暑い夏のお供、ひんやりコスメ
ある夏のとても暑い日の朝、エアコンのスイッチを入れて寝ていたのにも関わらず、窓越しに外の暑さが伝わってくる、冬の間はあれだけ有難がっていた日差しが、夏の間はとても恨めしくなってしまいます。外に出るのは勿論、エアコンの効きが悪い洗面台に行って顔を洗って化粧水をつける、そんな些細な事ですら億劫に感じてしまいます。
そんな時、日頃使っている化粧品で、少しでも涼しさを感じることができれば、と思うことも多いでしょう。中には化粧水やクリームを冷蔵庫で冷やそうと考えている方、あるいは既に冷やしている方もいらっしゃるかもしれませんが、あまりお勧めできません。化粧水やクリームは常温で使い、保存することを想定しているため、冷蔵庫で保管すると成分が固まったり、沈殿したりするため、本来持っている機能を損ねてしまいます。冷蔵保存と書かれていない化粧品の保管については、必ず常温で行うようにして下さい。
冷やさなくてもひんやりとした感触は欲しい、言葉だけ聞くと無理を通り越して無茶に聞こえてしまうのですが、その願いを叶えるための化粧品が幸いにも発売されています。いわゆる「ひんやり」や「涼感」、「クール」等の言葉が付いた化粧水やスプレー、シャンプー等が挙げられ、決まった名前はないのですが、インターネットでは総称して「ひんやりコスメ」と呼ばれています。肌につけるとひんやりとした感触があり、しかもその感触が単にエアコンや水で冷やした場合とも比較して長い間持続します。どうしてひんやりとした感触が続くのか、考えてみたことはないでしょうか。
ひんやりコスメの効果①周りの熱を奪って冷やす
化粧品に取り入れられている「ひんやり」効果としては主に2つが挙げられますが、1つは蒸発により周囲の熱を奪い、温度を下げる作用によるものです。コーヒーや紅茶を淹れる際にやかんやポットを使用しますが、お湯そのものよりも蒸気の方が触れると熱い、と感じた経験があるかと思います。実際にその通りで、同じ温度でも気体と液体では気体の方が多くの熱エネルギーを持っており、液体が蒸発、沸騰して気体になる際は大量の熱を吸収します。その作用を利用することによって、スプレーから噴射された気体が周辺の温度を下げる、あるいは肌に塗った成分が蒸発する際に熱を奪うことにより、肌を冷却する作用を担います。
気体を噴射することによって周囲の熱を奪うタイプのものはミストタイプの化粧水の一部や制汗剤、ヘアスプレー等が挙げられます。充填剤としてLPGやDMEが用いられており、これらは高圧のスプレー缶の中では液体なのですが、スプレーとして空気中に噴射することによって気体となり、その際に周辺の熱を奪います。また、肌に塗った後に蒸発する成分として代表的なものとしてはエタノールが挙げられ、常温、常圧では液体ですが蒸発しやすい性質を持っているため、蒸発の際に熱を奪い、皮膚の温度を下げる働きがあります。このタイプの成分は実際に肌の温度を下げることが可能ですが、ややひんやりとした感触の持続性に欠けるため、もう1つの効果を持った成分と組み合わせて利用されています。
ひんやりコスメの効果②涼しく感じるようになる
化粧品に取り入れられているもう1つの効果は「涼しさを感じやすくする」作用です。代表的な成分としてはペパーミントに含まれている清涼成分、メントールが挙げられます。ペパーミントはハーブティーでもおなじみですが、ペパーミントがブレンドされたハーブティーを淹れて飲むと、温かいものを飲んだにも関わらず、不思議と暑さを忘れるように感じたことがあるかと思います。肌の場合も同様で、メントールが含まれた化粧品を肌に付けると、蒸し暑い室内に置いてあったものであっても不思議と冷たく感じられます。それはメントールが皮膚の細胞に対して「涼しいと錯覚させる」効果を持っているからです。
肌には体温を調節するための機能が備わっており、その1つとして、表皮のケラチノサイトや真皮の自由神経終末の部分に存在する温度感受性TRPチャネルが挙げられます。TRPチャネルは複数存在し、温度によって活性化される部分が異なりますが、肌にメントールを塗るとその1つであり、本来28℃以下の低い温度を感じるためのチャネルであるTRPM8が選択的に活性化されます。したがって肌はあたかも体温以下の冷たいものに触れたように錯覚し、涼しいと感じるようになります。
同じような作用を持つ成分としては他に精油としても用いられ、肌のバリア機能改善など、多くの作用を併せ持っているユーカリ葉エキス、冷湿布の成分として有名なサリチル酸メチル、カンフル(樟脳)等が挙げられ、目的に応じて単独で、もしくは組み合わせて使用されています。また、この作用はエタノールが持っているひんやり効果と互いに補完し合うため、しばしば両者は組み合わせて使用されます。
ひんやりコスメの効果的な取り入れ方
ひんやりコスメは暑い夏でも涼しさを感じさせてくれる便利なアイテムですが、どのように使うのが効果的なのでしょうか。前提として、ひんやりコスメはあくまでも「涼しく感じさせる」ためのアイテムです。エタノールやDMEには蒸発の際に熱を奪う作用がありますが、皮膚の表面を少し冷やす程度で、体温を下げる性質のものではありません。また、メントールやユーカリ葉エキスは「涼しく感じるようになる」作用はあるのですが、皮膚の熱自体を奪うものではありません。スポーツや外出の際に、身体を冷やす目的で使うのであれば、水分をこまめに取って汗をかくようにする、首筋をペットボトルで冷やすことが効果的です。
ひんやりコスメが効果的なのは、「暑さの不快感を取り除く」ことが必要な状況です。炎天下でのスポーツ、冷房が十分に効いていない中での通勤等、十分な水分を摂取できていることが前提ですが、メントールやユーカリ葉エキス、カンフル等が使われたスプレー等を使うことによって不快感を軽減し、ストレスを軽減することが可能です。また、暑い夏の肌ケアには化粧水等が若干重たく感じられることがありますが、これらの成分を取り入れることにより、毎日のケアをより楽にすることができます。
まだエアコンも扇風機も無かった時代、人々は暑い夏を何とかして乗り切ろうと、あれこれと工夫を凝らしていました。風鈴やうちわ、そうめんにところてん、どれも直接身体を冷やすものではないのですが、五感を刺激することによって涼しく感じさせるものでした。ひんやりコスメもその流れを汲むものといえるでしょう。暑い夏を乗り切り、楽しむために、貴方の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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