化粧品に「針」が入っている?
いつまでも若く綺麗な肌を保ち続けたい、といった想いは誰もが抱いているとは思いますが、その実現は時に「痛み」を伴うことがあります。高価な化粧品を思い切って買ってみたり、刺激の強いピーリング剤を使ってみたり、その「痛み」の種類は様々ですが、その1つとして肌に「針を刺す」美容法が挙げられます。施術にはダーマペンやダーマローラーと呼ばれる器具が用いられており、先端の金属製の針で肌に穴を開けることによって肌が持っている治癒作用を引き起こし、くすみや、シワ、ニキビ跡などを改善することができます。以前はかなりの痛みを伴う施術でしたが、最近では器具の進化によってより手軽になったようです。
この「針を刺す」美容法ですが、最近では美容医療だけではなく、より身近な化粧品の分野でも取り上げられる機会が増えてきました。韓国コスメの流行や日本のベンチャー企業による新成分の開発により、「ニードルコスメ」と呼ばれるジャンルのアイテムや「スピキュール」「タウリンニードル」と呼ばれる成分が取り上げられるようになり、今日では使っている人こそ少ないものの、よく知られる存在となっています。一体、ニードルコスメとはどんな製品なのでしょうか。また、「スピキュール」や「タウリンニードル」とはどんな成分なのでしょうか。
ニードルコスメとは?ニードルの主成分「スピキュール」とは?
ニードルコスメとは美容液やリキッドファンデーションのジャンルの一種で、製品内に微細な針状の結晶を配合することで物理的な刺激による肌のターンオーバーを促したり、肌表面に小さな穴を開けて角質層への保湿成分、抗酸化成分の浸透を助けたりする作用が期待できるアイテムです。このような製品は実際に肌への効果が期待できるだけではなく、使うと心地よいチクチクとした刺激感が得られるため、「毎日使い続けたい」と思わせてくれます。
そして、このようなニードルコスメの大部分には「スピキュール」と呼ばれる成分が使用されています。スピキュールは海に生息する「海綿」と呼ばれる動物を酸や酵素で加水分解することで得ることができ(そのため、成分名としてはしばしば「加水分解シリカ」と表記されます)、成分のほぼ100%がシリカ(二酸化ケイ素)で構成されています。化粧品には直径0.02㎜、長さ0.2mm程度に結晶の大きさを揃えたものが利用されており、水や油には溶けないものの、大きさが非常に小さいため肉眼では見ることができません。
このスピキュールの表面には活性炭ほど顕著ではないものの、多くの小さな穴が開いており、様々な成分を格納することができます。好んで利用される成分はビタミンC誘導体やナイアシンアミド、ヒアルロン酸等で、そのままでは分子量の大きさや反応性などの理由により角質層に上手く浸透しないのですが、スピキュールで微細な穴を開けることによって成分が一時的に浸透しやすくなるため、より高い効果を期待することができます。
浸透性重視「有効成分でできたニードル」とは?
このように、スピキュールは主に肌に物理的な作用をもたらすことで効果を発揮しますが、最近では有効成分を針状の結晶にすることにより、浸透性を高めたものも「ニードルコスメ」の成分として利用されるようになっています。代表的な成分としてはヒアルロン酸が挙げられ、従来はスピキュールにコーティングする形で用いられていましたが、最近、ヒアルロン酸自体を針状に結晶化させ、他の有効成分を格納したものが開発されてます。ヒアルロン酸は優れた保湿成分ではあるものの、分子量が大きく水に溶けにくいため浸透性に課題を抱えていましたが、針状に結晶化したものは肌に物理的に刺さり、留まることで徐々に浸透するため、水や油にそのまま混ぜたものと比較して高い効果を期待することができます。
また、最近では水に溶けるニードルも開発されており、注目されています。2024年に話題になったものが広義のアミノ酸の一種であるタウリンを結晶化した、いわゆる「タウリンニードル」です。タウリンはそれ自身が保湿やバリア機能の修復に効果のある成分ですが、ニードル化することでその浸透性がより高くなるため、スピキュールやヒアルロン酸のニードルと同様に、角質層に他の成分を届ける目的でも利用されています。しかし、水に非常に溶けやすいといった性質が故に肌に長時間結晶として留まらないため、針による刺激が持続せず、従来のニードルコスメと比較して使用時の痛みが大きく軽減されます。
貴方の美容に「風穴を開けてくれる」存在として
このように、スピキュールやヒアルロン酸、タウリンなどを主成分としたニードルは肌への有効成分の浸透性を高める上で重要な役割を果たします。これらの成分はいずれも化粧品では一般的に利用されているもので(スピキュールの原料となるカイメンは化粧品成分としてだけではなく、化粧用のパフの原料としても有名です)、化学的にも非常に安定しているため、安心して利用することができます。従来の化粧水や美容液が抱えていた問題の1つとして、高分子の保湿成分や強力な抗酸化剤が(角質層のバリア機能や速やかな酸化によって)必要な部分に届かないといったことがありましたが、「針で穴を開ける」といったやや強引な方法で、その状況を大きく改善することができます。
しかし、ニードルによってもたらされる物理的な刺激はかなり強いもので、利用には十分な注意が必要です。ニードルの表面は肌の角質層を削り取り、バリア機能を一時的に弱めるため、肌の乾燥や炎症を引き起こしたり、成分が一度に浸透することでアレルギーのような反応を起こしてしまったりすることがあります。また、炎症までには至らなくても刺激による痛みはかなり強いため、人によっては使い続けたくない、と思ってしまうことでしょう。実際に使用した方の半分程度の方が、痛みに見合うだけの効果を感じられず、使用を止めてしまった、というデータも存在します。タウリンニードル等の水溶性のものは比較的低刺激ですが、針自体を溶かさずに製品に配合することは決して容易ではなく、普及にはもう少し時間がかかりそうです。
ニードルコスメはその痛みや刺激性の強さから、現時点では全ての方にお勧めできるものではありません。しかし、物理的な作用で成分の浸透性を高めるといった手法はとてもユニークで、より使い勝手の良い成分や処方の開発が日々進められています。遅かれ早かれ、より使いやすく肌への刺激が少ないニードルコスメが登場し、貴方の美容に「風穴を開けてくれる」アイテムとなることでしょう。
