「食べる」「飲む」だけじゃない、肌への恵みをもたらすフルーツ
貴方は普段、どれ位フルーツを食べますか。スーパーマーケットの店頭には様々なフルーツが季節を問わず並べられていますが、特に夏の終わりから冬にかけては旬の恵みを多く味わうことができます。特に多くの方に好まれているのは秋のブドウやリンゴで、飽きのこない甘さと酸味のバランスは普段フルーツに馴染みがない方でもついつい食べ過ぎてしまうのではないでしょうか。また、食べるだけではなく「飲む」ことができるのもフルーツの魅力で、旬のジュースやワインを楽しんでいる方も多いことでしょう。また、ビタミンやポリフェノールが美容に効果的なことでも知られており、積極的に食事に取り入れている方もいらっしゃいます。
そして、フルーツは「食べる」「飲む」だけではなく、「化粧品」の成分としても馴染み深い存在です。フルーツの名産地で売られているご当地コスメだけではなく、日頃のスキンケアに使っているクリームやオイル、シャンプーといった幅広いアイテムにフルーツを原料とした成分が使われており、気になっていた方も少なくないでしょう。一体、フルーツはどんな目的で化粧品に使われているのでしょうか。
フルーツの素敵な効果①化粧品を肌に馴染みやすくし、水分蒸発を防ぐ
化粧品に使われているフルーツ由来の成分としては「植物油」が挙げられます。ブドウの種子やアボガドの果肉を圧搾、精製して得られるグレープシードオイルやアボガド油、オリーブ果実油は不飽和脂肪酸の一種であるオレイン酸やリノール酸を主成分としており、皮脂とも組成が近いため、肌に馴染みやすいことが特徴です。特にグレープシードオイルには不飽和度の高い脂肪酸であるリノール酸が多く含まれており、肌への付け心地がとても滑らかなことで知られています。
また、これらの植物油は失われがちな皮脂の代わりとしての役割も果たします。皮脂は過剰に分泌されると毛穴詰まりやニキビなどの原因となりますが、肌からの水分蒸発を防ぐ役割も担っており、不足すると乾燥による肌の不調を引き起こします。植物油が含まれたクリーム等を肌につけることによって油分を補い、肌の水分量を保つことができます。
この「水分蒸発を防ぐ」効果は植物油だけではなく、「果実エキス」にも期待することができます。「果実エキス」にはフルーツ由来の糖分であるフルクトースやグルコースが豊富に含まれており、これらは水と馴染みやすいため、肌につけるとより多くの水分を肌に留めます。この作用はコラーゲンやヒアルロン酸といった保湿に特化した成分には及ばないものの、他の成分との組み合わせで十分な効果を期待できます。
果物の素敵な効果②肌の酸化を防ぎ、引き締める
一方、フルーツが「果実エキス」として利用されている場合、その多くが抗酸化作用による肌のシミやくすみの予防を期待して配合されています。フルーツにはブルーベリーやアサイーの色素として有名なアントシアニンやブドウ由来のレスベラトロール、リンゴ由来のプロシアニジン等、ポリフェノールが多く含まれており、構造中の「カテコール」と呼ばれる部分が活性酸素の連鎖反応をよく抑えるため、肌内部でのメラニン色素の合成を妨げ、シミやくすみの発生を予防することが期待できます。
また、フルーツの酸味はクエン酸やリンゴ酸など幾つかの成分の組み合わせによって産み出されていますが、抗酸化作用に優れたビタミンC(アスコルビン酸)も多く含んでいるため、さらに高い効果を期待することができます。これらの有機酸は抗酸化作用だけではなく、その比較的強い酸性によって毛穴を引き締め、余分な皮脂の分泌を抑える効果も期待できます。
果物の素敵な効果③爽やかな香り付け
フルーツは「香り付け」の目的で利用されることもあります。代表的なものはシトラスやベルガモット、オレンジなど柑橘系のフルーツの皮や果実を圧搾、もしくは有効成分を抽出することによって得られる精油や果実エキスです。これらの成分は爽やかな香りを持つことで知られるモノテルペンの一種リモネンや花の香りの正体としても知られるリナロールなどを含んでおり、化粧品に甘く爽やかなフレーバーをもたらします。ストロベリーやアップルなど、フルーツをイメージした化粧品のフレーバーは主に合成香料の組み合わせによって再現されますが、柑橘系のものは天然由来のものが多く用いられているため、より自然で心地よく感じられます。
ところで、フルーツはどうして化粧品に使われているの?
このように、フルーツは食べ物としてだけではなく、化粧品成分としても私達の肌に嬉しい効果をもたらしてくれる存在です。しかし、抗酸化作用や肌の引き締めについてはより優れた成分が存在し、また、香り付けについても合成香料の組み合わせで十分に再現可能なため、美味くて割と高価なフルーツをあえて使う理由は乏しいように思われます。どうしてフルーツをわざわざ使っているのでしょうか。
実は、化粧品に使われているフルーツの多くは食用のものをそのまま使っているのではなく、食用に適さない部分、あるいはキズや傷みなどの理由で廃棄する分を有効活用したものです。例えば、グレープシードオイルはワインの醸造向けに栽培されたブドウの副産物として得られた種子を利用し、柑橘系の精油は食用に適さない皮の部分を利用しています。また、イチジクやモモなどのエキスは出荷に適さず、廃棄に回される分を主に利用しています。
そのため、フルーツを使ったコスメはグレープシードオイルや柑橘系の香料などの一部の成分を除き、ドラッグストアに並ぶような定番品ではなく、期間限定の商品やいわゆる「ご当地コスメ」に使われていることが多いです。天候によるキズで大半を捨てなければいけない、捨てるには惜しいけど、種や果皮の使い道が思い浮かばない、といったことに悩まされがちな農家の方々にとって、このような取り組みはより安定した収入を得るための良い助けになっています。
フルーツと美容の繋がり、と聞くとつい食べる方ばかり想像してしまいますが、化粧品として肌につけることでも私達に様々な形で恵みをもたらします。いつものお気に入りのお店で、あるいは旅の途中で見つけたら、是非一度手に取って試してみてはいかがでしょうか。きっと、貴方の毎日がより少しだけ恵みのあるものになるでしょう。

