「おしろい」ってどう使う?おしろいの歴史と成分や上手な使い方について

ファンデーションの崩れ

美しさと白い肌への憧れの歴史

 皆様は美しい肌、理想の肌と聞いてどんなものを想像するでしょうか。きめが細かく整った肌、潤いに満ちた肌、あるいは健康的に日焼けした肌、人によって思い浮かべるものはそれぞれかもしれません。今日では様々な化粧品が発売されており、肌の状態を整えるだけではなく自分の好みに合わせた質感、色味を表現することができます。

 しかし、少し昔に目を向けてみると、長らく絶対的な美しさの基準の1つとして考えられていたのが、「肌の白さ」でした。古くはギリシャやローマで小麦色の肌がもてはやされた時期もあったのですが、中世になるとヨーロッパ、アジアでは透き通るような白い肌が美しいとされました。今のような明かりがなかった時代、暗い光に白い肌が官能的に見えただけではなく、ヨーロッパ、アジアを問わず農業に携わる人が多く、よく日焼けした人が多かった中で、肌の白さは自ら働かなくとも良い、身分の高さのアイコンとしても機能していました。より美しく白い肌に見せるため、古今東西を問わず広く使用されたのがおしろいで、また、紫外線をなるべく浴びない工夫も経験をもとに行っていたそうですが、「色の白いは七難隠す」とまで言われた中で、美しさを追い求めるあまりわざと貧血になる等、不健康な方法を取った方もいたそうです。

「おしろい」の普及とかつての成分

 おしろいが広まる前の化粧は自然の色味を活かしたものが多く、果実の赤や自然な肌色に近いものも用いられましたが、「色が白い」ことが好まれるようになり、おしろいが使われるようになった結果、ある成分が注目を浴びます。それは「鉛白」です。それまでの化粧品は水にあまり溶けず、肌に塗るのも一苦労だったのですが、鉛白で作られたおしろいは水で伸ばしやすく肌へのなじみも良い、また、色味も良いといったメイクアップの化粧品に求められている機能性を幅広く備えていたため、広く用いられるようになりました。何よりも白さが求められたため、真っ白になる位厚塗りにして使用していたそうです。他にも水銀もよく利用されていたそうです。

  鉛白は19世紀までは広く用いられていましたが、20世紀になると次第に負の側面が問題になるようになります。急性の中毒を引き起こす物質ではありませんが、継続して使用すると中毒を引き起こし、強い肌荒れだけではなく、命に関わるような副作用を起こすことが知られるようになります。化粧だけではなくワイン等の食品添加物としても使われていた鉛は、身分の高い人や芸を生業とする人が短命だった原因にもなっていたのです。その後鉛白の使用は禁止され、より身体に害の少ない成分の開発が進められるようになります。今日では鉛白は化粧品に含まれていないのですが、「化粧は身体に悪い」イメージがかつてあった原因の1つです。

今のおしろいに使われている成分

 かつては「白さの追求」と「不健康」の2つの性格を合わせ持ったおしろいでしたが、現在ではやや趣が変わっています。まず、化粧品の技術の発達により多彩な色味を表現できるようになった結果、おしろいは必ずしも白さを求めるものではなく、必要に応じて白以外の色味を持った顔料と組み合わせるようになりました。また、健康面に関してはかつて使用されていた原料に置き換わる形で、ほとんど身体に害のないものが使用されています。今日のおしろいの主成分は大きく分けて酸化チタンや酸化亜鉛といった白色顔料、タルクやマイカ、セリサイトやカオリンといった化粧品の使用感を向上させる成分の2種類から構成されています。

酸化チタンや酸化亜鉛はよく光を反射する性質をいずれも持っており、特に酸化チタンは目に見える光をほぼ全て反射するため、他の白色顔料と比較してもより白く見えます。また、どちらも水にも油にも溶けにくく安定であり、パウダーの状態で肌に塗っても有害な反応を起こしたり体内に蓄積したりする心配がないため、安心して使用することができます。また、これらの原料は紫外線もよく反射するためUVカットの効果も合わせ持っており、日焼けを防ぐことにより肌を白く保つことができます。

一方、タルクやマイカ、セリサイトといった成分はそのままではなじみが良くない白色顔料の化粧品の肌の上での滑りを良くさせ、使用感を向上させる効果を目的として使用されます。マイカやセリサイトは滑りを良くさせる効果に加え、その光沢感によって肌をより綺麗に、きめ細かく見せる目的としても使用されます。また、カオリンはやや目的が異なり、単体での肌の上での滑りは良くないのですが、肌に他の成分を付着させ、また、成分を均一にならすために配合されています。

今のおしろいの役割と使い方

 かつてのおしろいはファンデーションとして肌を白く見せるために使われていましたが、今日ではベースメイクを行った後、上から重ね塗りをして肌色をより綺麗に見せる目的で使用されることが多いです。これらの製品は現在では「おしろい」と呼ばれることは少なくなり、一般的には「ルースパウダー」もしくは「プレストパウダー」の名称で呼ばれています。これらはほぼ同じ目的で使用されますが、製品としてのテクスチャが異なり、ルースパウダーが一般的にさらさらとした粉状であるのに対して、プレストパウダーは粉が押し固められているのが特徴です。

 リキッド系のファンデーションは肌に塗ることによって表面のシミや毛穴などをしっかりとカバーすることができ、時間が経っても崩れにくい優れモノですが、ファンデーションに含まれる油分の影響で時間が経つとテカリがやや目立ちやすく、また、やや平面的な仕上がりになってしまいます。ルースパウダーやプレストパウダーはファンデーションを塗った後に重ねて塗ることで、肌を程よく自然に白くきめ細やかに見せることができ、また、立体感を持たせることもできます。また、一部の製品には皮脂を吸着する成分も含まれているため、余分な油分を吸収しテカリを抑えることができます。ルースパウダーとプレストパウダーの使い分けですが、使用感や肌への密着度が異なるため、手軽にナチュラルな仕上がりをしたい場合は前者を、よりしっかりと仕上げたいときは後者を使うと良いでしょう。

 時代を経てその役割を少しずつ変えてきたおしろいですが、肌をより美しく見せたいといった人々の願いを叶えるべく、日々進化しています。現在、化粧のトレンドとして「時短」が着目されていますが、BBクリーム等、オールインワンのメイクが発売されても「最後の仕上げ」としての役割を終えることは当面なさそうです。おしろいはずっとこれからも、私達に寄り添う存在となるでしょう。

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