オールインワンのとろみの正体、カルボマー
貴方はオールインワンコスメを使ったことはありますか。スキンケアは大切だけど、朝の時間はいつも忙しい、そんな時に重宝するのがオールインワンで、一本で化粧水、乳液、クリームの全ての役割を兼ね備えたものとして販売されています。男性向けで「10秒スキンケア」と謳った商品もありますが、敏感肌向けのしっかりケアには向かないものの、朝の時短のため、あるいは男性向けのスキンケア入門としては便利なアイテムで、安心して毎日使うことができます。
そんなオールインワンコスメですが、化粧水やクリームとはまた異なった、ジェル状の製品が多いことが特徴で、しばしば「オールインワンジェル」の通称で呼ばれています。オールインワンジェルは化粧水や乳液より手に取った感じはやや粘り気がありますが、肌につけてもあまりべとつかず、速やかに肌に浸透します。そして、この「ジェル」の特徴的な質感の元となっているのが「カルボマー」もしくは「カルボキシビニルポリマー」と呼ばれる成分で、オールインワンコスメにはほぼ必ず、といっていい程利用されています。
カルボマーとはどんな成分なの?どうして利用されているの?
カルボマーはアクリル酸を主鎖としたポリマーの一種で、構造式(C3H4O2)で表されます。化粧品に使われているポリマーには多くの種類がありますが、構造内に水と馴染みやすいカルボキシル基と呼ばれる構造を多数持っていることにより、水ととても馴染みやすく、また、水に溶かすとpH3程度のやや強い酸性を示します。そして、水に溶かしたものをアルカノールアミンなどを用いて中和することにより、特有の「粘性は強いが、サラサラしている」ジェル状のテクスチャが生まれます。この状態は構造的な安定性が高く、ある程度の期間が経過しても沈殿や変性を引き起こすことはありません。
カルボマーのジェルの質感以外の特徴として、優れた分散安定性が挙げられます。通常、化粧品に含まれている成分は水に馴染みやすいもの、油と馴染みやすいものが存在し、化粧水のような水性化粧品にはヒアルロン酸やビタミンCといった水と馴染みやすいもの、クリームのような油性化粧品にはワセリンや高級脂肪酸といった油と馴染みやすいものが使用されています。また、水と油を共存させるためには脂肪酸カリウムのような「界面活性剤」が用いられますが、成分の相性や肌への刺激性などが問題になることがあります。
一方、カルボマーは基本的には水と馴染みやすいポリマーですが、油分を水溶液内に均一に分散させる効果に優れており、また、その状態を長く保ちます。そのため、ジェルの内部に「水と油を共存させる」ことができ、配合を工夫することで、ジェルの内部に本来であれば共存が難しい水分及び保湿成分、油分を同時に配合することができます。オールインワンコスメが「1本で全てをまかなう」ことが可能なのは、カルボマーのこの特性によるものです。
オールインワンのカルボマー、肌には優しいの?メイクと合わない気がするのはどうして?
このように「水と油を混ぜ合わせる」上で重要な役割を果たしているカルボマーですが、もう1つの特徴として、肌につけると薄い皮膜を形成することが挙げられます。この皮膜は肌への成分の浸透を助け、親水性分子であることから肌の保水力をよく補います。また、皮膜を形成する成分については毛穴詰まりや肌荒れの原因になると言われることもありますが、カルボマーの皮膜はメッシュ状の構造で隙間が空いているため、肌を塞いでしまうことはありません。肌につけたカルボマーはそのまま残りますが、水と馴染みやすいため他の皮膜形成成分であるジメチコン等と比較して、水だけでも簡単に落とすことができます。
しかし、このカルボマーは時に「肌トラブルのような現象」を引き起こしてしまうことがあります。カルボマーを肌につけると皮脂に含まれているケラチン等のタンパク質や他の化粧品成分と反応し、凝集することがあります。そして、この凝集した状態の皮膜の上にファンデーションなどを塗ろうとすると馴染まないだけではなく、摩擦によってカルボマーが剥がれ落ち、あたかも皮膚が剥がれたように感じてしまいます。肌にとっては無害なので大きな心配は要りませんが、メイク崩れの原因ともなるので厄介です。また、この現象はよく知られているのですが、「どんな条件で起こるのか」が分かっていないため、慢性的に悩まされている場合は「違う製品を使ってみる」以外の方法がないのが現状です。
オールインワン「ジェル」、上手に使って素敵な一日を!
このように少し厄介な性質も持っているカルボマーですが、「水も油も溶かせる」その性質はオールインワンジェルのような化粧品を作るためには欠かせないものです。また、カルボマーには程よいとろみがあるため、オールインワンジェルはコットンに染み込ませずにそのまま肌につけることができ、スキンケアの時短にとても役立ちます(そのため、オールインワン以外のスキンケアにも利用されています)。化粧水や乳液の保湿成分の浸透も妨げないため、もっと潤いが欲しいと感じたら併用することも可能です。
綺麗にはなりたいけれど、お化粧にはあまり時間をかけたくない、カルボマーはあまり目立った存在ではないですが、そんなわがままに寄り添ってくれる成分です。今後、その特性がより解明されてゆく中で、もっと便利で優れたオールインワンコスメが登場することでしょう。まだ試してみたことのない方も、忙しい朝をより快適にするため、一度手にとってみてはいかかがでしょうか。
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