「安全な」化粧品づくりを担う成分「防腐剤」
初夏の陽気を感じるこの季節、貴方はどうお過ごしですか。梅雨やその先の本格的な夏の訪れを前に、お出かけの機会が増えている方も多いのではないでしょうか。この2、3年は「人に会う」「人と集まる」ことが厳しく制限されていただけに、特別なイベントではなくても、いつも以上に充実して感じられます。
この時期に活動的になるのは私達だけではありません。他の動物や植物もまた同じです。そして、困ったことに「微生物」も活発になります。お手製のお弁当や作り置きのおかず、冷ましていなかったり、長い時間置いてしまったりすると、カビが生えてしまったり、お腹を壊してしまったりと大変です。化粧品もまた然りで、手作りのものを長い間置いておくと、本能的に「使いたくない」と思う状態になっていることがあります。
そこで、この微生物の活動を抑えるため、市販の化粧品には「防腐剤」もしくは防腐効果のある成分が配合されています。代表的な成分は「パラベン」や「イソプロピルメチルフェノール」と呼ばれる石油由来の成分で、様々な細菌やカビの繁殖を抑える効果があるため、防腐剤なしでは数日しか持たない化粧品を数ヶ月間、「安全」に使うことができます。ただし、人によっては刺激を感じたり、「石油由来」の部分に不安を感じたりすることもあり、より「安心」な成分が求められることもあります。
「安心な」植物由来の防腐剤①発酵由来のアルコール、グリコール
化粧品の「安心」の根拠は人それぞれですが、「植物由来」「ナチュラルコスメ」という言葉に惹かれる方は少なくないでしょう。化粧品に使われる防腐剤の多くは石油由来のものですが、近年のナチュラル志向の高まりに伴って、植物由来のものも多く使われるようになりました。
代表的な植物由来の防腐剤としては、「発酵エタノール」が挙げられます。通常、化粧品向けのエタノールは石油由来のガスであるエチレンを水と反応させることによって合成されるため、「合成エタノール」とも呼ばれますが、発酵エタノールはさとうきびやトウモロコシ由来のデンプンをお酒と同じ要領で発酵させることによって得ることができます。発酵エタノールは合成エタノールと同様にカビや雑菌の繁殖をよく防ぎ、他の成分と混ぜやすいことから、化粧品向けの防腐剤としてよく用いられています。
また、最近では天然由来の1,3-ブチレングリコールも注目を集めています。通常、化粧品向けの1,3-ブチレングリコールは工業的にアセトアルデヒドを縮合させ、水素を添加することによって得られますが、近年、さとうきびを発酵させて得る方法が確立され、徐々に流通量が増えています。1,3-ブチレングリコールはエタノールより抗菌効果は穏やかですが、低刺激で若干のとろみがあるため、使い勝手により優れています。
「安心な」植物由来の防腐剤②植物由来の有機化合物
発酵エタノールや1,3-ブチレングリコールは一般的に優れた防腐剤ですが、一部の製品には有機酸由来のやや特化した防腐剤が用いられることがあります。代表的な成分の1つとして、弱酸性でカビやブドウ球菌に対する抗菌効果が知られているp-アニス酸が挙げられます。p-アニス酸は防腐剤としても利用される安息香酸にメトキシ基が付加した構造を持っており、アニスやフェンネル、バジル等に多く含まれているため、抽出して用いられます。
また、脂肪酸エステルの一種であるカプリル酸グリセリルもよく用いられています。カプリル酸グリセリルはヤシ油やパーム油に含まれる炭素数8の脂肪酸、カプリル酸をグリセリンと反応させることによって得られる天然由来の界面活性剤の一種ですが、弱酸性でブドウ球菌や大腸菌に高い抗菌作用を示します。カプリル酸グリセリルと良く似た成分に炭素数10の脂肪酸とグリセリンのエステルであるカプリン酸グリセリルが挙げられ、全体的にやや効果はやや落ちるものの、同様によく用いられています。
天然由来の抗菌成分としては「精油」が用いられることもあります。抗菌作用の強い精油としてはティートゥリーオイルやサイプレスオイルが挙げられますが、前者にはテルピネン- 4-オール、後者にはヒノキチオールが豊富に含まれており、雑菌の繁殖をよく抑えます。精油は匂いが強いため、抗菌作用を求めるのだけではなく、製品のテーマを決める役割も担っています。
植物由来の防腐剤、「安全」だと思って大丈夫?
多くの種類があり、「安心感」を前面に出している植物由来の防腐剤ですが、「安全性」についてはどうなのでしょうか。基本的には石油由来のものと比較して、植物由来のものは「より安全」なものが多いです。石油由来のエタノールや1,3-ブチレングリコールは基本的には安全ですが、発酵由来のものよりも合成過程に由来する副生成物の種類が多いため若干、刺激を感じることがあります。また、パラベン等に関しては天然由来のものよりも作用が強く、体質によっては成分自体が合わないことがあります。
一方、植物由来のものの課題として、コストの高さや「pHによる効果のぶれ」が挙げられます。発酵は化学合成よりもコストがやや高く、また、p-アニス酸やカプリル酸グリセリルはアルカリ性では効果を発揮できません。その点、石油由来の防腐剤は安定して効果を発揮するため、化粧品の品質を長期間保つことができます。
「肌に優しい」ことは化粧品における大きなテーマの1つで、防腐剤についても、肌への刺激性などを考え、フリー処方を含めて多くのものが検討されてきました。その中で近年、植物由来のものが注目を集めています。もしナチュラル志向の化粧品を使いたいけどどれを選んで良いか分からない、といった時、防腐剤の種類を選び方の1つの軸とするのも良いかもしれません。
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