昔の写真がとても綺麗に見えるのはどうして?
ふとした拍子に昔の写真を眺めたくなって、本棚や引き出しの奥にしまったアルバムを取り出してみると、心なしか昔の私自身も家族も、恋人も友達も、とても綺麗に見えることがあります。辛かったことは段々風化して、楽しかったことがずっと心に残って、素敵な想い出として蘇ります。今見るとどこかピントが合っておらず、少しふんわり、ぼんやりしているようにも見えるのですが、そこも想い出として大事にしたくなるものです。
その一方で、最近はとても簡単に写真が撮れるようになりました。スマートフォンのカメラを使うだけで、気に入った風景でも集合写真でも、あるいは自撮りでも、ボタン1つで思うままの写真が撮れます。想い出を沢山残すことが出来るのは嬉しいのですが、一方で、あまりにもくっきりと撮れすぎて困る時があります。ふんわりとした印象で取ったのに、精悍な印象になってしまった、あるいは化粧崩れや肌荒れが気になってしまって、気付いたらアプリのお世話になりっぱなし、という方もいらっしゃるかもしれません。
ナチュラルメイクと「ふんわり」「ぼんやり」
この「ふんわり」「ぼんやり」とした印象を出すことはメイクでも重要なテーマの1つです。肌のトラブルを隠しながら綺麗で健康的な肌に魅せるため、私達は日々メイクを行いますが、ふんわりとしたナチュラルメイクを目指すと肌の毛穴やトラブルが目立ってしまい綺麗に見えなくなってしまう、一方で肌の毛穴やトラブルを隠すことを優先するとファンデーションやコンシーラーを多めに使ってしまい、いつの間にかバッチリメイクになってしまう、そのバランスに常に悩まされています。
そんな悩みに応えるべく、ファンデーションやフェイスパウダーには自然な肌の質感を損なわず、かつ肌の表面を「ふんわり」「ぼんやり」見せるための成分が取り入れられています。毛穴やくすみを隠すためには化粧下地を使う方法も効果的ですが、化粧下地に含まれている成分がお悩みを「隠す」「埋める」ことを目的としているのに対して、それらの成分はお悩みを「見えにくくする」ことを目的としています。
「ふんわり」「ぼんやり」ソフトフォーカス効果
「ふんわり」「ぼんやり」とはどんな状態なのでしょうか。少しイメージが付きにくいかもしれませんが、海や川などの水辺に遊びに行ったとき、あるいは雨上がりで少し霧がかかった朝を思い浮かべて下さい。砂浜や河原の石、流れてきた木や空き瓶、あるいはいつも見ている街路樹、特に気にも留めなかったような景色が、水や水蒸気のフィルターを通すと、とても幻想的に見えることがあります。どこか輪郭がぼやけた感じになっていると、水面での光の反射も相まって、まるで別なものに見えます。
この効果はソフトフォーカス効果と呼ばれ、メイクでもとても有用です。人の目やカメラは対象から反射した光を観察して像として認識するため、光が直進している状況ではくっきりと見える一方、光が散乱した状態ではあたかも水面下の景色のようにぼんやりと見えます。ソフトフォーカス効果を持った化粧品を肌に塗ると肌表面を照らす光があらゆる方向に散乱するため、毛穴や小さなくすみ、シワなどがぼんやりと見えるようになり、遠目では気が付かないようになります。
ソフトフォーカス効果、どんな成分で期待できるの?
ソフトフォーカス効果が期待できる成分にはどのようなものがあるのでしょうか。ソフトフォーカス効果を発揮するためには、光を散乱させる(ぼやけさせる)作用の強さを示す屈折率の高さが重要になります。しかし一方で、自然な肌の質感を損ねない為にはある程度光を透過させることも必要となります。光を散乱させる成分で有名なものはUVカット成分としてもお馴染みの酸化チタンや酸化亜鉛ですが、光を完全に反射してしまうため、不透明で白く浮いたように見えてしまいます。
ソフトフォーカス効果を発揮する代表的な成分はマイカです。マイカはファンデーション等を形成する体質顔料の一種で、粉末の状態では白色(光を散乱させる性質を持っている)ですが、肌に塗るとほぼ透明(光を透過させる性質を持っている)になります。肌にマイカを塗ると元々の肌の色味はそのまま見えますが、マイカを通すことによって光が散乱するため、表面がぼやけて見えます。したがって、肌のくすみや毛穴といった部分が見えにくくなり、キメの細かい肌に見えるようになります。
また、最近ではPETやPMMAといった合成樹脂もソフトフォーカス効果を期待して使用されています。PETやPMMAはマイカと同様に適度に光を散乱させ、透過させる無色透明な成分ですが、肌表面でのすべりがよく、原料の組み合わせによって見え方や光沢感を調整することが可能です。組み合わせによっては光沢感を強め、金属のように輝かせることも可能であり、ポイントメイク向けのラメ等に使用されています。
ソフトフォーカス効果の今後
ソフトフォーカス効果に関してはより優れた成分の研究が進められています。PET、PMMAと同等の効果とすべりの良さを持っており、生分解性に優れたセルロースを材料としたものや、PMMAと比較して透過性を維持しつつ、肌の表面をよりぼんやりと見せる効果に優れたシリコーンレジン等、幾つかの成分が既に製品に取り入れられています。あまり成分自体が宣伝されることはないのですが、「ソフトフォーカス」を謳ったナチュラルメイク向けの製品が各社より発売されています。
カメラの技術の進歩やリモートワークの推進などにより、今後、より一層私達の肌はよりくっきりとカメラの画像に映し出されることでしょう。それは技術の進歩のありがたみを感じる機会であると同時に、隠しておきたい秘密を明かしてしまう、私達にとっての悩みの種でもあります。ソフトフォーカス効果は今後、私をもっと自然に美しく魅せる手段として、ますます研究、利用されてゆくことでしょう。
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