化粧品のグリセリン、何から出来ているの?
貴方は化粧品がどんな原料から出来ているかご存知でしょうか。いわゆる「ナチュラルコスメ」には世界中から輸入した植物由来の成分が使われていますが、ドラッグストアなどで手軽に買える化粧品の多くには「石油」を原料とした成分が使われています。石油には様々な炭化水素(炭素と水素の化合物)が含まれており、燃料として利用するだけではく、スプレーに充填するガスから肌につけるオイルやクリーム、口紅の色素まで、様々な化粧品成分の原料としても利用されています。保湿成分として有名なグリセリンも、かつては石油から生産したものが広く使われていました。
しかし、この石油由来のグリセリンですが、今日では医薬品向けなど一部の特別な用途に限られ、化粧品向けにはパーム油や大豆油を原料としたものが用いられています。また、最近では「植物由来の燃料の副産物」として得られたものも使われるようになっています。一体どうして石油由来ではなく、植物由来のものが多く利用されるようになったのでしょうか。
生産性に優れた「植物由来」のグリセリン
多くの方が抱くイメージとして、使いやすさや手に取りやすさを優先した化粧品には石油由来の成分、環境や肌への優しさを優先したそれには植物由来の成分が使われている、といったものがあります。実際、かつて石油由来の成分は不純物を十分に除ききれておらず、肌への刺激や「油焼け」の原因となっていました。現在では技術の発達によって、グリセリンを含む大部分の石油由来成分は十分に安全で、植物由来の成分よりもむしろ不純物が少ないため、医療目的では好んで利用されることがあります。
しかし、植物由来のグリセリンが利用されるようになったのは肌への優しさよりはむしろその手に取りやすさが理由です。グリセリンはかつて、石油由来のプロピレンを原料として合成する方法が主流で、コストもそれ程高いものではありませんでした。しかし、今日ではパーム油や大豆油を加水分解して作る方法がより安価なため、そちらが主流になっています。パーム油や大豆油は米や麦のように大量に栽培可能なため、需要の多いグリセリンであっても十分に賄うことができます。また、これらの作物は適切に管理すれば地域の水や土壌を使いすぎることがないため、いわゆる「持続可能性」の面でも石油より優れています。
もう1つの植物由来、「バイオディーゼルの副産物」としてのグリセリン
このように、安心、安全、かつ大量に利用可能なグリセリンですが、今日ではもう1つの「植物由来」のグリセリンが注目され、化粧品成分としても利用されるようになっています。それは、「バイオディーゼル燃料」を作る過程で副生成物として得られたものです。
バイオディーゼル燃料とは大豆油、菜種油、コーン油といった大量生産可能な植物油、もしくはそれらを使用した廃油を濾過し、それにメタノールと水酸化物カリウムを加えて反応させることによって得られた脂肪酸メチルエステルの事を指します。この成分は軽油と化学的な性質が似ており、ディーゼルエンジンの燃料として利用することができますが、
副生成物として10%程度のグリセリンが得られます。このグリセリンは燃焼の邪魔になるため取り除かれて利用されますが、バイオディーゼル燃料自体が大量に合成されているため、得られる量もかなりのものになります。
しかし、このグリセリンは現状、化粧品を含めてあまり積極的には利用されておらず、その多くが廃棄されてしまっています。理由としては通常の植物由来のグリセリンと比較して脂肪酸などの不純物が多いこと、また、不純物の中には刺激性の高いメタノールなども含まれていることが挙げられます。不純物を除去する方法もあるのですが、通常の「植物由来のグリセリン」が安価であるため、石油由来のグリセリンと比較しても「あえて手間をかけて使う」理由に乏しいようです。
「浴びるように使える」化粧品成分として
このように、グリセリンはその手に入れやすさが故に(ここで紹介した方法の他に、動物の油脂を原料としたものも知られています)、化粧品の最も身近な保湿成分の1つとして私達の肌を潤わせてきました。昨今の国際情勢の不安定さや植物由来の原料の「持続可能性」を考えると、中には「いつまでも使い続けられるのだろうか」と不安に思ってしまうこともありますが、グリセリンに関しては「捨てるほど作られている」成分であるため、今後余程のことがない限り、安心して使い続けることができるでしょう。
また、最近では捨てるしかなかったバイオディーゼル由来のグリセリンについても、化粧品に利用するための研究が進められています。セルフタンニング成分として知られているジヒドロキシアセトンの合成等がその一例で、安いグリセリンに手間を加えてより付加価値を高めることにより、商業的にもっと利用できるようにするための試みがされています。今後、技術が発展し、グリセリン自体の利用がより増えた場合(化粧品以外でも様々な用途への活用が検討されています)、バイオディーゼル由来のものももっと積極的に使われるようになるでしょう。
セラミドにヒアルロン酸、コラーゲンなど、化粧品には様々な保湿成分が使われており、よりその効果を高めるための研究が日々進められています。しかし、グリセリンはその効果こそ平凡であるものの、他の高価な成分にはできない、文字通り「浴びるような」使い方ができます。今までも、そしてこれからも、グリセリンは代表的なスキンケア成分の1つであり続けることでしょう。
