化粧品の金属イオン封鎖剤、どんな効果があるの?知っておくべきことは?

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泡立たないシャンプーやボディーソープの原因「金属イオン」

 貴方は普段、どんなシャンプーやボディーソープを使っていますか。 また、その使い心地に貴方は満足していますか。最近では洗浄力よりも肌への優しさを重視した製品がトレンドですが、「肌に優しい」製品を使った時、あるいは同じアイテムでも旅先や引っ越し先で使った時など、「全然泡立たない」「洗えていない」と感じたことはないでしょうか。泡立ち過ぎるのが良くないとは聞いていても、つい気になってしまうものです。

 実はこの「泡立たない」「洗えていない」と感じる原因は多くの場合、シャンプーやボディーソープではなく、使用している水に含まれる「金属イオン」によるものです。水に含まれる金属イオンは肌にとって必要な成分ですが、シャンプーやボディーソープに含まれる界面活性剤と反応すると「金属セッケン」と呼ばれる白い物質になります。「石鹸カス」とも呼ばれる金属セッケンは水に溶けないため、シャンプーやボディーソープの洗浄力を落としたり、浴槽や髪の毛に付着したり、といった形で私達を悩ませます。

 また、化粧品に含まれる金属イオンは様々な化粧品の品質を劣化させる原因ともなります。金属イオンが化粧水に混入すると有効成分の沈殿を引き起こし、油性製品では油分の酸化の引き金となります。いずれも化粧品の見た目や匂いを変化させてしまうだけではなく、肌にとって悪い影響を与える原因にもなります。

金属イオンの活動を抑える「封鎖剤」

 化粧品を作る際には精製水を使うなど、金属イオンがなるべく混入しないための工夫がされますが、使用するときの混入まで完全に防ぎきることはできません。そこで、その作用を抑えるための成分として、「金属イオン封鎖剤」もしくは「キレート剤」と呼ばれる物質が利用されています。

 金属イオン封鎖剤には様々な種類がありますが、いずれも配位子、もしくはリガンドと呼ばれる「金属イオンと弱い相互作用を及ぼす構造」を複数持っていることが特徴です。金属イオンは一般的に水溶液中では陽イオン(電子を幾つか失った状態)として存在しますが、この金属イオンに対して配位子が孤立電子対と呼ばれる「結合に使われていない電子のペア」をシェアすることにより、「配位結合」と呼ばれる結合が形成されます。

 金属イオンと金属イオン封鎖剤の間に形成される配位結合は決して強いものではないのですが、1つの金属イオンに対して複数の配位結合が形成されることによって構造は安定化し、その状態は「錯体」と呼ばれます。錯体となった金属イオンは安定で、単独の状態と比較して反応性は大きく低下します。この作用を利用することにより、化粧品に含まれる「不純物としての金属イオン」による品質低下を防ぐことができます。

金属イオン封鎖剤にはどんな種類があるの?

 では、化粧品に利用される金属イオン封鎖剤にはどのような種類があるのでしょうか。化粧品向けとして使用されているものに共通の特徴として、低刺激であることに加えて「反応によって変色しない」ことが挙げられます。化学に馴染みがある方であれば錯体錯体と聞いて色鮮やかなものを思い浮かべる方も多いかと思いますが、化粧品では「変色」が好まれないため、無色のものが好んで用いられています。

 代表的な成分としてはEDTA-2Na(エデト酸2Na)が挙げられます。EDTA-2Naは水に溶けやすい弱酸性の物質で、マグネシウムやカルシウム、鉄などのイオンと配位結合することによって錯体を形成します。この錯体は他の成分と比較して安定性に優れており、また、 EDTA-2Na が肌にとってほぼ無害で、かつpHを安定化させる作用も持ち合わせていることから好んで用いられます。また、化粧品の種類によってはEDTA、EDTA-4Naが用いられることもあります。

 EDTA及びそのナトリウム塩以外の金属イオン封鎖剤としては、メタリン酸ナトリウムやエチドロン酸など、リン酸系の成分もよく用いられています。これらは食品添加物としてもお馴染みの成分で、封鎖剤としての性能はEDTAに若干及ばないものの、肌に対する刺激性がさらに低いことで知られています。そのため、肌への優しさを謳った製品でよく用いられています。また、最近ではより低環境負荷を謳った成分として、ペンテト酸5Naやエチレンジアミンジコハク酸3Naなども用いられるようになりました。

金属イオン封鎖剤、使う上で知っておくべきことは?

 このように幾つかの種類が存在する金属イオン封鎖剤ですが、基本的にはいずれも肌にとって安全な成分で、安心して使用することができます。成分の中には強酸性や強アルカリ性を示したり、実験で「若干の刺激性」が確認されたり、といったものもありますが、通常使用する上では問題ありません。しかし、「環境負荷」の観点ではその多くが若干の課題を抱えています。

 EDTA及びそのナトリウム塩は直接生物に毒性を及ぼす成分ではありませんが、生分解性に乏しいため、河川などに流出した場合でも金属イオンの封鎖作用を発揮し続けます。そのため、EDTAがもし大量に流出した場合、水生生物にとって必要な金属イオンを奪い、また、逆に有害な金属イオンを濃縮することが懸念されます。また、メタリン酸ナトリウムやエチドロン酸などのリン酸系の成分は生分解性に優れていますが、それが故に河川に流出すると「富栄養化」を引き起こし、プランクトンなどを異常に増やしてしまいます。

 この問題は水中の金属イオン濃度が高い(いわゆる硬水の)欧米を中心に関心が高まっており、EDTAなどの使用を控える動きも出ています。そのため、やや使い勝手には劣るものの、ペンテト酸5Naやエチレンジアミンジコハク酸3Naといった生分解性に優れ、富栄養化を引き起こさない成分が代わりに利用されるようになっています。軟水に恵まれた日本では封鎖剤の使用量自体が少なめで、あまり問題とされていなかったのですが、今後環境意識の高まりもあり、ある程度欧米と似たような動きも起こるでしょう。

 金属イオン封鎖剤、もしくはキレート剤、という言葉を今回初めて聞いた、もしくは「EDTA」や「エチドロン酸」の名前は知っていたけれども、どんな成分かは知らなかった、そんな方もいらっしゃったのではないでしょうか。これらは化粧品の中では決して目立つ存在ではありませんが、化粧品を「安定」させる上で、とても重要な役割を担っています。いつもお使いの化粧品にこれらの成分が入っていても、安心してそのまま使って頂いて構いません。

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