化粧品の「酸化防止剤」、どうして使われているの?身体への影響は大丈夫?

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とっておきの化粧品、使い心地がちょっと変かも? 

 大切な人から贈り物をもらったとき、自分へのとっておきのご褒美を買ったとき、貴方はどうやって使いますか。化粧品もまた贈り物やご褒美の定番ですが、折角手に入れたうっとりするような匂いの香水、肌を優しくケアしてくれる美容液、毎日使いたいものであっても、少しだけ使ってあとは大事にしまう、という方も多いではないでしょうか。そして、数ヶ月後に久し振りに開けると、買ったときとは何かが違うことに気が付きます。香りが飛んでしまっていたり、使い心地が変だったり、時には肌にしみたりすることもあります。一体、何が原因なのでしょうか。

 実はこの違和感の主な原因が、化粧品の「酸化」によるものです。化粧品には様々な成分が使われていますが、時間の経過と共に空気中の酸素と反応し、別な成分へと変化します。この現象は一般的に酸化と呼ばれ、化粧品の品質を多かれ少なかれ損ねてしまう原因となり、高い温度や直射日光の影響によってより大きく進行します。

 中でも油分の酸化は「酸敗」と呼ばれ、特に深刻な問題を引き起こします。酸敗を起こしやすいのは天然由来の油脂成分ですが、空気中の酸素と反応すると過酸化脂質と呼ばれる物質に変化し、他の油分を酸化したり、肌に刺激を与えたりする原因となります。そして、この過酸化脂質は最終的に分子量の少ないアルデヒドやケトン、カルボン酸と呼ばれる成分に変化し、強い刺激臭や肌荒れを引き起こします。

化粧品の劣化を防ぐ「酸化防止剤」

 化粧品の望まない「酸化」を防ぐためには、空気中の酸素と化粧品の成分が反応しないようにする必要がありますが、「空気に触れない」ようにすることは非現実的です。仮に容器の中身を真空にして密閉したとしても、蓋を開けたその瞬間、化粧品は酸素に触れてしまいます。「すぐ使い切る」ことが一番の対策ですが、ホテルなどで見かけるような個包装は旅先では便利でも、普段遣いには向きません。そこで、化粧品と酸素がなるべく反応しないようにするため、「酸化防止剤」と呼ばれる成分が利用されます。

 化粧品に利用される酸化防止剤には様々な種類がありますが、その共通の特徴として、「非常に酸化されやすく」「酸化されると安定になる」ことが挙げられます。反応性に富んだ酸素、いわゆる「活性酸素」は化粧品に含まれる油脂や界面活性剤、香料などと連鎖的に酸化反応を起こし、化粧品を劣化させてしまいますが、酸化防止剤は他の成分よりも優先して活性酸素によって酸化されることにより、油脂などの劣化を防ぎます。また、酸化された酸化防止剤自身は比較的安定した構造となり、他の油脂や界面活性剤とはあまり反応しません。

酸化防止剤にはどんな成分があるの?

 酸化防止剤には大きく分けて水と馴染みやすいもの、油と馴染みやすいものの2種類が存在します。前者の代表的な成分としてはアスコルビン酸(ビタミンC)や没食子酸などが挙げられます。これらの成分はいわゆる「抗酸化作用」を持つ成分としても有名で、活性酸素によるシミやシワの予防を目的として化粧水などに利用されていますが、同時に化粧品自体の酸化も防ぐため、その目的でも配合されています。また、ナチュラルコスメのジャンルではカテキンなどのポリフェノールもこの目的で利用されることがあります。

 一方、油と馴染みやすいものの代表的な成分としてはトコフェロール(ビタミンE)、BHTなどが挙げられます。トコフェロールはオリーブオイルやヒマワリ種子油などに豊富に含まれる天然の酸化防止剤で、酸化に弱い不飽和脂肪酸(オレイン酸やリノール酸)の代わりに酸化されることにより、成分の劣化をよく防いでいます。また、BHTは石油から大量に合成可能な成分で、油脂やエタノールとの馴染みやすさや高い安定性を活かし、様々な製品に利用されています。 

酸化防止剤、身体への影響はないの?どうしても使わないといけないの?

 このように、化粧品の品質を保つ上で欠かせない存在である酸化防止剤ですが、時々、その身体への影響が取り上げられることがあります。特に、石油由来のBHTやBHAは肌への刺激性や動物実験で発がん性が指摘された成分としての側面が紹介され、「海外では問題となっている」「敏感肌の場合は使用を避けるべき」ものとして取り上げられることがあります。

 しかし、多くの場合、酸化防止剤は「肌への負担が少なく、使用するメリットが大きいもの」として考えられています。アスコルビン酸やトコフェロール、ポリフェノールなどはスキンケアでもお馴染みであるだけではなく、食品として日常的に摂取している成分でもあります。また、ピロ亜硫酸ナトリウムやBHT、BHAは工業的に合成されて得られる成分ですが、安全な食品添加物として、長く利用されてきた歴史があります。

 作りたての化粧品を使い切ることができれば、無添加であることは何よりも肌にとって良い選択肢です。しかし、店頭に並んだ化粧品を購入し、蓋を開けてしばらく保管することを考えると、何らかの酸化防止剤を用いて油脂や界面活性剤などの酸敗を遅らせることは、肌へのより深刻なトラブルを防ぐ上で必要不可欠です。「肌に合わない」と感じたときは使用を控えた方が良いですが、「酸化防止剤」と書かれている表示を見ただけで使用を避けてしまうのは、選択肢を狭めてしまうことになり、あまりにも勿体ないことです。

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