医薬部外品成分ロドデノールの事例に学ぶ化粧品使用時の注意点

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医薬部外品「ロドデノール」による白斑事件

2008年1月、ある成分がシミ、ソバカスの発生を防ぐ、いわゆる「美白作用」を持った医薬部外品として承認されました。カネボウ化粧品によって開発されたその成分はロドデノールと呼ばれ、天然由来で美白に高い効果を持った成分として、同社のアンチエイジング化粧品を中心として数多く採用されました。ビタミンC誘導体やトラネキサム酸といった従来の成分よりも高い効果を謳ったロドデノールは日本国内の代表的な化粧品会社で開発された、といった安心感も手伝って注目され、日本国内で約80万人が利用し、製品として約450万個が出荷されたといいます。

しかし、製品の発売当初から使用によって皮膚が不適切な形で白くなる、いわゆる「白斑」症状の報告が同社に寄せられます。この時点で何らかの検証や対策が行われるべきでしたが、白斑が皮膚科で一般的にみられる症状であることが災いしたため、対応が遅れます。その後、消費者や皮膚科医による相次ぐ問い合わせや美容部員への白斑症状の出現を経て、2013年5月、大学病院からの連絡をきっかけにようやくこの問題が取り扱われるようになり、同年7月に製品の販売中止及び製品の自主回収が行われました。製品の販売中止までに約16,000人に白斑の症状が出現したと言われています。

幸いにも多くの方の症状は軽く、自主的な使用中止や皮膚科での治療によって回復したのですが、顔に出来た白斑が原因で人前に出ることが苦痛になった方も少なくなく、個別の補償にとどまらず、損害賠償を求めた集団訴訟にも発展しました。

ロドデノールはどうして白斑症状を引き起こしたの?

ロドデノールは本来、どのような作用を期待して開発された成分なのでしょうか。ロドデノールはハイドロキノンやビタミンC誘導体、トラネキサム酸といった他の美白成分と同様に、肌が持っている「日焼けやストレスから肌を守るためにメラニン色素を合成する」作用を阻害することを目的として開発されました。

メラニン色素が合成される反応には複数の段階があり、例えばビタミンC誘導体であればメラニンが合成される過程の途中の物質を還元することによって合成を妨げますが、ロドデノールはメラニン色素が合成される最初の段階で働く酵素、チロシナーゼに原料であるチロシンの代わりに結合することにより、合成を強力に阻害します。他に似たような効果を持つ成分としてはハイドロキノンがありますが、ロドデノールは「ハイドロキノンと同様の作用を持った、より手軽な成分」として登場した背景があります。

しかし、ロドデノールがチロシナーゼと結合することによって生成されたロドデノール代謝物が人体に思わぬ影響を与えることが検証で明らかになりました。ロドデノール代謝物は皮膚のメラニン色素を作り出すメラノサイトと呼ばれる部分に対して毒性を持ち、細胞死を誘発してしまいました。その結果として正常なメラニン色素の合成自体が行われなくなり、白斑症状を引き起こしたのです。

どうして販売中止の対応が遅れたの?

 ロドデノールは結果として多くの方に被害を引き起こしてしまったのですが、初期から症状が報告されていたにも関わらず、どうして回収等の対応が遅れてしまったのでしょうか。企業側が当初、問題を軽視していたことも一因ですが、この事件は「化粧品」という製品自体が抱える課題を内包しています。

 シミ、ソバカス等の症状に対して医療機関で治療薬を処方してもらう場合、医師によって診察が行われ、定期的に通院を行う中で肌の状態が確認されるため、異常についてすぐに把握し、適切に対応することが可能です。しかし、化粧品として使用する場合、医師の診察を経ずに使用可能なため、元々の肌の状態が分からない、異常が出ても使用を継続してしまう、といった状態が起こります。ロドデノールで発生した白斑症状についても、皮膚科では一般的な尋常性白斑の症状と類似しており、調査や研究を重ねてようやく「化粧品使用による疑いが否定できない」と考えられるようになりました。

 また、全ての使用者に症状が認められなかった、症状にも差があったことも発見が遅れた原因として挙げられます。化粧品は医薬品と異なり、他の製品と組み合わせて使用されることがあります。症状も典型的な白斑症状から肌荒れ、発赤等様々であったこと、複数の製品を併用している方の症状が比較的重めであったこと等から、当初はそれが全てロドデノールに起因するとの断定ができない状況でした。

どんなことに気をつければいいの?

現在、ロドデノールを使用した化粧品については全て製品販売中止、回収対応となったため、現在では一切販売されていません。しかし、この事例から消費者の立場として学べることは数多くあります。まず覚えておくべきこととして、化粧品は「誰にとっても、必ずしも安全ではない」という事が挙げられます。化粧品が製品化される際には多くのテストが行われますが、製品として販売されていることが必ずしも「貴方が安心して使うことができる」ことを意味しません。ロドデノールの事例では小さな違和感に気が付き、すぐに使用を止めて医療機関を受診した方は適切な治療で早期に回復しています。「大きな会社が発売しているから安心」というのではなく、自分の感触を優先するようにして下さい。

また、スキンケア化粧品において「美白」はややリスクの高い分野であることも覚えておいた方が良いでしょう。スキンケア化粧品が最も得意としている分野は「肌の保湿」です。化粧品には肌からの水分の蒸発を防ぐ、あるいは肌の保水力を向上させるための成分が豊富に含まれており、それを物理的に補充することによって保湿力を向上させます。一方、美白効果については肌が本来持っている代謝機能自体を妨げることによって効果を得るため、長期間使い続けた場合、想定外の副作用が起こる可能性があります。ハイドロキノンやトラネキサム酸、コウジ酸等が美白成分としては有名で、様々な製品に使用されていますが、使用の際には通常の化粧品と比較してやや注意が必要です。話題の新製品は色々と試してみたくなりますが、「美白化粧品」の分野に関しては、安全性を重視するのであれば発売から少し待って使用した方が良いかもしれません。

化粧品開発の現場では研究者の方々が日々、より良い成分、処方を求めて探求を繰り返していますが、十分に安全性に配慮していても、想定していなかったトラブルが発生することがあります。全てを受け入れてしまうのではなく、自分の肌の調子に向き合い、異常を感じた場合は医師などの専門家のアドバイスを受けることによって、肌へのトラブルを最小限に防ぐことが可能です。素敵な肌を維持するのに何よりも大事なことは、貴方自身の日々の心掛けです。

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