アスタキサンチンとは
最近、スキンケア化粧品で「赤」を基調としたデザインのボトルを多く見るようになりました。
アンチエイジングに効果があると勧められて購入した赤いボトルからクリームやジェル、乳液等を取り出すと、思わぬオレンジ色に驚いた方もいらっしゃるかもしれません。
このオレンジ色の成分が「アスタキサンチン」です。
アスタキサンチンは分子式 C40H52O4 で表される物質で、健康食品等で有名なリコピン等と同じ、カロテノイド色素の一種です。
自然界の至るところに含まれており、カニやエビといった甲殻類、もしくはサケの筋肉、ある種の藻類などがオレンジ色もしくは赤色に見える原因の物質です。
アスタキサンチンは抗酸化作用に非常に優れており、化粧品として広く使われる以前は健康増進のため、サプリメント等に取り入れられてきました。
経口摂取が可能で皮膚刺激性や副作用もほぼ認められないため、ヘマトコッカスという藻の一種を利用した成分の工業的生産法が開発され、品質面での改善も図られるにつれ、
抗酸化作用によるアンチエイジング等を目的とした化粧品にも用いられるようになりました。
光や熱にやや弱く分解されやすいといった欠点はありますが、高い効果を持っており最近とても注目されている成分の1つとなります。
アスタキサンチンの効果
前節でも述べましたが、アスタキサンチンを配合する最大のメリットはその高い抗酸化作用です。
化粧品に抗酸化作用目的で配合される成分はコエンザイムQ10やビタミンE等が挙げられますが、効果を比較すると、アスタキサンチンはこれらの1,000倍、
また、広く酸化防止剤として用いられているビタミンCと比較しては6,000倍の効果を持っています。
この抗酸化作用は紫外線によって生まれる活性酸素による肌へのダメージやシミ等の形成を防ぎ、また、肌表面の有用な成分の減少をも防ぐことから、
物理的に保湿を図るグリセリンやヒアルロン酸等とはまた違った形で、間接的に肌の保湿性を高める効果もあります。
この抗酸化作用と保湿作用の組み合わせにより肌表面のコラーゲンの変性が防止され、シワやシミを防ぐことができます。
アスタキサンチンと同じような高い抗酸化作用を示す物質としては、同じカロテノイド色素に属しトマトの赤色の原因となっているリコピン、ニンジンのオレンジ色の原因となっている
βカロチン等があり、どちらも化粧品や健康食品の原料として使われています。また、アスタキサンチンとリコピンは相乗効果を期待して、組み合わせて使用することもあります。
また、総称してポリフェノールと呼ばれる緑茶の成分として有名なカテキン、大豆に含まれるイソフラボン等も抗酸化作用があり、化粧品に使われています。
アスタキサンチンの抗酸化作用について
ところで、よく広告等でも目にする抗酸化作用とはどのようなものでしょうか。
端的に表現すれば、「身体に有害な活性酸素を除去する役割」の事です。活性酸素は幾つかの種類がありますが、特に肌に有害なものとして、通常の酸素に紫外線等を照射することによって
生成される一重項酸素、皮膚が紫外線を浴びることにより、過酸化水素を経由して生成されるヒドロキシラジカルが挙げられます。
これらの活性酸素は通常の酸素と比較して極めて反応性に富むため、体内に侵入した微生物の除去や細胞内の代謝に役立つ一方、正常な細胞の表面を傷つけ、さらにヒドロキシラジカルに関しては
傷つけた細胞の表面を反応性に富んだ過酸化脂質へと変え、連鎖的にダメージを与えてしまいます。
皮膚はこの反応に対して防御作用を持っていますが、この際にメラニン色素が生成されるため、シミ等の原因ともなってしまいます。
アスタキサンチンは構造内に共役二重結合という固有の構造を持ち、特に酸化されやすい性質を持つため、一重項酸素やヒドロキシラジカルの作用に対して身代わりとなって酸化されることによって
肌を守ります。
また、細胞の表面との相性が他の物質に比べて特に良く効率的に取り込まれるため、反応によって形成されてしまった過酸化脂質の連鎖反応を抑え込む働きも持っています。
前者は多くの物質に認められる性質で、アスタキサンチンより優れた作用のみられる物質もありますが、後者についてはカロテノイド色素、特にアスタキサンチンに特徴的な性質です。
アスタキサンチンの含まれている化粧品とエピソード
アスタキサンチンはその優れた抗酸化作用からアンチエイジングを目的とした化粧品に多く含まれています。
富士フイルム社の「アスタリフト」シリーズ、コーセー社の「アスタリューション」等が草分け的な存在で、今では多くのメーカーが追随しています。
しかし、発売までには2つの大きな課題がありました。
1つは成分自体の扱いにくさです。高い抗酸化作用は知られてはいたのですが、水に溶けず、成分が光や熱によって容易に分解されてしまうため、化粧品の成分として配合することが難しい状況でした。
この課題に関しては、研究開発による成分の純度の改善や乳化による可溶化、保存容器の工夫等が対策として取られ、製品化可能な段階まで漕ぎつけます。
もう1つの問題は成分自体の色味によるもので、ある意味でより深刻なものでした。化粧品は医薬品とは異なり、製品の見栄えもまた重要視されます。
スキンケア化粧品では美白や透明感を連想させる、白や透明な色味が好まれるため、カニやエビの色であるアスタキサンチンは「売れるわけがない」という意見が多くを占めていました。
また、パッケージングでも「赤」はやや敬遠される傾向がありました。
しかし、富士フイルム社はフイルムで培った「赤」の印刷技術をパッケージングのデザインに活かし、「赤い化粧品」としてブランド化して売り出した結果、これまでに無かったものとして大ヒットし、
同社の化粧品部門を印象付ける結果となりました。成分だけではなく、マーケティングの観点からも面白い逸話になります。
まとめ
現在は多くのメーカーのスキンケア、アンチエイジングを目的としたクリーム、ジェル等にアスタキサンチンは含まれています。
アレルギーも現在主流のヘマトコッカス由来のものでは心配なく、食品として摂取しても問題ない安全性の高い物質であるため、もしより肌のケアの必要性を感じ、
アンチエイジングやシミの予防等の効果を求めるのであれば、積極的にアスタキサンチンの配合された化粧品を取り入れると良いでしょう。
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