ナチュラルコスメの定番成分「〇〇エキス」
毎日使う化粧品、貴方はどんな基準で選んでいるでしょうか。毎日使うものだから、少しでもコスパの良いものを使いたい、できるだけ肌に優しいものを使いたい、人によって選び方はそれぞれかと思いますが、多くの人に訴求する要素の1つとして、天然由来の成分が多く使われていることが挙げられます。私達は石油を使って工場で作られたものよりも、身近な草花やスパイス、漢方薬に使われているような成分に魅力を感じます。オーガニックコスメ、ナチュラルコスメと呼ばれる製品は、多くの植物(あるいは動物)由来の成分が使用されています。
実は化粧品成分の多くは(たとえ石油系と呼ばれていても)植物から作られているのですが、「ナチュラルコスメに使用されている成分」と聞くと、多くの人は「〇〇エキス」もしくは「〇〇抽出物」といった成分が思い浮かぶのではないでしょうか。ローズ、アロエ、甘草、コメといったお馴染みの植物の名前は製品にどこか優しい印象を抱かせます。また、動物由来の成分としては「プラセンタエキス」「カタツムリエキス」等が有名ですが、製品にどこか秘薬のような印象を抱かせます。
「〇〇」エキスってどんな成分なの?
化粧品の成分は大きく2つに分類され、化学的に1種類のみの物質であるもの、複数の物質が混ざり合ったものがあります。前者は水やエタノール、グリセリン等が該当し、後者に「〇〇エキス」「〇〇抽出物」「〇〇オイル」等が該当します。前者の例として、成分表示に「エタノール」とあった場合、単にエタノールが製品に含まれていることを示しています。一方、後者の例として、ヘアケア製品等に使われることの多いユーカリ葉エキスではユーカリプトール(シネオール)、テルピネオール、ピネン等複数の物質が含まれています。また、各物質の配合量やバランスについても採取した時期や抽出方法によって幅があり、中には「安全性が確かめられているので使用しているが、含まれている全ての物質を特定できていない」といった成分も存在します。例えば、動物由来の成分として有名なプラセンタですが、プラセンタに含まれているどの物質の作用が効果を生み出しているのか、正確には証明されていません。
「〇〇エキス」「〇〇抽出物」ってどうやって作るの?
ところで、「エキス」「抽出物」はどのようにして作られるのでしょうか。一般的に化粧品で「エキス」や「抽出物」といった表現を用いた場合、それらは原料となる植物の組織から一部の物質のみを「吸い出す」ことによって得られる成分です。植物の組織を化粧品に使用しようとした場合、製品にとって不要な物質、あるいは見た目や保存性、刺激性の観点で望ましくない物質が含まれています。また、必要な物質のみを化学的に合成し、配合することは難しいです。そこで、必要な物質のみを「吸い出す」工夫が必要になります。
必要な物質を吸い出すためには水やエタノール、1,3-ブチレングリコールといった溶媒が使用されます。ホワイトリカーに梅の実を漬け込むと美味しい梅酒が出来上がるのと同じ原理で、植物の葉や実を液体に漬け込むと
成分毎の溶媒への溶けやすさに応じて含まれている物質が溶媒側へと吸い出され、化学的により安定な状態(化学平衡)へと変化します。この化学平衡は温度や溶媒の種類によって変化するため、それらを調整することによって抽出する成分の組成を変更することが可能です。
一般的に水と馴染みやすい物質のみを抽出する際は水が用いられ、油と馴染みやすい物質も抽出する際はエタノールや1,3-ブチレングリコールが用いられます。必然的に水と馴染みやすい物質がエキスとして抽出されるため、化粧品には保湿や肌のダメージ修復等の効果を期待して配合されることが多くなります。
「エキス」と「精油」ってどこが違うの?
天然由来の成分で「エキス」とよく比較されるものが「精油」です。ラベンダーやローズ、ユーカリ等は精油としてもお馴染みで、生産には同じ原料を用いていますが、製法が異なるためその性質が大きく異なります。精油は主に「原料に含まれている揮発性の高い物質」のみを高温の水蒸気を使って蒸留、濃縮することによって得られます。この時、油と馴染みやすい物質の揮発性が相対的に高いこと、また、これらの物質は水に溶けないため、得られるものは「精油」と呼ばれる芳香成分が濃縮されたものになります。
したがって、「精油」と「エキス」は役割が大きく異なります。揮発性の高さは良い香りを感じさせてくれますが、成分が濃縮されており刺激が強いこと、肌に浸透して保湿効果を高めるような成分が含まれていないことから、肌に直接塗るような用途には不向きです。また、蒸留工程の副産物であるフローラルウォーターは肌に対する刺激は少なめですが、成分濃度が低いため使用効果についてはやや弱めとなります。
「〇〇エキス」ってどうして使われているの?どんなメリットがあるの?
では、「〇〇エキス」「〇〇抽出物」はどのような目的で使われているのでしょうか。実はこれらの成分については、特定の効果を期待するよりはむしろ、商品としての化粧品をより魅力的にするために利用されています。勿論、成分自体に効果はあるのですが、配合量の制限(様々な物質が含まれているため、どうしても安全に配合できる量は少なくなります)があるため、より保湿やバリア機能の修復に特化した成分を配合したものの方が高い即効性を示すことがあります。
しかし、植物エキスを多く配合した化粧品は即効性こそ低いものの、オーガニックやナチュラルのテーマに沿う形で、刺激性の高い成分の使用を控えていることが多いです。したがって、これらの製品は使用されている成分にアレルギーを持っていない限り、肌に優しい化粧品として安心して使用することができます。また、プラセンタ等の動物由来のものについては、その複雑な効果について十分な証明こそされていないものの、製品として試してみる価値は十分にあります。ただ、特に輸入品に関してはアレルギー等に注意が必要です。
化粧品の魅力は毎日の生活必需品であるにも関わらず、他の製品のように「これを選べば間違いない」といった正解がないことです。貴方の好みや気分に合わせて、色々と選んでみてはいかがでしょうか。
コメント