「水」と「油」のスキンケア
皆様は「スキンケア化粧品」を普段どれだけ使っていますか。マスクの生活が根付いてしまったので、以前のように口紅やチークを塗って出かける機会は減ってしまいましたが、肌のハリやツヤをより良くしたい、肌荒れを防ぎたいといった願いは変わらず、多くの製品が販売されています。製品はワセリンやハンドクリームのように手軽なものから天然の植物、動物由来の高価なものまで様々で、どれを選んで良いか分からず、とりあえずお薦めや手軽なものを試してみる、という方も多いかもしれません。
しかし、スキンケアの基本は案外シンプルです。スキンケアには一部美白などの効果を謳ったものもありますが、大半が「肌の水分量を増やして乾燥を防ぐ」ことを目的としています。そして、「肌の水分量を増やす」ため、多くの製品には水そのものや保湿力に優れた成分が含まれています。一方、「乾燥を防ぐ」ためには油分が重要な役割を果たします。肌には乾燥を防ぐために皮脂が分泌されていますが、不足してしまった場合、クリームやオイルなどで油分を補うことが必要になります。
「皮脂」とはどんな成分でできているの?
そもそも皮脂とはどのような成分なのでしょうか。皮脂とは肌の皮脂腺と呼ばれる部分から分泌される脂肪分に富んだ液体で、トリグリセリド(グリセリンと脂肪酸が結合した成分)やワックスエステル、遊離脂肪酸、スクワレンなどによって構成されています。皮脂分泌のメカニズムについては完全には解明されていませんが、適量の皮脂は肌表面からの水分の蒸発を防ぎ、かつ肌を弱酸性に保つことによって細菌等の繁殖を防ぐ働きがあることが分かっています。
しかし、皮脂の分泌は食生活やホルモンバランスの影響を受けやすく、適量の維持が難しいことが悩みの種です。皮脂が過剰になるといわゆる脂性肌の状態となり、肌のテカリやニキビなどの原因となってしまいます。その場合、体調に合わせたケアや過剰な皮脂の除去、食生活の見直しなどが必要になります。一方、皮脂が不足するといわゆる乾燥肌の状態になり、肌荒れやかゆみ、ひび割れなどのより悩ましい症状に見舞われてしまいます。この状態では肌に水分を補給してもすぐに蒸発してしまうため、皮脂を補うためのスキンケアが必要です。
皮脂を補うスキンケア①高級脂肪酸・グリセリン
では、肌の皮脂が不足してしまった場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。最も単純な方法として、水分不足を水分補給で補うように、皮脂不足をなるべく皮脂に近い成分で補うことが考えられます。皮脂の成分の中で最大の割合を占めているものはトリグリセリドですが、トリグリセリド自体は化粧品への配合にやや不向きです。そこで、トリグリセリドを構成している成分である脂肪酸とグリセリンを化粧品に取り入れます。
肌に含まれる脂肪酸の代表的なものとしてはステアリン酸やリノール酸、オレイン酸などが挙げられます。ステアリン酸は保湿よりはむしろ石鹸の原料として好んで用いられますが、リノール酸は大豆油やひまわり油などに多く含まれており、オレイン酸はオリーブ油や米ぬか油に多く含まれているため、これらの植物油をスキンケアに取り入れることによって皮脂の不足を補い、肌からの過剰な水分蒸発を抑えることができます。
脂肪酸やグリセリンは肌表面からの水分蒸発を防ぐだけではなく、肌の保水力を補う効果も持ち合わせています。これらの成分は構造中にヒドロキシル基と呼ばれる水と馴染みやすい部分を持っているため、肌にとどまる水分量を増やす効果も期待できます。夏場はベタつきが少し気になりますが、乾燥が気になる冬場のケアにはとても適した成分です。
皮脂を補うスキンケア②スクワラン
また、皮脂を補うスキンケアとしてはスクワランも有用です。皮脂には水と馴染みにくいスクワレンと呼ばれる成分が15%程度含まれています。スクワレンは酸化しやすくやや不安定な成分ですが、水素を添加してスクワランに変化させることによって利用します。スクワランは脂肪酸やグリセリンのようにヒドロキシル基を持っていないため、成分自体に保水力はありませんが、皮膚からの水分蒸発を防ぐ働きがあります。
肌からの水分蒸発を防ぐ成分としてはワセリンに代表される鉱物油も有名で、手軽にかつ安全に利用することができます。しかし、肌表面や皮脂の成分と構造が異なっており、肌と馴染みにくいため、どうしても使用感が重くなってしまいます。一方、スクワランは皮脂に含まれるスクワレンと構造が極めて似ているため、皮脂とよく馴染み、あたかも何もつけていないような使用感となります。また、スクワランは脂肪酸と比較して空気中の酸素によって酸化されにくいため、長期間安心して使用することができます。
スクワランはサメの肝油から発見された成分で、やや特別な成分との印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、今日ではオリーブ油や米ぬか油を原料として合成したスクワランが多く出回っており、同様の効果を期待できます。保湿効果に特化したほぼ100%のオイルが有名ですが、化粧水やクリームなどにも取り入れられており、好みに応じて取り入れると良いでしょう。
皮脂を補うスキンケア、どうやって取り入れたらいいの?
このように、乾燥肌の原因となる皮脂不足は適切な油分の補給によって補うことができます。鉱物油のように違和感を覚えることもなく、天然由来の安心な成分で肌に潤いを与えることができるため、毎日のスキンケアに無理せず取り入れることができます。また、植物油には脂肪酸だけではなく抗酸化作用など肌にとって嬉しい作用を持った成分も含まれているため、保湿以外にも様々な効果が期待できます。
しかし、油分によるスキンケアには注意が必要な部分があります。実は、乾燥肌の原因は必ずしも皮脂不足ではなく、肌の水分不足によっても引き起こされるため、その場合は失われた水分自体の補給が必要になります。また、肌は水分が不足した状態ではより多くの皮脂を分泌するため、油分の補充は逆に毛穴詰まりやニキビの原因となってしまいます(スクワランや鉱物油は酸化しにくくリスクは低いのですが、脂肪酸やグリセリンには注意が必要です)。この場合、オイルよりはむしろ化粧水などによる水分補給を重視した方が良いでしょう。
肌には私達を環境から守るための仕組みが備わっていますが、同時に繊細で体調変化などの影響を受けやすい存在でもあります。自分の肌の状態により関心を持ち、その時に応じたケアを行うことが、いつまでも美しくきめ細やかな肌を保つためには欠かせません。
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