簡単なようで難しい、「日焼け止め」の選び方
何かを決めたり選んだり、貴方は得意な方ですか。重要なことでも直ぐに決断できる人がいる一方で、晩御飯のおかずや普段着を決めたり選んだりするのにもひと苦労、といった人もいます。しかし、どれだけすぐに物事を決められる方でも、「日焼け止め」を選ぶのは苦労するのではないでしょうか。日焼け止めは本当に多くの種類が様々なメーカーから発売されており、テクスチャーや美容成分、値段などを選り取りみどりで選ぶことができますが、どれも魅力的に感じる反面、決め手に欠けるのも事実です。
そんな日焼け止めを選ぶ基準の1つが「SPF値」です。SPF値は日焼け止めには必ず記載されている数値で、市販のものでは30〜50の間、そして50+のものをよく見かけます。この数値が高いほど日焼け止めとしての効果が高い反面、肌への負担が大きいとされており、普段使いにはSPF30、海や山のレジャーではSPF50+のものがお勧めだと言われていますが、一体、SPF値とはどんなものなのでしょうか。また、数値が高いほど肌に悪いのは本当なのでしょうか。
SPF値=「日焼け止めの持続時間の指標」
SPFとは「Sun Protection Factor」の略で、紫外線の中でも火傷のような日焼けや皮膚がんの原因となるUV-Bを防ぐ効果を示した指標です。具体的には「人工的な光源から一定の割合で照射されたUV-Bを浴びた状態で、何も塗らない場合と比較して、肌が赤くなるまでの時間をどれだけ遅らせられるか」を示しており、SPF30の場合は30倍、SPF50+の場合は50倍以上になることを示しています。肌は「ある程度のUV-Bを浴びると赤くなる」性質があるため、その時間が遅れるほど紫外線を防ぐ効果が強いといえます。
また、SPF1の効果はおよそ20分とされています。そのため、SPF30の場合、計算上では600分(10時間)、SPF50+の場合は1,000分(16時間40分)以上UV-Bによる日焼けを防ぐことができることになり、SPF30以上の日焼け止めを使えばほぼ1日紫外線から肌を保護できることになります(実際には塗りムラや汗などの影響で、日焼け止めの持続時間はより短くなります)。
尚、日焼け止めに書かれている数値としてはもう1つ「PA値」(Protection Grade of UVA)というものがありますが、こちらは肌が黒くなる原因となる「UV-A」を防ぐ効果を示しており、PA+(何も塗らなかった場合と比較してUV-Aによる日焼けの時間が2〜4倍)〜PA++++(16倍以上)の4段階で表記されます。
SPF値を上げる成分にはどんなものがあるの?
日焼け止めのSPF値は日焼け止めに利用する「紫外線散乱剤」「紫外線吸収剤」と呼ばれる成分の量によって決まります。紫外線散乱剤の代表的な成分としては白色顔料としても知られている酸化亜鉛及び酸化チタンが挙げられます。これらは無機鉱物に分類され、可視光をよく反射することによって白く見える性質がありますが、紫外線についても同様の性質を示すため、紫外線が肌に到達することによって生じるダメージを防ぎます。
一方、紫外線吸収剤の代表的な成分としてはメトキシケイヒ酸エチルヘキシルやオキソベンゾン-3等が挙げられます。これらの成分は紫外線を吸収してそのエネルギーの一部を熱エネルギーに変換する性質を持っており、肌に塗ることで紫外線が「強いエネルギーのまま肌に到達する」ことによって生じるダメージを防ぎます。紫外線吸収剤は一般的に油と馴染みやすい性質を持っているため、「日焼け止めクリーム」や「日焼け止めオイル」の主成分として多く利用されてきました。
一般的に紫外線吸収剤の方が紫外線散乱剤より強いUVカット効果を持っており、SPF値の高い(SPF50+)の製品には前者が多く配合されています。一方、SPF30程度の製品では、UVカット成分として紫外線散乱剤のみを用いた製品も見かけるようになります。
SPF値が高いと肌に悪いって本当?選び方のコツは?
SPF値が高ければ高い程、日焼け止めは肌を紫外線から長時間守ってくれます。しかし、「使い心地」や「肌への負担」を考えた場合、必ずしもSPF値が高い製品が良いとは限りません。メトキシケイヒ酸エチルヘキシルやオキソベンゾン-3といった紫外線吸収剤はSPF50+の製品でよく利用されており、成分自体の安全性も十分に高いものですが、油性基剤に溶かして利用するため、独特のべたついた使用感が出てしまい、分解されると肌への刺激の原因となってしまいます。
また、製品の中には酸化チタンや酸化亜鉛といった紫外線散乱剤だけで高いSPF値を実現したものもありますが、これらは紫外線吸収剤を利用したものよりもべたつきが少ない一方、「白色顔料」が主成分のため、塗った部分がどうしても白浮きしてしまいます。また、これらの製品は一般的なものと比較して肌へのつけ心地や伸びも良くないため、「使い続ける」ことのハードルが高くなりがちです。
そこで、実際の日焼け止め選びに関しては「使用状況に合わせて最適なSPF値のものを選ぶ」ことが重要になります。日焼け止め効果の高いSPF50+の製品は「山や海で1日過ごす」「日焼け止めを塗り直せない」といった状況に適しています。長時間屋外で過ごし、大量の紫外線を浴びるような状況では、紫外線を防ぐメリットが日焼け止めを塗ることによるデメリットを大きく上回ります。
しかし、通常の外出や軽いスポーツなど「数時間だけ直射日光に当たる」「日焼け止めを塗り直せる」状況では、SPF30程度の日焼け止めで十分な効果を期待することができます。SPF30前後の製品は紫外線吸収剤不使用であっても白浮きや使い心地の悪さが目立たない、あるいは紫外線吸収剤をメインとしていてもべたつきが気にならないものが多い印象です。このような製品を必要に応じて塗り直すことで、肌に負担を掛けすぎることなく、長時間の効果を期待できます。最近ではSPF50+の製品も改善が進み、随分と使いやすくなった印象ですが、日常使いの日焼け止めについては「SPF30」を1つの目安として選ぶと良いでしょう。
あまりにも多くの製品がある中で、自分に合った日焼け止めを選ぶのは本当に大変ですが、その手がかりとして「SPF値」を活用してみてはいかがでしょうか。とりあえず性能が良い方を選ぶ、という考えでSPF50+の製品ばかり使っていた方も多いかもしれませんが、選び方を変えてみることで、貴方の毎日がもう少しだけ快適になることでしょう。