サラサラからベタベタまで色々!化粧品向けの油の「肌触り」
ファンデーションから口紅、化粧水からクリームまで、今日販売されているほとんどの化粧品は「水」と「油」、その他の成分の組み合わせでできています。「水」についてはとてもシンプルで、せいぜい精製水かミネラルウォーター、海洋深層水位の違いしかないのですが、「油」については実に多くの成分が存在し、その由来も石油から合成されるもの、植物の種や葉を圧搾して得られるもの、動物の脂肪から得られるものまで様々です。
そして、使う油の種類によって大きく変化するのが、化粧品の肌触りや使用感です。油を多く使った化粧品であっても、ミネラルオイルやスクワレンのように、まるで水のようなサラサラとした手触り、肌触りのものもあれば、「ワックス」のように硬いもの、オリーブオイルや椿油のようにややベタつくものまで様々で、数種類が組み合わさったものでは実際に手に取ってみないと分からないことが多いです。一体、このような油の肌触り、使用感の差は成分の構造のどんな違いに由来するのでしょうか。
使用感の差の原因①分子中の炭素数、「枝分かれ」の数
油の肌触りや使用感を決める大きな要素の1つが、油の中に含まれている分子中の炭素数、及び「枝分かれ」の数です。最もシンプルな油は「炭化水素」と呼ばれるもので、その構造は骨格となる炭素原子同士の結合の周りに水素原子が結合することによって成り立っています。炭化水素は1分子あたりの炭素数が少ない場合、分子が周囲を自由に動き回ろうとする作用が強いため、メタンやプロパンのような気体を示しますが、炭素数が多くなりその構造が大きくなるにしたがって自由に動き回らなくなるため、常温で気体→サラサラとした液体→粘ついた液体→固体、といった順に変化してゆきます。ワセリンやマイクロクリスタリンワックスは分子量がそれぞれ30前後、50前後の炭化水素ですが、その高い粘度を活かし、肌の保護、もしくは髪型をキープする目的で用いられます。炭素数が同じものであっても、結合している水素が多い程構造の自由度が下がるため、一般的に飽和脂肪酸(炭素に最大限水素が結合している脂肪酸)は不飽和脂肪酸(結合に余力がある脂肪酸)よりもより粘度が高くなります。
また、分子中の炭素数が十分に多い場合であっても、その構造が分岐している(分子中の炭素原子の一部に3つ以上の他の炭素原子が結合している)場合、その立体構造がコンパクトになり、運動の自由度が上がるため、常温では液体で、サラサラとした使用感のものも少なくありません。スクワランはC30H62で表される炭化水素ですが、構造内に6箇所の分岐を持っているため比較的構造がコンパクトで、その粘度は低くなります。また、ミネラルオイルは炭素数16〜32の比較的枝分かれの少ない炭化水素で、使用すると重さを感じることがありますが、構造中に分岐をより多く持っている水添ポリイソブテン(流動イソパラフィン)についてはより常温での粘度が低く、サラサラとした使用感を特徴としています。
使用感の差の原因②分子中のヒドロキシル基の数
このように、1つの分子中に含まれている炭素数によって油の粘度には大きな差が生じますが、もう1つ使用感に大きな差をもたらすものが分子中に含まれる「ヒドロキシル基」(水酸基)と呼ばれる構造の数です。ヒドロキシル基は化粧品に使用されている油の一種である脂肪酸、それ以外でもグリセリンのようなアルコール、グルコースセルロースのような糖類等、多くの分子内に存在していますが、水と非常に馴染みやすいことが特徴です。そのため、ヒドロキシル基が含まれた成分を肌につけると空気中、もしくは製品中の水を取り込んで肌の水分量を増やしたり、蒸発によるロスを防いだりする作用を発揮します。
この「肌の水分量を増やし、蒸発を防ぐ」作用は肌の保湿だけではなく、その使用感にも大きく影響します。ワセリンやスクワラン、ミネラルオイルは構造中に全くヒドロキシル基を含んでいないため水をよく弾き、その使用感は「蓋がされた」といった表現がしっくりくるのですが、ヒドロキシル基を含んだ脂肪酸は周囲の水を取り込んで保持するため、より自然で、しっとりとした感触になります。また、分子中のヒドロキシル基同士はお互いに水素結合によって結びつくため、炭素と水素のみで形成されている分子と比較してそもそもの融点や粘度が高く、ベタつきが強く感じられます。このような使用感は必ずしも好ましいものではないため、この脂肪酸のヒドロキシル基をエステル化し、よりサラサラとした物質に変化させたものも広く利用されています。
サラサラした油・ベタベタした油の使い分け
このように、化粧品に使用されている油は分子中に含まれる炭素の数や枝分かれ、結合している水素の数、ヒドロキシル基の有無などによってその使用感が変化し、水のようにサラサラのものからワックスのように固いものまで、アイテムの種類や好まれる使用感に合わせた使い分けがされています。化粧品の使用感を開封せずに確かめるのは難しいのですが、使用されている油の種類を確認することで、おおよその予想をすることができます。
どのような使用感の油を使っても基本的には肌に悪い影響はないのですが、「使用感の変化」については注意が必要です。ミネラルオイルやスクワラン、ワセリンなどの炭化水素は酸化に強く、温度以外の影響をあまり受けにくいのですが、ヒドロキシル基が含まれた不飽和脂肪酸はやや酸化されやすいものもあり、開封して少しずつ使用しているうちに酸敗することがあります。酸敗した油は臭いが変化するだけではなく、(ヒドロキシル基が含まれている油と同様に)よりベタつきが強くなり、固まりやすくなる傾向があります。臭いについては香料のマスキングが強いと気が付きにくいため、使用感の変化を感じた場合も使用を控えるようにしてください。
これからの乾燥しがちな季節、私達の肌は水分だけではなく、油分も不足しがちになります。使われている油についても注目し、貴方のお気に入りのアイテムを見つけてみてはいかがでしょうか。