素敵な香りのスタンダード「石鹸の匂い」
貴方はどんな香りが好きですか。フレッシュな果物、甘いラベンダーや金木犀、すっきりとしたユーカリやヒノキ、世の中には様々な素敵な香りがあります。中には精油に凝っていて、気分次第で色々と使っている方もいらっしゃるでしょう。その中で「一番愛されているもの」を決めるのは難しいのですが、敢えて挙げるのであれば「石鹸の匂い」ではないでしょうか。そのすっきりと甘い匂いは石鹸だけではなく、芳香剤や化粧品などにも多く取り入れられ、香りのスタンダードになっています。
しかし、日本ではとても愛されているこの匂いですが、海外ではあまり見かけない存在です。海外ブランドのシャンプーやフレグランスは日本のものと比較して香りの種類も豊富で、日本の石鹸に近い匂いがする製品もありますが、そのほぼ全てが他の「花や植物の香り」を謳っており、単に「石鹸の香り」とは謳われていません。実は、この石鹸の匂いは石鹸自体に由来するものではなく、使われている香料によるものなのです。
「本当の」石鹸の匂い
では、石鹸本来の匂いはどんなものなのでしょうか。化学的な意味での「石鹸」(石けん素地と呼ばれます)を代表的な原料であるヤシ油やパーム油から作る場合、ヤシ油やパーム油に含まれるパルミチン酸やラウリン酸と呼ばれる高級脂肪酸にグリセリンを反応させて脂肪酸エステルを合成し、それを水酸化ナトリウム、水酸化カリウムで処理します。ヤシ油やパーム油から作られた石鹸は匂いのある成分や不純物が含まれていないため、ほとんど匂いがありません。
しかし、石鹸が登場したばかりの頃は状況が異なっていました。現代の石けんには150年程の歴史がありますが、最初は原料として植物油ではなく、牛脂を用いていました。牛脂の主成分はステアリン酸やオレイン酸で、同様の手順で石鹸を作ることができますが(肌には優しいのですがラウリン酸主体のものと比べてやや硬く、泡立ちが劣ります)、不純物が多く、それを取り除くための技術も発達していなかったため、臭いとてもが気になりました。その臭いを隠し、気持ち良く使えるようにするため、香料が混ぜられるようになったのです。
「石鹸の匂い」の正体
石鹸の香料としては様々なものが利用されてきましたが、最もスタンダードな香りはスズランやバラに代表される、いわゆるフローラル系の香りでした。リナロールやシトロネロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコールといった香り成分がバランスよく調合され、甘くすっきりとしたその匂いは使っていてとても気持ち良いものです。また、学校や公共の場所ではレモンの香り(リモネンを主成分としています)がする石鹸なども好まれ、利用されてきました。
しかし、今日の石鹸にはよりフローラルさを引き立てる香りとして、ムスクやアルデヒドなどの成分が取り入れられています。ムスクとは元々動物由来の成分で、今日では構造がやや異なる合成ムスクが主流ですが、独特の甘く優美な匂いが特徴で、男性向けの香水のベースノートとしてもお馴染みです。また、アルデヒドはシャネルNo.5をベストセラーにした成分としても有名で、単体ではねっとりとした臭いなのですが、他の香料の匂いを調和させ、とても良い匂いを生み出します。これらの組み合わせによる現在の「石鹸の香り」は1970年代に登場し、「石鹸の匂い」としてすっかり定番となりました。
化粧品と香料は切っても切り離せない密接な関係にありますが、とりわけ石鹸に関しては製品や身体の臭いをマスキングするためだけに留まらず、匂いを楽しむ目的でも利用されてきました。香水の匂いは素敵ですが、どこか他所行きでセクシーなイメージがあります。一方、石鹸は毎日気軽に匂いを楽しむ存在として、毎日の暮らしに根付いているため、自分で買うだけではなく、ちょっとしたプレゼントや季節のギフトとしても定番の存在です。
「石鹸の匂い」、どうやって選べばいいの?
基本的な「石鹸の匂い」は先に紹介した通りなのですが、今日ではよりバリエーションが増え、もう少し色々な「石鹸の香り」を選べるようになりました。お気に入りの香りを選びたい場合、どのような部分に着目すれば良いのでしょうか。
実は石鹸に限らず化粧品全般に当てはまることなのですが、「香り」に関しては製品に記載されている成分だけでは選ぶことができません。化粧品には全成分表示と呼ばれる「全ての成分を表示する」義務がありますが、香料に関しては使われている量が少ないため対象外です。また、同じ原料や香り成分を使っていても、季節や調合次第で匂いの印象が大きく変わることがあります。
自分へのご褒美に買うのであれば色々と試してみるのも良いのですが、とりあえず選びたい場合、あるいはギフトにしたい場合、香りを強調していないオーソドックスなものや柑橘系、フローラル系のものを選ぶと良いでしょう。匂いに関しては個人の好みの差が激しいのですが、生活や記憶と好みが深く結びついているため、「いい匂い」として慣れ親しんできたものに関しては、多くの人がそう感じます。一方、海外で生まれたり、長く暮らしたりしている方にとっては、現地で馴染み深い匂いを選ぶと喜んでくれるでしょう。また、匂いが苦手な方であれば無香料の製品を選ぶ、といった選択肢もあります。
「良い匂い」に定番はありますが、正解はありません。しかし、だからこそ選ぶ楽しさや、個人のセンスを発揮できる余地があります。幸い、石鹸は他の化粧品よりも手頃に買えるアイテムなので、色々と試してみながらお気に入りのものを見つけてみてはいかがでしょうか。
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