2番目に身近なアルコール、イソプロパノール
貴方はアルコールと聞いてどんなものを想像するでしょうか。愛してやまない方も、体質的に苦手という方もいらっしゃるかと思いますが、殆どの方はお酒(=エタノール)を想像するのではないでしょうか。エタノールは人類の歴史の名脇役として、私達の生活を彩ってきました。お酒だけではなく、工業製品、化粧品をはじめ、ありとあらゆるものにエタノールが使用されています。
しかし、エタノールの次に身近なアルコールと聞くと、意外に思いつかない方も多いかもしれません。文芸好きな方はメチルアルコール(メタノール)、美容関係の方は高級アルコール系シャンプー等を思い浮かべるかもしれませんが、恐らく、私達の生活で次に身近なアルコールはイソプロピルアルコール、もしくはイソプロパノールと呼ばれるものです。イソプロパノールは特に医療関係の方にはお馴染みの成分で、エタノールと同様の消毒効果を持った成分として広く使用されています。また、消毒だけではなく、工業向けにも様々な用途で使用されています。
イソプロパノールはどんな成分なの?どんな化粧品に使われているの?
イソプロパノールとはどのような成分なのでしょうか。イソプロパノールはアルコールの1種で、示性式(CH3)2CHOHで表される成分です。エタノールを基準にした場合、イソプロパノールにはメチル基と呼ばれる「CH3」のセットが1つだけ多く結合しています。イソプロパノールの性質はエタノールとよく似ており、溶媒として色々な成分を溶かしこんだり、殺菌効果を期待して配合したりすることが可能ですが、エタノールよりやや肌への刺激が強いため、高濃度の原液を買って手作りの化粧水に配合するような使い方は推奨できません。また、殺菌効果に関してもエタノールより若干劣るとされており、一見して使いどころが見当たらないように感じられます。
しかし、化粧品の中でもヘアマニキュアやネイル等の分野の製品にはイソプロパノールが好んで利用されています。また、ヘアケア製品に目を向けてみると、シャンプーにはあまり使用されていませんが、コンディショナーでは色々な製品に使用されています。それはどうしてなのでしょうか。
イソプロパノールの役割①油性成分の溶媒
イソプロパノールがヘアマニキュアやネイル、コンディショナーといった製品に使用されている理由は先に紹介したエタノールとの構造の違いに起因します。構造の細かな違いにより、イソプロパノールはエタノールよりも油性成分とより馴染みやすい性質を持っています。エタノールよりも十分に油性成分を溶かし込むため、皮脂やメイクを落とす目的で配合されることがありますが、ヘアマニキュアやネイル関係の製品では有機顔料や染料といった油性成分、ニトロセルロースやアクリル樹脂といった「水をはじく皮膜を形成するための成分」が多く使用されています。
これらの成分は皮脂やメイクとは異なり、エタノールでは十分に溶かすことができません。また、リムーバー等に使用されているアセトンはよく溶かしますが、肌の皮脂や水分を奪い取ってしまい、かつすぐに蒸発してしまうため、やや使いにくい成分です。そこで、両者の中間的な性質を持ったイソプロパノールが溶媒として用いられます。また、ヘアケア製品のコンディショナーも毛髪を油性の皮膜で保護するための成分が含まれており、溶媒としてイソプロパノールが配合されます。
イソプロパノールの役割②水と油の仲介役
主に油性製品を中心に利用されているイソプロパノールですが、化粧水等、水性製品にも用いられることがあります。この場合、水中で油性成分を適切に分散させる役割が期待されています。一般的に香料等の油性成分は水に溶けにくく、分離してしまうため、そのまま配合すると使用感や効果が程なく損なわれてしまいますが、イソプロパノールを加えることによって均一に分散するようになり、品質を長期間損ねることなく使用することができます。また、イソプロパノール自体、果物等に含まれている自然な匂いであるため、少量配合する場合、製品の使用感を損ねることもありません。
「水と油を分散させる」といった目的では乳化剤や界面活性剤の利用が一般的です。しかし、界面活性剤は泡立ちやすいといった性質があるため、製品の見栄えを大きく損ねてしまいます。イソプロパノールには製品を泡立たせるような作用はなく、逆に表面張力を下げることによって泡を消す作用があるため、界面活性剤と併用する形で用いられます。
イソプロパノール、肌への刺激は大丈夫?
化粧品では水と油の仲介役として利用されているイソプロパノールですが、使用されている製品を使い続けても大丈夫なのでしょうか。高濃度のイソプロパノールはエタノールと比較して肌への刺激性が強く、また、毒性があるため飲むことはできません。しかし、イソプロパノールが使用されている化粧品に着目した場合、爪や髪など比較的刺激に強い部分のケアに使用する場合が多く、化粧水等に使用されている場合は配合濃度がそれ程高くないため、そこまで神経質になる必要はありません。
しかし、気になる場合はヘアマニキュアやネイル製品を使用する場合、使用後のケアを念入りに行った方が良いでしょう。最も心配されるのはリムーバーのアセトンと同様に「必要な皮脂まで取り除いてしまう」ことであるため、必要に応じて化粧水やハンドクリーム等を利用し、水分や油分を補うことによって、イソプロパノールの悪い影響を最小限に抑えることが可能です。
私達は長い間、最も有名なアルコール、すなわちエタノールと一緒に生きてきました。化粧品の世界でもそれは例外ではありません。しかし、イソプロパノールはその微妙な性質の違いを活かす形で、エタノールに出来ないことを補うために利用されています。「少し刺激が強い」からといって全て避けてしまうのではなく、正しくケアしながら、賢く利用してみてはどうでしょうか。
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