使用可能です。海外の化粧品には配合されていることがあり、個人輸入などで使用することもできますが、刺激性が強いため避けた方が無難です。
レチノイン酸に変化して作用する「純粋レチノール」「レチノイド」
日本国内で販売されている化粧品では、肌の刺激を抑えるため「レチノイン酸に変化して作用する」成分が一般的に利用されています。最も有名な成分としては狭義のレチノール(純粋レチノール)が挙げられます。純粋レチノールが含まれた化粧品を肌につけると酸化反応を経てレチノイン酸となり、レチノイン酸を直接肌につけた場合と同様のターンオーバー促進作用を発揮します。この際、レチノールは肌に浸透してからレチノイン酸へと変化するため、レチノイン酸にみられた角質層を剥がす作用は弱くなります。
しかし、純粋レチノール自体もやや刺激性が強く、また、紫外線等に対して不安定なため、一般的にはレチノイド(レチノール誘導体)と呼ばれる成分が利用されています。代表的なレチノイドとしてはパルミチン酸レチノールや酢酸レチノールが挙げられますが、これらの成分は肌につけると吸収されてレチノールに変換され、さらにレチノイン酸へと酸化されることによってターンオーバー促進作用を発揮します。
レチノイドの作用はレチノイン酸と比べるとかなり弱くなってしまいますが、作用が穏やかな分肌への刺激性やレチノイド反応のリスクは低くなり、また、純粋レチノールと比較して成分としての安定性に優れているため、より手軽に試すことができます。
最近ではレチノイン酸を経由せず、誘導体のままレチノイン酸受容体に作用する成分も発見され、化粧品に利用されるようになっています。代表的な成分としてはレチノイン酸ヒドロキシピナコロンが挙げられます。グランアクティブレチノイドとも呼ばれるこの成分はレチノイドとしての作用を十分に保ちつつ、レチノイド反応のリスクが抑えられていることが特徴で、「次世代のレチノール」として注目されています。
「レチノール」が含まれた化粧品、どのように利用すれば良いの?
このように様々な種類が存在する「レチノール」ですが、利用する上では「期待する効果」と肌荒れのリスクを考えながら成分を選ぶことが大切です。もし貴方が「レチノールを試してみたい」といった目的であれば、パルミチン酸レチノールや酢酸レチノールを選ぶと良いでしょう。これらの成分は比較的ポピュラーで、レチノイド反応のリスクも少ないため気軽に試すことができます。効果は比較的穏やかですが、それでも効果を実感できる方も少なくないでしょう。また、それでもう少し効果が欲しい、ということであればレチノイン酸ヒドロキシピナコロンや純粋レチノールが選択肢に挙がってきます。刺激性の低さを優先するのであれば前者、効果や製品としての手に取りやすさを優先するのであれば後者を選ぶことになります。(レチノイン酸を使いたい場合は美容皮膚科に相談することを強く推奨します)
使用する際は紫外線対策が必須になります。いずれ「レチノール」も紫外線によって分解されやすい性質があるため、比較的安定性が高いパルミチン酸レチノール以外は日中の使用を控え、もし使用して外出する場合は日焼け止めをしっかり塗る必要があります。また、パルミチン酸レチノールに関しても日焼け止めの使用を強く推奨します。(パルミチン酸レチノールに紫外線吸収効果がありますが、成分自体が分解されてしまいます)また、肌への作用が強いため、使用は少量から始め、保湿など基本的なスキンケアもしっかりと行うようにしてください。
色々な種類があったり、普通の化粧品成分よりも注意書きが多かったりと、少し敷居の高い存在にも感じられる「レチノール」ですが、その分化粧品の中では効果を実感しやすい存在です。もし普段よりももう少しだけ進んだスキンケアをやってみたい、と思うようであれば、一度、「レチノール」を夜のルーチンに取り入れてみてはいかがでしょうか。