化粧品成分の「BG」「PG」とは?
世界は様々な工業製品で溢れていますが、化粧品ほど多様性のある原料が使用されている製品はないのではないでしょうか。あるものは石油から、またあるものは身近な草花から、そしてまたあるものは鉱山から、海を越えて届けられた原料を調合することにより、私達が毎日使う製品が産み出されます。私達は化粧品を通して、常に世界と繋がっています。化粧品の成分を見て、各々の役割だけではなく、出自について思いを馳せる方もいらっしゃることでしょう。しかし、「BG」「PG」について、その役割や出自を推測できる方は少ないのではないでしょうか。よく使われている成分ですが、たった2文字だけでは手掛かりがあまりにも少な過ぎます。
「BG」「PG」とはそれぞれグリコールの1種である「1,3-ブチレングリコール」(化学式 C4H10O2)、「プロピレングリコール」(化学式をC3H8O2)を指し、いずれも炭素と水素で構成された骨格にヒドロキシル基(OH)が2個結合した構造を持っています。BG、PGはスキンケア、ヘアケア製品など、水に近いさらさらとした使用感の製品に多く使われています。また、製品によっては先頭に「D」が付いたDBG、DPGといった製品が使われていることがあります。
「PG」と「BG」の効果①保湿作用
化粧品のPG、BGに求められている第一の効果は保湿です。冒頭でも簡単に触れましたが、PG、BGはヒドロキシル基と呼ばれる水と馴染みやすい構造を1分子あたり2個持っています。一方、油や皮脂と馴染みやすい炭素骨格と呼ばれる部分の炭素数は1分子あたりそれぞれ3個、4個と比較的少なく、「肌に程良く馴染みやすく」「水分も比較的保持しやすい」構造であるため、肌に塗ると適度な保湿効果を発揮します。
単に保湿効果だけであれば代表的な保湿成分であるグリセリン(1分子あたり炭素3個に対してヒドロキシル基3個)の方が高いのですが、「肌に適度に馴染み」「強い保湿効果を発揮する」ことは同時に「べたついた使用感」を意味します。肌の乾燥防止は季節を問わず重要なテーマではあるのですが、べたつきの強い製品は高温多湿の日本の夏を過ごす上で、出来れば使いたくない製品でしょう。PG、BGのべたつきが少ない、適度な保湿作用は心地よい製品づくりにとって欠かせないのです。
「PG」、「BG」の効果②優れた溶媒としての役割
PG、BGの「水にも油にも馴染みやすい」性質は成分を溶かし込む溶媒としても優れています。良い化粧品を作る上では「肌に塗りやすく」「成分が沈殿、変性しない」ことは大前提です。PG、BGは水に近いさらさらとした使用感、溶かすことのできる成分の多さ、温度などの影響を受けにくいといった性質が好まれ、多くの製品に使用されています。また、製品そのものではなく、製品の原料となる植物エキスを抽出するための溶媒としても使用されています。この目的ではエタノールがかつて使用されてきましたが、より肌への刺激が少ないPG、BGが最近では好んで使われます。
また、PG、BGは開封後の化粧品の品質を保つ上で、もう1つ欠かせない作用を持っています。PG、BGは防腐剤であるパラベンやフェノキシエタノールのような高い殺菌作用こそ持ち合わせていないものの、大腸菌等の繁殖を抑える作用が確認されています。その為、製品に併用することによって防腐剤の使用量を抑え、肌への刺激を抑えることが可能です。
「PG」と「BG」、どこが違うの?
共に保湿や溶媒としての作用を期待して使用されているPGやBGですが、両者には構造の違いによる若干の性質の差異があります。端的に表現すると、炭素鎖の短いPGの方が「性能の上では」優れています。よりヒドロキシル基の占める割合が多いため水分を多く保持し、成分としての活性が高く抗菌性にも優れているため、かつてはPGの方が多く使用されていました。
しかし、化粧品においては「性能が優れている」ことは必ずしも「適した」成分であることを意味しません。アルコール系の界面活性剤等にも当てはまりますが、効果が高いことは同時に肌への刺激性の高さにも繋がります。PGは食品添加物としても利用されており、エタノール等と比較すると十分に刺激性が低い成分なのですが、最近ではより肌への負荷が少ないBGが好んで使用されるようになりました。また、保湿や抗菌効果より肌への刺激の少なさを最優先する場合、PGの二量体(2分子を結合したもの)であるDPGが使用されることがあります。
色々な製品に使われているけど、肌への影響は大丈夫?
多くの製品に使用されており、肌への刺激性も少ないとされているPG、BGですが、長い間使い続けても大丈夫なのでしょうか。実のところ、PGに関してはアレルギー反応による皮膚炎を起こすことが知られています。また、BGに関しても一部で疑わしい症例が報告されています。しかし、アレルギーを持たない多くの人にとっては、BGが使用されることでパラベンやフェノキシエタノールの使用量が減少し、雑菌繁殖のリスクも下がるため、使用するメリットがデメリットを上回ります。また、植物エキスの抽出等に用いる場合、エタノールに関しては微量でも刺激を感じる人がいるため、よりBGを使うメリットが大きくなります。
化粧品にとって個別の成分の効果や安全性は大事ですが、それ以上に色々な成分を組み合わせた時のトータルでのリスクの高さ、使いやすさを考える必要があります。PGやBGは特筆すべき効果は持っていないものの、色々な意味で「丁度良い」成分といえます。今後、より低刺激の化粧品が求められてゆく中で、特にBGに関して、その特性を活かした製品が開発されてゆくことでしょう。
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