「温感化粧品」ってどんな商品なの?

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化粧品にも温もりを

 素敵な人生を過ごすために、いつもいつまでも若く健康な身体でありたい。誰もがそう願っていることだと思います。テレビやインターネット、雑誌等で日々色々な情報が流れていますが、美容や健康に関するトピックは老若男女を問わず関心が高く、目にしない日はないといっても良いでしょう。肌のきめを細やかにする、身体の老化を防ぐ等の目的で、化粧品に限らず食品やお酒、時には温泉や神社といったものまで紹介されることがあります。

  そのような中で、「身体を冷やしてはいけない」といった話をおそらく何度も聞いたことがあるのではないでしょうか。身体が冷えると血行が悪くなり、健康的に見えないだけではなく様々な不調を引き起こしてしまいます。そのため、身体を冷やさないための対策として、ファッションから食事、入浴まで色々なことが紹介されていますが、意外にも美容に最も直結する化粧品の分野では、「ひんやりとした使用感」は求められても、「温かさ」はあまり求められていなかったように思われます。しかし、最近になって「温かい」使用感を売りにした化粧品が少しずつ知られるようになってきました。肌の血行の促進や使い心地の改善など幾つかの目的で開発されたものなのですが、総称して「温感化粧品」と呼ばれています。

「温感化粧品」、どんな商品があるの?

温感化粧品にはどのような種類があるのでしょうか。一般的なものは肌の保湿を目的としたボディークリームやジェルなどに温感成分を配合し、「温める」効果を追加した商品です。温感成分によって肌が適度に「温められる」ことによって、付け心地が大きく向上し、また、肌の血行を促進する効果も期待できます。温感成分の量によって使用感も変化するため、付け心地を良くする商品には少量を配合し、防寒や発汗によるダイエットを目的とした商品にはより多くの量を配合します。

 また、毛穴などのケアを目的とした商品に利用されることもあります。毛穴に皮脂が詰まることにより黒ずみやニキビ等の原因となりますが、皮脂は高温になると柔らかくなる性質があるため、クレンジングや毛穴パック等の商品に温感成分を配合することにより、毛穴の皮脂の詰まりを取り除きやすくすることが可能です。顔に使う「ホットパック」は自分で温めるタイプの製品もありますが、パッケージから取り出してそのまま載せるだけで温まる商品はより手軽に使用することができます。

温かさを感じる仕組み①実際に温まる

では、どうして温感化粧品を使用すると「温かく」感じるのでしょうか。一部の製品は化粧品そのものが「発熱」することによって温かさを生み出します。化粧品に最も使用されている成分の1つがグリセリンで、保湿や化粧品への粘り気の追加など様々な用途で用いられていますが、高濃度のグリセリンは空気中の水分と反応して発熱する作用を持っています。

 グリセリンは構造中にヒドロキシル基と呼ばれる水と結びつきやすい部分を多く持っているため、水に非常に溶けやすいことが特徴です。また、グリセリンの濃度が高く水に十分に溶けきれていない場合、空気中の水分を自発的に取り込み、結びつこうとする作用も持っています。一般的に化学反応で「自発的に起こる」作用はエネルギーを生み出しますが、グリセリンの場合も例外ではなく、大量の熱を生み出します。

 水分を極力通さない容器やパウチに中身を充填し、使う時に封を切ることにより、グリセリンが周囲の水分を吸収して発熱し、製品を温めます。温まり過ぎて熱くならないかが少し心配ですが、幸いにも化粧品は多くの場合、「温まりにくく」「覚めにくい」物質で出来ているため、丁度肌にとって心地よい温かさになります。

温かさを感じる仕組み②皮膚のセンサーを刺激する

一方、多くの製品においては化粧品そのものを発熱させるのではなく、皮膚に備わっているセンサーを刺激することによって「温かいと感じさせる」成分が配合されています。

肌には体温を調節するための機能が備わっており、その1つとして、表皮のケラチノサイトや真皮の自由神経終末の部分に存在する温度感受性TRPチャネルが挙げられます。TRPチャネルは複数存在し、温度によって活性化される部分が異なりますが、トウガラシ果実エキスやショウキョウエキスに含まれているカプサイシンやギンゲロール、ショウガオールは43℃付近の温度を感じ取るチャネルであるTRPV1を選択的に活性化させます。したがって、肌表面の温度が十分に高くない場合でも、あたかも温かいお風呂に入浴した時のように感じられます。

また、TRPV1は温かさと同時に刺激を感じ取るチャネルでもあるため、この部分を選択的に活性化させることによって周囲の血管が刺激によって拡張され、血行を促進する効果も確認されています。しかし、この刺激作用にはデメリットもあり、「痛み」として感じてしまうことがあります。使っていて痛みを感じた場合、アレルギーや炎症の反応ではなく、あくまでも「肌がそう感じる」といった問題なのですが、敏感肌に悩んでいる場合は注意した方が良いかもしれません。

化粧品にもっと温もりを

 温めが不要にも関わらず、温かさを実現することができる温感化粧品は大変便利ですが、利用可能な成分が現状では限られており、どれも使用感の部分で課題を抱えています。熱を生み出す反応は化学の世界では一般的ではあるものの、「肌に安心して使用できる」点においてグリセリンの代わりとなる物質は存在せず、どうしてもべたついた使用感になってしまいます。また、皮膚のセンサーを刺激する、といった観点では「温感」が「痛感」と密接に関係しているため、どうしても刺激が強くなってしまいます。

 その欠点を克服するため、最近では「温める」「温かく感じさせる」作用を他の成分とも組み合わせ、刺激が少なく理想的な使い心地とするための研究が進められています。また、新しい試みとして水を吸収して発熱する性質のあるゼオライトについて、温感化粧品への応用の試みがされています。まだ少し時間が掛かるかもしれませんが、これらの研究が実を結んだ場合、将来的には今よりも大分使いやすい製品が相次いで登場することでしょう。

現時点では化粧品といえば「ポカポカ」よりもむしろ「ひんやり」のイメージが強いのですが、そのイメージが逆転する日もいずれ来るかもしれません。今後は温感テクスチャーや効果にもより注目していきたいところです。

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